黒百合の花束を | ナノ



弟はまだ帰って来なさそうだから、夕方にまた顔見に来ると言って一旦家に帰ることに。その前に博士の家に立ち寄ることにして向かうと、そこに小さくなった弟とこの前博士の家にいた小さな茶髪の女の子が丁度帰ってきたところだった。


『新ちゃん!』

「げ、姉ちゃん…!」

『は?今「げ」って言った?』

「イッテナイデス」


ランドセルを背負った、昔に一度見た弟がその場にいた。近づくと、申し訳なさそうに俯いて小さく「悪い」と呟いた。


『海外で一緒に暮らそうって言ったお母さん達を断ったんだってね』

「う、うん…」

『だから、私も日本に残ることになりました』

「えっ!?」


その言葉が意外だったのか、弟は目を見開いて顔を上げる。本来私も海外に移住する話だったのだけど、お母さんが新ちゃんに会いに行った時に「日本に残るって断られちゃった」って落ち込んだ声で聞いて、じゃあ保護者として私が残るって提案した。お父さんには私だけでも海外に来るよう言われたけど、兄達もいるから大丈夫って言えば渋々引いてくれた。


「ねぇ、この人…あなたの家族?」

「ああ。血は繋がってねぇけど、俺の姉だよ」

「義理のお姉さん…?」


隣にいた女の子が首をかしげて私を見上げる。
そういえば自己紹介してなかったな。


『工藤家の養子なの。工藤雪姫です、よろしくね』

「灰原哀…よろしく」

「元々組織の人間だったんだけど、色々あって組織を抜け出したんだ…って、その色々の部分は姉ちゃんなら分かるか?」

『この前博士に少し聞いたし…そこに“いる”からなんとなくは』

「あ、やっぱり?」

「なに?どういう事?」

「科学者であるお前にとっては現実味がない話だから信じなくてもいいけど…姉ちゃんはこの世にはいない人が“視”えるんだよ」

「…は?」


弟が簡単にそれを説明して、そこにいるお姉さんの特徴を言えば今までとは違い、驚いた表情を顔に出して、悲しそうな顔で周りを見渡す哀ちゃん。「そこだよ」って指をさすと、お姉さんがいる場所の隣に移動した。


『未練が強ければ鮮明に視えるの。多分、強ければ強いほど会話も出来るんじゃないかな』

「…そう…本当に、お姉ちゃんがここにいるの…?」

『間違えてなければね。あなた、自分の名前覚えてる?』


そう聞くとその人は縦に首を振って、声が聞こえないから人差し指をゆっくり動かして空に一文字一文字名前を教えてくれた。


『み・や・の・あ・け・み…あってる?』

「あってるわ…!」


どうやら本当に姉のようで、同時に哀ちゃんは私が視える事を理解してくれた。お姉さんの方を向いて哀ちゃんは今まで色々な事を話したかったんだろう事をポツポツと言い出した。私にしか見えてないけど、お姉さんはそれを嬉しそうに頷いて聞いていた。

二人だけにしてあげようという弟の配慮で、私と博士と弟の三人は地下の研究室へと移動する。


『それで?今その薬を飲ませた組織についてはどれくらい把握してるの?』

「ほとんど何も掴めてない状態だよ…怪しい奴は何人かいるんだけどな」

『じゃあその組織に所属している人も分かってないって事?』

「ああ。俺に薬を飲ませた人物はジンやウォッカといった酒の名前のコードネームがある。灰原もシェリーっていうコードネームが与えられていた」

『お酒…』

「最近色々あって、奴らと関わってそうな人物を三人にまで絞れたんだが…確信がねぇんだ」


頭をガシガシと掻いてそう言う弟の手を掴んで、頭を掻くのを止めさせる。乱暴にすると将来禿げるわよ。


『お姉ちゃんに何かお手伝い出来る?』


笑って聞くと弟は少し考えた後、「明日頼みたいことがある」と。チラッと扉の方を見たから多分、哀ちゃんには聞かせたくない話なんだろう。彼女がいない時に話したいんだと思う。今もいないけど、いつ彼女が地下に来るか分からないしね。

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