顔を上げると荷物をたくさん抱えて立ちあがる百舌君がいた…ってか、それ零れるよ?!
はらはらしていると案の定いくつかぽろぽろ零れた。
その内の明らかに割れ物を走り寄ってぎりぎりで受け止める。

少し驚いた顔で俺を見る百舌君の手から半分ほど荷物を受け取った。


「重いでしょ?どこに運べばいいのかな…?手伝うよ」

「おや優しい御方でやんすね。
珠誉殿も百舌殿も大変だ。二人だけというのは何かと不便でしょうに。
おまけに百舌殿は珠誉殿に荷運びなどはやらせようとしやせんしねぇ」


…え、あれだけの量一人で?!

裏口からちらっと見えるだけでもかなりの量で、二苗さんはどうやって運んできたのかと思うくらいだ。

二人…。
大変…。


「あの…良かったらなんですけど、俺をアルバイトとして雇ってみませんか?」

「…は?」


表情に乏しい珠誉さんの顔が驚きの色に染まる。けれどそれも一瞬の事で


「いえ、十分「その話、良いですね」


断ろうとした珠誉さんを百舌君が打ち消した。


「珠誉様、我(わたし)も一人、手が欲しい所でした」

「…では、私が」

「珠誉様を働かせるわけにはまいりません」


ぴしゃりと撥ね退ける百舌君。
…意外と、強いぞこの子。


「………百舌が必要なら…」


腕を組んで困ったように眉を寄せていた珠誉さんはしぶしぶ頷くと奥へと下がっていった。


「お前」

「はい?」


あれ、百舌君の空気が変わった…?


「今から荷を運ぶ。ついて来い」

「え、はい」

「ぼさぼさするなよ」

「はっ、はいっ!」

それから運び込む場所を教えられてほぼ全部俺に百舌君は運ばせた。
…何この扱いは…。少し悲しくなる。




「しかし珍しい…百舌殿が珠誉殿に意見を…それも逆らうような…」


雨でも降りやすかね、と目を細めた二苗に百舌は鼻を鳴らして笑った。


「ふん、白々しい。こういうのを望んだのをお前であろう」

「おんやぁ、おわかりで?」


にょほにょほと笑う二苗。百舌がこの化け猫がと舌打ちをする。


「まあ、我もそれを望んだから利用したまでだが」

「何か思惑でもあるんで?」

「我は珠誉殿の幸せを一番に願う。
………人に傷つけられた心の傷は、人にしか治せぬ。
我はあいつに賭ける。結界を難なく破りこの庵に足を踏みこんできたあいつに」

「そうでやんすか。まぁ、あっしは楽しませてもらうだけでやんすから!
でも、ここに置くなら仮名を考えなければいけないのでは?」


そうだな…と考えて、百舌は人間を呼んだ。





「お前、最初の名前の文字はなんだ」

「へ?『久』です」

「ならばお前のここでの呼び名は久(ひさ)だ」

「安易でやんすね…」


苦笑いをする二苗さん。

久遠 幹人(くどう みきひと)改め、久。ここでアルバイトをする事になりました。



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