睡眠 | ナノ










大袈裟かもしれないけれど。俺の世界の全ては、たった一人の大切な子の為にあるんだと思う。
紅い頬。震える唇。俺を見上げる潤んだ瞳。全てが俺を夢中にさせて、情けない程一瞬で虜になった。始めは自分でも驚いた。それまで女になんて興味なかったし。テニスが楽しくって仕方がなかった俺には、正直女なんかどうでもよかった。
でも名前に逢ってから、こんなに大切で愛しいものがあるってことを初めて知った。…こんなこと言ったら。笑われるかもしんねぇけど、


「ブンちゃーん!ココア買ってきたよー」


長いマフラーを揺らしながら、白い息を弾ませ駆け寄ってくる。
俺だけに、向けられる笑顔。二人並んでベンチに腰を掛ける休日。
こんな幸せが当たり前だなんて。

「俺って、世界一の幸せもんだな」


小さく呟いた言葉は淡い風に飲み込まれ、隣で不思議そうに首を傾けている##name_2##には聞こえなかったみたいだ。こんな些細な仕草にさえ、ため息まじりの笑顔が溢れる。


「べつにー、名前可愛いなーって思ってただけ」
「…ばか」


すぐに赤く染まる頬も、桜色の唇も。すべてが愛しくて、愛しくて、愛しくて。


「なー、お前幸せか?」


思わず口から溢れた疑問に、名前は一瞬驚いた眼をしたけれどすぐに優しく微笑んだ。


「…ブンちゃんが私の幸せだもん」


名前はそう答えると恥ずかしそうに俯いた。なんだかこっちまで照れ臭くなって「俺も、」と素っ気なく言葉を返すと、名前も嬉しそうに微笑んで俺の頬にココアを押しあてた。


「ほら冷めちゃうよ?」
「ん、サンキュ」




やっぱり、俺は幸せ者だ。だって世界で一番愛しい人の幸せと自分の幸せが2つで1つなんだから。これから先もずっと、おんなじ夢を二人一緒に見続けていたら俺はとろとろに溶けてしまうかもしれない。でも綿飴みたいなこの世界で君と一緒に溶けていけるなら、それはきっとどんなお菓子よりも甘い味がするだろう。






君は胸焼けするほどに甘いお菓子






090203






back