困った。

恩返ししてくれるのは嬉しいくらいなのだけれど、こんな幼い子供に恩返しさせるなんて後ろ髪を引かれて仕方ない。


「え、えっとね、俺はその気持ちだけで嬉しいなー…」

「ご迷惑ですか…?」


うるうるとした目で緑の髪の子が俺を見る。

う…っ、そんな目で見ないで…。


「いやいや、全然迷惑じゃないよ?でも年下の子供にそんな事させるなんて…ね?
だからその気持ちだけで俺は十分…」

「では童の格好で無ければ良いのか」

「うん?」

「しばし待て」


橙の髪の子が眉間に皺を寄せてトントンと自分の額を叩く。
次の瞬間に目の前で手品のような事が起きた。

植物の成長を早送りで見ているように橙の髪の子が大きくなっていく。
それも服もそのサイズに合わせて大きくなっていっている。


「これだったら童ではないだろう」


低くなった声で橙の子…青年は俺を見降ろした。
そうですよ、見降ろしたんです。
俺よりも大きくなってしまった彼を目を点にして見上げる。


「え、ええ…?」

「我らは確かに幼い存在ですが、それは我ら人ならざるモノの中では…というだけで、実際は百と五十近く生きております」

「あ、そうなんだ…」

「しかし適年齢でない容姿をとるのは力を案外使うからな。良いか?我らが貴殿より長く生きているというのは理解出来たか?なんなら爺の姿になってみせた方が良いか?」

「やや、いいですいいです。楽な格好になってください」


そういうとしゅるしゅると橙の青年は元の子供の姿に戻った。


「恩返しを受けてくださいますか?」

「お、恩返しって…具体的にはどんな事をするのかな…?」

「まずは我らの真名を貴殿に教える」

「そして貴方様に福を呼びます」

「ふ、福?」

「はい、我らは『座敷わらし』と呼ばれる存在ですので可能でございます」


誇らしげに緑の髪の子は言った。


「我らは貴殿の家に住み、貴殿に福を招こうかと思ったのだが…」

「少々込み入った事情がありまして、貴方様の家には入れないのです…」

「しかし我らは家にとり付かないと力を最大限に発揮出来ぬ」

「そこで貴方様の働いている皐月堂様にとり付こうと思い立ったのですが、住んでいる家以外で貴方様に福を呼ぶためには貴方様の許可が必要なのです」

「さあ、許可をくれ」


そわそわと二人は俺を見上げる。
恩返しとかがしたくてしたくて堪らないというような顔を見るのは非常に微笑ましい…。


「我らがとり付けば皐月堂様自身にも何かしらの福が招かれるはずです」

「決して邪魔にはならぬ」


え、珠誉さんとかにも幸せが来るのか。…それはちょっと良いかもしれない。


「それをすることで君たちの負担になったりしない?」

「何を言われますか!」

「これは我らの生きがいぞ!」


ふんっふんっと鼻息荒く言う二人は凄く可愛い。

あー…俺この子ら好きかも。


「それならばお願いしようかな…?」


それを聞いた瞬間にぱあぁっと二人の顔が明るくなった。



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