ああ、イライラする。
どうして俺がこんな女なんかに振り回されなきゃなんねぇんだ。
「ねえ総悟、トシくんはどんな女の子が好きなのかな」 「さー」 「トシくんは、どんな髪型が好きなのかなぁ」 「さー」 「トシくんの好きな食べ物ってマヨネーズ?でもマヨネーズって食べ物じゃあないよね」 「・・・」
いつでもトシくん、トシくん。 土方、二言目にも土方、四六時中土方土方土方。
「そうごー?」
アイマスクで視界を塞いでいても分かってしまう。きっと今は不思議そうに俺の顔を覗きこんでるんだ。 イライラする。こんな感情も全部クソ土方の所為にしてしまえば丸く収まるんだ。 そうだクソ土方カス土方の所為。
「寝ちゃったの?」
きっと今は不機嫌な顔してる。 眉毛を下げて、あからさまに落ち込んだ顔。 自慢じゃないけど、俺は名前のいる前じゃあ一度だって寝たことはねぇんだ。 寝られるわけがねぇ、こいつの前では寝れない。
ああ、イライラする。 「…ノイローゼになりそうでさぁ」
静かにそう呟くと、狸寝入りしてたの?なんて少し怒った声が聞こえる。俺がいつ寝たっつったんだ。 ゆっくりとアイマスクを取ると、視界は真っ白な世界で。だんだんと浮かび上がるシルエットに、眩暈がする。
「おはよう、そーご!」
だーから、最初から寝てないでさぁ。 でも、名前はそりゃあもう腹立たしいくらい嬉しそうな笑顔を見せるもんだから、そんな悪態つく気もすぐ消えてしまうんだ。
「名前、そんなにクソ土方のこと知りてぇのかい?」 「くそとか言わないっ!だってトシくんかっこいいもんっ」
そんな頬赤らめて、下俯いて。 かわいーですねぃ、あんたは。そんなにあのマヨラー野郎が好きですかぃ? あーあ、素直な笑顔を見てると、だんだんイジメたくなってきやした。
「そーかい、じゃあ教えやしょうか?」 「ほんとう?!」 「俺ぁ、名前に嘘は吐かないですぜぃ」 「総悟だいすきっ」 「そのかわり、お願いひとつだけ聞いてくれやせん?」 「ん、お願い?なにー?」
なんでもいいなさい!と胸を張る名前に、俺はにっこりとわらって顔を近づける。
「そ、総悟?どうしたの?」
ぽかんと口を開けて首を少し傾げてまあるい瞳で見つめてくる。 疑いの欠片もないその体を両手でぐいっと引き寄せると、鼻の頭がくっつくくらい名前の顔が近くにあった。
頬を林檎みたいにさせて固まる姿が面白くて、俺は腕に力を込めた。
「情報料は、前払いでお願いしまさぁ」 「な、」
言葉を紡ごうとした名前の唇に優しく唇を重ねた。
「ななななななにするの?!」 「ごちそうさまでしたー」
さあ仕事仕事、肩をグルグルと回しながら立ち上がり屯所の廊下に出た。 後ろで何だか聞こえる気がするがぁ俺には関係ねぇ。
「ざまぁみろ」
その言葉は土方にだか、名前にだか、そんなのどっちだっていいけれど。 とにもかくにも、楽しみはこれから。
俺ぁ案外、もうハマってるのかもしれねーや。
あまい響きで飾る微熱
110106 ※書き直し
back
|