薄暗かった外はもう真っ暗になってしまっていた。
足元も定かでない暗さの中、俺の両手を握る二人はぐいぐいと俺を引っ張っていくが、小さい鳥居をくぐった所でピタリと止まった。


「ここで良いでしょうか」

「ここらで良いだろう」


ここは何処だろうか、小ぢんまりとした森のようだけれど見た事はない気がする。


「ここは…どこかな?」

「此処は我らの治める空間」

「我らは小さいながら祠(ほこら)持ちでございます故、治める空間を狭いながら所持しております」

「そこに貴殿を連れてきた」

「は、はぁ…」

「よくわかりませぬか?」

「ご、ごめんね」

「良い。謝る事は無い」

「簡単に申しますと、此処は我らの許可なく立ち入れない…つまり安全な場所ということでございます」


丁寧に話す子の方が、掌を何かを救う形にするとそこに明りが灯った。
ようやく二人の顔をはっきり見る事が出来た。


「しばし此処に留まり、時機を見たら皐月堂様の所にお連れいたしましょうぞ」


橙の目を細めてにっこりと微笑むのは丁寧な話し方の子。
緑色の長い髪を高く結い上げて不思議な格好をしていた。
これ何て言うんだっけな…あ、水干(すいかん)…だったかな?


「その間に貴殿に伝えたい事がある」


歳に似合わない硬い物言いをする子は、着ている物はもう一人の子と同じだけれど正反対の雰囲気を放つ。
短い橙の髪をたてて、緑の目を光らせながら俺を見ていた。


「貴殿と接触を図ったのは貴殿が危うい目に会っていたからのみではない」

「貴方様にお礼を申し上げたかったのです」

「お、お礼?」

「はい」「そうだ」



話を聞くと、先日彼らと親しくしていた祠持ちとかいう人?が亡くなったらしい。
厳密には『死ぬ』というのはちょっと違うと橙の髪の方の子が言った。


「命尽きた後、そこに魂無き肉体が残る事を『死』というのならば我ら人で無いモノは『死』にませぬ。
あるのは『消滅』だけでございます」


力尽きて命の終わりを迎えると、その子が言うにはただその場から消えてしまうらしい。


「我らの同胞もその時を迎えていた―――が」


――…一時は『雨を降らせたまへ』と祈りを捧げておった人の子は一人二人と我の所に来なくなり、何時しか我の事を思い出す事もしなくなってしもうた…。
ああ 寂しや、悲しや、恨めしや――…


「人の子に忘れられてしまったという悲しみから、同胞は死の間際、呪いをこの地に吐こうとしました」


力は弱くても一時期は雨の神と崇められていた存在。
1、2ヵ月は雨がこの地に降らないという事が予想されたそうだ。


「我らはその事を心配するよりもなによりも、同胞が哀れで、哀れで…」


人の子の温もりを求めるが故に人の子を怨んで現世から消えて行くなど、悲しすぎる。
しかし自分達にはどうしようも出来ない…と途方に暮れていた所に


「貴殿が通りかかったのだ」


――あれ、こんなとこに小さい祠があったんだ?
何も置いてないなぁ…そうだこれ。こんなもので良ければ、はいどうぞ。


「そうして持っていた花を何輪か備えてくださった」

「それが同胞を救った」


嬉しそうに二人は微笑んだ。

――花?あ、あれだ、農学部の友達が捨てようとしてた…。


『何それ、捨てるの?勿体ないなー…』

『ん?ああ、有機でどれだけ品質保って育てられるかの実験で育てただけだからなぁ…。
研究室にはもう一応飾ったし、畑にでも撒いときゃ肥料になるかと思ったんだけど…なに、欲しい?』

『そんなにはいらないけど、ちょっともらっていーい?家に飾るから』

『好きなだけ持ってけー』


と言われてもらった名前もわからない白い花…。


「あ、あんなので?」

「貴殿にとって他愛の無い行為でも、同胞には久方振りの人の子の温もりであった」

「同胞は泣きながら礼を申しておりました。
『これで恨むことなく消える事が出来る』と。貴方様は我が同胞の恩人でございます。
その礼を同胞の代わりに伝えに参りました」


二人は身だしなみを整えて、その場に正座をすると小さい頭を下げた。


「「誠に有難う御座いました」」

「え、あ、や!?やめてやめて、俺そんなつもりじゃ…」

「礼すら出来ずに消えて行った同胞の為に我らが貴殿に恩返しをしたい」

「我らは卑小な存在ではありますが、卑小なりの力を有しております故」

「「どうか我らの恩を返しを受けては貰えぬか(ませんでしょうか)」」


ぴったりとそろう可愛らしい声で俺はそうお願いをされてしまった。



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