睡眠 | ナノ










「名前ちゃん」
「はい?!」


いきなり名前を呼ばれて思わず声がうらがえった。

いつもみたいに綺麗だなあなんて思いながら見とれていたら、なぜか段々と幸村くんの顔が大きくなって気づいたらその美しい顔は私の間近にあった。(錯覚とかじゃないからね!)

ゆ、幸村くんが私の名前を呼ぶなんて何事?なんか私したっけ?でもでもでもこれはその、私幸村くんに話しかけられてる?!いろんな思いが頭の中がぐるんぐるんして幸村くんの顔が直視できない私はとりあえず目を左右に泳がせた。


「これ、丸井から」


そう言って幸村くんが渡してくれたのはCD。ああなーんだそうゆうことかあ。そういえば丸井にいつか貸したっけ、返してくるのがあまりにも遅いからてっきり借りパクされたかと思ってた。
少しがっかりしたけれど、まさか幸村くんの手から戻ってくるなんて…!ありがとう丸井。今は君が神様に見えるわ。


「こうゆう音楽よく聞くの?」
「うん。でも音楽好きだからわりと何でも聞くよ」「へ〜今度俺にも何か貸してくれないかな」
「!、もちろんっ」


ありがとう、なんて微笑む幸村くんはもうまさに王子様そのもの。わたし、今幸村くんとお話してるんだよね?ああこれでしばらくは何でも乗り越えられる気がする。
幸村くんの周りにはいつだって女の子たちの群れができていて、その中に入る勇気がない私はいつも眺めているだけだった。でも今はその幸村くんが私の目の前で笑ってる。ああなんだか信じられない!
ありがとう神様!ありがとう丸井!


「そういえば、さ」
「ん?」
「名前ちゃんって、丸井と付き合ってるの?」
「へ?!なななな何言ってるの!」
「あれ俺の勘違いかな」
「だだだだって丸井なんてただの幼馴染以外の何物でもない!」
「そっかよかった」


幸村くんは相変わらずにこにこしていて私もつられてにこにこする。けれど、よかった?って。そのあの、どういう意味ですか幸村くん。私はなんて言葉を返したらいいのか分からなくなった。でもだんだん体が熱くなるのが分かる。

「顔、真っ赤だよ」
「…!!!」


ああ、幸村くんは意地悪だ!ぜったいわかって言ってる。体中の血がぐらぐら煮えてるような感覚がして目眩がする。そんな私を見て幸村くんはまた一段と笑顔になる。そして口を金魚みたいにぱくぱくさせる私に幸村くんは体を少し屈めて一言。





「そうゆうとこが可愛いんだけどね」




耳元で囁かれた声は頭の中に響き渡って、私の体内を毒みたいに巡っていきました。









林 檎 を 一 齧 り




091230








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