黒百合の花束を | ナノ

モニターと銃声


部屋に案内されると、執事さんが密封袋にいれた証拠品を見せてくれた。ご主人の寝室に三日連続で置かれてた二枚のメモ用紙と使用済みの弾丸。これだけで犯人が見つかるなんて奇跡に等しいでしょう。
奥さんが言うには、ご主人がこれを見つけた時に感情に任せて使用人達に聞いて回ったらしく、ご主人の指紋はもちろんのこと、使用人全員の指紋もベタベタについているようで、何の役にも立たないらしい。

でもこの子がいるから、と弟に抱きつく母に、弟本人は苦笑いしていた。


「そういえば有希子、あなた前の事件でコナン君と一緒だったそうね」

「ええ!この子推理をズバズバ的中させちゃって!さーすが私の」

「私の…?」

「……祖父の兄の娘の従兄弟の叔父の孫にあたる子って感じ!」


お母さんそれはちょっと遠いな。もうそれは他人では。

とにかくご主人に話を聞かなくては何も進まないと、執事さんに提案をしたが、当の本人は現在クラシックを聴きながら優雅に読書中らしく、一、二時間は出てこないだろうとのこと。読書中の邪魔は妻であろうと許さないらしく、素華さんでさえ部屋に入れないという。命を狙われている可能性があるのに部屋に一人は危ないのでは?とお母さんが聞くと、部屋には監視カメラが取り付けられているらしく様子が随時確認出来るようになっているとかで、一度全員でモニターを確認する事になった。
モニターはメイドさんや執事さん達が交代で見張っているらしく、屋敷や部屋の入口はもちろん、階段やお庭にも設置されているのが確認出来た。ただ、屋敷全体を見れる訳じゃなく出入口や旦那さんが一人で過ごすことが多い部屋のみ取り付けているらしい。


『あの、この人は?』

「ああ、彼は庭師の土肥でございます」


お庭の方のモニターを見ると人影が動いているのが見えて聞くと、庭師の人だと執事さんが教えてくれた。繁さんが言うには、明日は亡くなった前妻のお誕生日の様で、彼女が好きだった花を念入りに手入れしてるのではということらしい。
そんな繁さんは原稿を仕上げなくてはならないとかで、執事さんに後の事をお願いして部屋を出ていった。退室する時も「もう少し美しい女性達に囲まれていたかった」と紳士らしいのは流石だ。何事もなく終わったら雑談配信のネタにしようかな。


「うーん、本当に残念」

『何が?』

「ほら、お母さん達のミス帝丹。結果が出る前に中止になっちゃったんでしょ?」

「結果なら出たわよ。二人ともピッタリ一万票ずつで引き分け!」

「でも変なのよねぇ。勝負がつくように用意された投票用紙は二万一枚だったのに、一票足りなくて…その一票を巡って大騒ぎ!」

「それでミスコンの表彰式が中止になったんだったわね」


それはファンの人達はモヤモヤしながら帰って行ったんだろうなぁ。日本中から来たってさっき言ってたし、二万一枚用意された投票用紙の内二万枚が投票されたってことはそれくらいいたんだろうし。というかピッタリ一万票ずつってすごいな。
そんなお母さん達の話を聞いてか、蘭ちゃんが「ねえ」と声を掛ける。少し前に古着を整理していたらおじさんの制服を見つけて、ポケットに紙切れが入っていたらしいのだけど、どうやらそれが投票用紙だったようで。


「どっち?どっちの名前が書いてあったの!?」

「英理?私?どっちなの!?」

「あ、でも…お父さんそのまま洗濯しちゃったみたいで、紙、ボロボロになってて…」

「本当でしょうね?正直に言いなさいよ!?」

「いいのよ、蘭ちゃん!お母さんに気を使わなくても!」


つい数秒前まで「あと一票入ってたら有希子が勝ってた」「英理には負けてたわよ」なんて言い合っていたのに、女の戦いって何時でも怖いわ。まあ、勝負事は決着をつけたいのが人間だから仕方ないよね。

そんな風に雑談をしていると、執事さんが「旦那様が手を上げている」とモニターを見て教えてくれた。拳銃を持って誰かが室内にいるのではと母が言うと、執事さんがコーヒーを持って行った際に部屋を出た時に内側から鍵をかけていたからそれはないのではと否定した。そのままモニターを見ていると旦那さんは倒れてしまい、急いで素華さんと執事さんを除いた全員が部屋へと向かった。執事さんは部屋の合鍵を取りに、素華さんは警察と救急車へ連絡をしてくれるようだ。
バタバタとした足音を聞いて、先程部屋に戻った繁さんが出てくる。何があったのかと付いて来て、事情を説明すると前に出て部屋のドアを叩いて旦那さんに呼びかける。返事は無かったものの、代わりにパンパンと銃声が二発鳴り響き、執事さんの到着を待っているよりはと蘭ちゃんに扉を無理やりこじ開けてもらった。中には旦那さんが倒れていて、傍には黒いモヤモヤのようなドロドロしたような何かが立ち尽くしている。


『…』

「?雪姫姉どうしたの?」

『…いや、ちょっと……』

「…なにか見えるの?」

『黒い、なんというか、ドロドロしたの?が、いて…』

「し…じゃない、コナン君、雪姫ちゃんお願い」

「うん」


私が見えている事に気がついたお母さんは、新ちゃんにそう言うと英理さんと一緒に捜査を始めた。新ちゃんは私と離れないように手を繋いで、少し離れた所に移動してくれて、後ろに蘭ちゃんが付いて来てくれた。


『ごめんね、行きたいところあれば行って大丈夫だからね』

「ううん、姉ちゃんとここで大丈夫」

『そう?』


ぎゅって手を握ってくれている新ちゃんは、それでもここから何か分からないかとずっと遺体の方を見ている。捜査に混ざりたいんだろうから、蘭ちゃんいるから行っても構わないんだけどな。

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