ああもうどうしよう。
結局昨日はあんな捨て台詞をはいたあと、自分でもどうやって帰ったのかわからないくらいにただ一目散に家まで走った。ブンちゃんは心配してくれたらしく、夜何通かのメールをくれた。まああんな別れ方しちゃったら心配して当前だ。(逆にされなかったら寂しい)
ブンちゃん 21:10 件:no title ------------------- どうしたんだよ?
ブンちゃん 22:23 件:no title ------------------- もしかして、あれか こないだ苗字のポッキー 勝手にバックから もらったこと?
ブンちゃん 23:15 件:no title ------------------- ごめんな… 今度ぜってー買うから 許して
まあそうだとは思っていたけれど、一週間前のポッキー神隠し事件はブンちゃんの仕業だったのか。それにねブンちゃん、勝手にバックから持ってくことは貰うとは言わないよ。 でも昨日は感情に任せて少し言いすぎちゃったかもしれない。それにもしかしたら勘違いってこともあるし。滅多にメールなんてよこさないブンちゃんが3通もくれたんだ。それに対しても、結局わたし返信しなかったし…うん、今日ちゃんと謝ろう!
でもやっぱり、いざ教室の前に立つと緊張するものでなかなか扉を開けられない。うう、ここでウジウジしてても仕方ない。 思い切って扉に手をかけようとしたその瞬間。
「おっす」 「ふきゃあああ!」
どんがらがっしゃん。掃除用具入れのロッカーをKOして見事に転倒。みんな見てる、恥ずかしいよ、朝から災難すぎるわ。
「おまえ、なにしてんだよ」
ぷ、と吹き出しながら、ロッカーを立て直すのは正しくわたしの悩みの種の張本人。丸井ブン太。誰のせいだと思ってるんだ!そう叫びたいのをぐっと堪えて、立とうとした、
「いっ…」 「?、おい!」
足首に激しい痛み。力も入らなくてへたんとその場に座り込む。ああ本当に泣きそう。縋るようにブンちゃんを見上げると、びっくりするくらい真面目な顔で座り込んできた。
「足挫いたのか?」 「…たぶん」 「いくぞ」 「どこへ?…って、うわ!」
ブンちゃんはぐいっと強引にわたしの手を引っ張って気づいたらそこは背中の上だった。なんて華麗なんだって感心している場合じゃなくて。
「いいって!重いでしょ?」 「あるけねーくせに威張んなよ」 「…ありがと」 「素直でよろしい」
華奢なくせに軽々とわたしを持ち上げすたすた歩く。普段は女の子みたいな顔してるくせにこうゆうときだけすごい男の子になっちゃうんだ。心臓がうるさくて仕方ない。
「せんせーこいつ捻挫したから見てやってー」
ブンちゃんは保健室を開けると同時に大きな声でそういった。保健の先生は心配そうな顔で寄ってきて、てきぱきと処置してくれる。気づいたら足首は綺麗に固定されていて、一人で立てた。
「そんな重症じゃないわよ、でも気をつけてね」 「ありがとうございます」
二人で失礼します、と声をそろえて言って保健室を出る。ブンちゃんはいつもの何倍も遅く歩きながら心配そうにわたしの顔をのぞきこんでくる。 「苗字平気か?一人で歩ける?」 「うん、大丈夫。まだちょっと痛いけど、そんな大したことないみたいだし」
そう答えるとブンちゃんの顔は、ぱあっとお花が咲くような笑顔になって
「よかった!」
なんてわたしの頭をぽんぽん叩く。 胸がいっぱいになって奥の方がきゅん、とする。ありがとうって言いたいのに、なんだか恥ずかしくってまともに目が見れないよ。
「…昨日はごめんね」 「ん?ああ!別に、俺こそごめんな」
二人して同時に笑顔になる。わたしの気持ちはころころ変わってなんて嘘つき。昨日はあんなに嫌いって思ってたのに、今は笑顔ひとつで胸がいっぱいになる。やっぱりずるい、男の子って生き物は。きっと地球規模なんてものをはるかに超えているんだ。勝てっこない。
そいつは宇宙人だ!
ゼロに近い勝算。
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