ぽろぽろぽろぽろと涙がこぼれる。
涙で視界が滲んだ。
だから気付かなかった。
彼の手が自分の喉から離れていることに。そしてゆっくりと頭を撫でている事に。
「お前も…か…?」
ぼそりと呟かれた言葉に。
泣き止むまで頭を撫でられた。
「ついておいで」
泣きやんだ俺に向かって美しい鬼は表情を変えずそう言った。
「え…」
「何か」
「いえ、あの、だって…」
殺してくれるんじゃ…。
「気が変わった。ついておいで」
腕を掴まれて引きずられるように歩く。
「仮名が必要か………『百舌』でいいか?」
「も、もず?」
「枝に刺した餌を忘れてしまう百舌鳥のように、思い出などそこらへんの枝に刺して忘れてしまえば良い」
哀しい思いを抱いたまま生きてゆくといつか溺れてしまう。
と呟いた横顔を今でも我は思い出す。
あれは珠誉様自身の事だったのだと今では分かる。
自分を引き取ったのも自分と同じ悲しみを抱く者と分かったからだと言う事も。
このご恩は決して忘れない。
例え自分は人が嫌いでも、珠誉様が望むなら我は尽力する。
―――あの方を、あの方が心から好いている『人間』の元に返してあげるために。
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