「「あ」」
「ん?」
嬉しそうに手にしがみ付いていた双子が声をそろえて上げた。
「…鵺が死んだ」
「死にましたね」
そう言いながら二人は頷きあった。
その顔はさっきとは全く別物で、冷たく無表情な物。
一瞬背筋が冷える。
「そ、そんな顔をしなくても…」
「何を申すか、あやつはヒサを喰らおうとしたのだぞ。その罪は万死に値する物」
「あの者に礼など言いたくはありませぬが、この度だけは感謝をいたしましょう。
苦しみ悶えて死んでいった事を願わんばかりです」
「我らにもっと力があれば八千に裂いてやった物を…っ!!」
「それでは足りませぬ。地獄の猛火に焼かれる苦しみを与えねば」
ごぉおおお…っと見えない炎を燃やす二人はとても怖い。
髪が若干逆立って、目が光って見えるのは俺の気の所為か、な…?
「つ、山茶君、風雪君、俺のことでそんなに怒らなくて良いよ…?」
でもありがとね、と頭を撫でると二人の表情はへにょりと緩んだ。
「まあヒサ殿がよろしいのでしたら…」
「ヒサがいいなら…」
「鵺も死んだことですし、皐月堂様の方へと戻りましょうか」
「そうだな」
山茶君が俺の手を掴んで歩き始めた。
でも風雪君の手の温もりが無い。
あれ? と後ろを振り返ったら下を向いてもじもじとしていた。
「風雪君?」
「…ヒサ殿、そのう…図々しい願いであるのは重々承知しているのですが…」
「ん?」
膝をついて目線を同じにして続きを促す。
「…我らは…私は、貴方様の配下となった訳ですし、もしよろしかったら敬称を…とって呼んで頂けませんか…っ?」
「風雪!無礼な願いをするな!! 配下となったならばこそそのような自分本位な事を口に…「風雪…でいい?」
「「!」」
愕然としたような顔で二人は俺を見た。
…この二人の価値観は俺と全く違うみたいだ。それだけのことなのに…と思う事で喜んだり驚いたり…。
とてもいじらしくて、可愛い。
「俺はね、会ったばっかりだけど風雪の事好きだよ。
だからどんなお願い言ってくれて構わないんだよ?俺が出来る事なら何でもしてあげるから…山茶もね?」
「ひ、ヒサ様…っ」
「そのかわり」
「はいっ」
「俺の事もヒサで良いから」
「…は、はいっ」
返事した風雪は俯いてしまった。
ぱたぱたと地面になにか落ちる音がする。
…え!?泣いた!?
「も、申し訳ありません…されど【巫女】と言えども此処までお優しいとは…っ」
「流石【受邪】のみの力を持つ者…」
「巫女?じゅじゃ?」
なにそれ?と首を傾げる。
そう言えば鵺も【巫女】とか言ってた気がするけど…。
「「ヒサは(御)自分の事を知らないの(です)か!」」
そんな俺に呆然と二人は叫んだ。
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