睡眠 | ナノ
















「うおー!お前の弁当うまそー!」


学校の一番の楽しみといっても過言じゃない、そんな幸せな昼休み。目をキラキラさせながら私のお弁当を覗き込むブンちゃん。そんなに見られたらお弁当に穴があいちゃうよ。そう言おうとして顔をあげるとブンちゃんの横にはにっこり微笑む王子様の姿があって、思わず目を伏せた。


「これ自分で作ってるの?」
「う、うん」
「へえ…本当においしそうだ」


自分が褒められたわけでも無いのになぜだか顔が熱くなる。
幸村くんは隣のクラスの男の子で幼なじみのブンちゃんと同じテニス部。ルールを知らない私から見たってすごいんだってわかるくらいに、テニスが上手で、王者立海を率いる素敵な部長さん。テニスだけじゃない、勉強だってできてしまう。顔立ちも綺麗だし、しぐさや声や身のこなし、周りを包む雰囲気が一般庶民な私なんかとは全然ちがう。もう非の打ちどころがない。

まさに王子様という言葉がぴったりだ。


「てか幸村くんそろそろ廊下行ったほうがよくね?」
「あ、そうだね」
「モテる男は辛いねえ〜」
「ブン太だって人のこと言えないくせに」


幸村くんはクスクス笑いながらじゃあ、またね。と手を振って廊下に出て行った。ああ、折角話せるチャンスだったのに、目もまともに合わせられなかった。そんな後悔の念に駆られていると、途端に廊下から女の子たちの黄色い声が飛び交い始める。


「…なんか今日いつも以上に女の子たくさんきてる気がする」
「そりゃそーだろ」
「へ、なんで」
「は?お前知らないの?」


なんか今日特別なことなんてあったかな。ひなまつりは過ぎたし…だいたい幸村くんとひなまつりなんて関係性無いよね。脳をフル稼働させて考えても、 まったく思いつかない。そんな私を見てブンちゃんは「はあ〜」とわざとらしく大きな溜息をつく。


「誕生日!」
「だれの?」
「幸村くんのにきまってんだろぃ!」


頭がまっしろになる。そんなの聞いてない、知らない。何してるんだ私。幸村くんの誕生日なんてきっと立海の女の子の8割、いや9割は知っているはずなのに。…ああもう馬鹿!


「大丈夫か?」
「全然」
「まあ平気だって、幸村くん毎年誕生日プレゼント受け取らないらしいし」
「そうなんだ…って、どうして?!」
「それは俺も聞いたことねーけど…」


目を丸くして、ブンちゃんに迫る。あんなにモテモテできっとたくさんもらえるはずなのに、もらわないの?ってことはもし私が仮にプレゼントを用意していたとしても受け取ってもらえないの?さっきから色んな思いや考えがぽんぽんぽんぽん頭に流れ込んできて、ぐちゃぐちゃだ。


「二人とも俺がいない間にずいぶん盛り上がってるね」
「ゆゆゆゆきむらくん」
「あ、ちょーどいいとこに帰ってきた!なあ幸村くん、なんで毎年プレゼント貰わないんだ?」


…馬鹿!それ本人に聞いちゃうの?今ここで?
口をぱくぱくさせて二人の顔を交互に見やる私の思いなんてお構いなしにブンちゃんはガムをぷうっと膨らませてパチン、と割った。幸村くんの顔は一瞬笑顔からびっくりしたような表情に変わってまたすぐに美しい笑顔に戻る。


「なんだか申し訳なくて、みんなきっと心からおめでとうって渡してくれてると思うんだけど」


少し眉を下げて微笑む。
そんな表情にも私の心臓はどくどくどくどく鳴りやまない。


「でも、そうゆう気持ちは特別な、大切な人だけに向けてほしいんだ。もし俺のことを特別だと思ってくれているのならその気持ちには応えられないからね」


本当に心底申し訳なさそうに言う幸村くんに、心の奥がずきんと痛む。
明日になってしまうけれど、おいしそうだと言ってくれたお弁当を作ろうかな、だとか泡よくば一緒にお話しながらお昼を過ごせたらな、だとかそんなふわふわした気持ちは一気に弾けて消えた。なんだか一瞬でも浮かれていた自分がすごく馬鹿らしく思える。ああどうしよう、本当に涙が出そうだ。


「おい、」


ブンちゃんが俯く私の顔を覗き込む前に、走り出した。この空間にいたら窒息してしまいそうだ。お昼休みの騒がしい声もみんなの駆ける足音も何も聞こえない。どくんどくんどくん。ただ自分の心臓の音だけが痛いくらいに耳に届く。


「ねえ!」


透き通るような、あまりにも綺麗な声がして、気づくと片手を力強く掴まれていた。
手の主は一瞬でわかった。でも振りむけないよ、だって今私ひどく情けない顔してる。


「こっち向いてくれないかな」


今どんな顔で私の背中を見ているんだろう。そんなことを考えるだけでも心拍数はどんどんあがるし、体も固まって動かなくなる。どうして、なんで追いかけてきたの?優しさや同情なんてほしくないよ。そんなことされたってどんどん自分が可哀そうになっていくだけ。


「あのさ」


聞きたくない、歯を食いしばって止めているつもりなのに、雫は頬を伝ってぽたぽたと落ちてゆく。次発せられる言葉が怖くて、ぎゅっと目を瞑った。










「お弁当、作ってきてほしいんだ」






「…へ?」
「俺今日誕生日なんだけど、もし迷惑じゃなかったらプレゼントに作ってきてくれないかな」

なんて酷くあほらしい声なんだと自分でも思った。でもその言葉はあまりにも予想外で、私の体は喜ぶことも泣くことも忘れたみたいに固まる。これは夢なんだろうか、目のまえにいる王子様は本当に本当に、
「幸村、くん?」


そう聞くと、幸村くんはどうしたの?なんてくすくす笑いながら私の瞳に残る雫を指で拭う。夢じゃないの?じゃあどうして、なんで、疑問ばかりが脳内を駆け巡る。


「だってさっき、貰わないって」
「…ああ、そういうことか」


納得したように満面の笑みになる幸村くん。どうゆうこと?私の中じゃあちっとも解決してないよ。眉を下げながら幸村くんの顔を見つめると、強く掴まれていた腕が放されてそのまま頭の上に降りてきた。































「俺だって特別に思ってる子からのプレゼントなら欲しいんだけどな?」










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幸村聖誕祭ゴッドネスガーデンさまに提出幸村くんおめでとう!いつまでも大好きです。










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