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小学生の頃からずっと、
精市となら、結婚してもいいかな、と思っていた。

幼稚園からの幼馴染みで、ずっと隣にいた精市となら……

【Promise】

「私、今から幸村君に告白してくる!!」
いつもなら誰もいないはずの放課後の教室で、大きな声が響き渡った。

「…………えぇ?!」

何テンポか遅れて、2人目の声も廊下に響いた。
「えっと…小鳥の好きな人って、精市だったの?」
「そうだよ。そうでなきゃ、今から告白しに行く!、なんて宣言しないでしょ?」
「た、確かにそうだけど…」

まさか小鳥が、精市のことを好きだったなんて…
驚かないはずがない。

「それで、愛里は、いいの?」
「いいのって、何が?」

友達の質問の意味が分からなくて、首を傾げた。
「だーかーら!私が今から、幸村君に告白しに行こうとしてるんだよ?アンタは、それでいいの?」
「え…」

そう言われて、初めて気づいた胸の痛み。
チクチクするような、ドキドキするような…
この胸の痛みは、何だろう…

「アンタが幸村君と幼馴染みで仲良いの、知ってるけど……」

小鳥の表情が曇ったのが分かった。

「で、でもさ、わざわざ私に言わなくても…ね?」
「だって、私、アンタが幸村君のこと…
 好きなんじゃないかって、ずっと思ってたから」

小鳥の曇った表情が、一瞬泣きそうに歪んだ。

「え?わ、私?!私は、別に、精市のこと…」

何とも思ってないよと苦笑いした後で、一瞬心臓が重たくなったような気がした。

「……じゃあ、いいのね?幸村君、優しいから、私のこと何とも思ってなかったとしても、付き合ってくれちゃうかもしれないんだよ?」

そう言われて、もっと、重たいものがずしんと、胸にのし掛かってきたような気がした…

「い、いいよ…私、小鳥が好きな人と幸せになるの、私も嬉しいから…」

言ってる最中にまぶたが熱くなったが、必死にこらえて笑顔を作った。

愛里の言葉を聞いて、小鳥は少しホッとしたのか、頬を緩めていた。

「じゃあさ、約束」

何?と返すと、小鳥は張り切ったように

「もし、私が告って成功しても、私と変わらず友達でいること!
 で、もし私が振られたら…」

座っていた椅子から勢いよく立ち上がる。

「もし振られたら、幸村君のことは、愛里にぜーんぶ、任せるから!」
「な、何よそれ!!」

それが、約束?

小鳥は教室を出ていく前に、1度だけこちらを振り向いて、「へへっ」と笑って…

「じゃあ、行ってくるから、待ってて!」

と言ってからすぐ、走っていってしまった。


バタバタ廊下を走る音が聞こえなくなった後、愛里は机の上に突っ伏した。


「待ってて」と言われたから、待ってるしかないのだろう。

時計の秒針の音が聞こえる。

その音を聞いていると、何だかいろいろなことが頭をよぎっていく―――――――――

―――――――小学生の頃からずっと、精市となら結婚しても良いかな、と思っていた。

それは、今でも変わっていない。

でも…

精市のことをずっと見つめていたのは、私だけじゃなかったんだ

と、心の奥まで痛感させられる。

もし、小鳥と精市が付き合うようになれば、精市は、今みたいに自分の隣にいることはなくなってしまうのだろうか…
ずっと、隣にいて、ずっとずっと、見ていた人が……
ずっと当たり前だったことが、当たり前じゃなくなるのだろうか。

あの2人が上手くいかなければいいのに…
とさえ思ってしまう自分がいる。

そんな自分が…私は……

もう何分たっただろう。
考え事をしていると、時間が早く過ぎるように感じる。
教室の窓から差し込んでくる光は、もうオレンジ色になりつつあった。
窓を開けようと、机をたったその時だった。

―――ガラガラっとドアが開き、ハンカチで目を押さえながら小鳥が教室に戻ってきた。
「…っ!!小鳥、どうしたの?なんで、泣いて…」

「早く…幸村君のトコ、行ってあげて」
「え…?」
「やっぱり、幸村君は、アンタじゃなきゃダメなの。
 行ったでしょ?幸村君はアンタに任せるって」
赤い目で笑う小鳥。

「ほら、早く行きなっ!」
肩をポンと叩かれた。

「う、うん!!ごめんね小鳥!!行ってくる!!!」

夕焼け色に染まる廊下を、愛里は走っていった。


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