黒百合の花束を | ナノ

お父さんの代理


『お父さんが?』

「そうなのよ〜。これから行くんだけど、雪姫ちゃんも着いてくる?」


お父さんが知り合いから「亡くなった姉の旦那が殺害予告を受けているから犯人を見つけてくれないか」と相談を受けたらしく、本人は締切が近くて行けないからお母さんが代理で話を聞きに行くそうでわざわざ日本に帰国してきた。それを帰国して家に来てから教えられて私は色々と慌ただしくて。

頼むから帰国することくらいは事前に教えて欲しい。

その殺害予告を受けている人はお金持ちのおじさんらしくて、枕元に使用済みの弾丸と「楽にしてやる」「後ろに気をつけろ」とワープロで書かれたメモが会ったことから、犯人が屋敷の中にいる事だけが分かっているようで。

お母さんと一緒にその屋敷に着き、門にあるベルを鳴らした。本当に「お屋敷」と呼べる建物で、門から庭があり奥に屋敷がある、誰もが想像するお金持ちの家って感じ。少し待てばスピーカーから男性の声で「どちら様でしょうか」と聞かれたから、お母さんが旦那さんか奥さんがいるかと聞くと、「少々お待ちください」と。
また更に少し待てば屋敷から老人が出てきて、門の中に入れてくれた。おじいさんはずっとこの屋敷に使えてる執事さんだとかで、お母さんが事情を説明すると奥さんに確認するから一旦屋敷の中に案内してくれることになった。


『綺麗なお庭…』

「庭師が毎日手入れをしておりまして、亡くなられた奥様も気に入っていた庭です。奥様にお話をしてまいりますので、こちらでお待ちください」


屋敷の中に入り、玄関で待つように言われて執事さんが奥さんを呼びに行った。しかし、帰ってきたのは執事さんではなく、罵声だった。


「この泥棒猫!!何しに来たのよ!?帰りなさいよ!!分かってんのよ、あんた達が幹雄ちゃんの愛人だってことは!!どうせ遺産目当てなんでしょうけど!?」

「違うわよ、人の話を聞きなさい!」


来たのは若い女の人で、お母さんを見るなり怒鳴り散らして来た。どうやらこの人が奥さんで、私とお母さんの事を旦那さんの愛人だと思い込んでいるらしい。

どう見たって遺産目当てなのはこの人の方だろうに。


「聞かなくったって分かるわよ!!」

「分かってないじゃないのよ!…って、あら」

『あらぁ』


奥さんの怒鳴り声を聞こえていたのか、奥の部屋から駆けつけて来たのは蘭ちゃんとそのお母さんである妃英理さん。そして弟の新ちゃん。


「英理…!」

「有希子!……相変わらずの若作り…でも、流石の帝丹のプリンセスも、年には勝てなかったようね?」

「あら…そのセリフそっくり返すわ。コンサバメイクの年増の女王様?」


英理さんの皮肉に皮肉で返したお母さん。数秒お互いを見つめあった後、両手を握りあってキャッキャと女子高生の様に再会を喜びだした。一瞬の険悪な空気にオロオロしてた蘭ちゃんはキョトンとしたように二人を見ていて、仲良いから大丈夫だと耳打ちすると、「そうなの?」ともう一度二人を見た。

お母さん達は会うのが本当に久しぶりのようで、そりゃそんな女子高生みたいな喜び方にもなるかと納得。10年振りなんだって。


「でもプリンセスなんて言われたの高校の学園祭以来よ!」

「懐かしいわね。あの時のミス帝丹は姫と女王の対決で盛り上がったから…」

『ミス帝丹って、20年くらい前の?』

「あら、雪姫ちゃんでも知ってるくらい語られてるの?なんだか恥ずかしいわね」


二人は高校が同じで、蘭ちゃんと新ちゃんも通っている帝丹高校の出身。今は無いけど20年前くらいにはミスコンなるものがあって、帝丹高校のプリンセスと呼ばれたお母さんと、帝丹高校のクイーンと呼ばれた英理さんの対決が日本中に広まって、色んなゴタゴタが重なって中止になり、それ以来なくなってしまったと昔お母さんから聞いたことがある。その頃にはお母さんは既に女優デビューしてたし、英理さんは16歳でハーバード大学に留学を薦められる程の才能で有名だったから日本中にファンが大勢いたんだって。


「あ、あのー…」


身内で盛り上がってるところに、訳が分からないという顔で間に入ってきたさっきの若い奥さん。


「この人達いったい誰なのォ?妃弁護士の知り合いみたいだけど、幹雄ちゃんの愛人だったら素華、妻として困るしィ〜…」

「そうなの?」

「違うわよ!私達は優作に頼まれて…」

「ああ、もしかして貴女方が有希子さんと雪姫さんですね?」

「え?ええ、」

『そうです』


丁度階段から降りてきた男性が会話に入って来た。この人がお父さんに相談した友人の藤枝繁さんで、お父さんから「忙しいから妻と娘を代わりに連れていく」と聞いてはいたらしいものの、思っていた以上に若くて分からなかった、なんてお世辞貰っちゃった。
ただ、夫の命を守るために一千万円で小五郎さんを雇った妻の素華さんと違って、繁さんは報酬がない頼み事。それを聞いて雇った金額が金額だから私もお母さんも素で驚いてしまった。


『一千万…!?』

「小五郎君、そんなにぼったくってるの?」

「…ぼったくるだけならまだマシよ……」


ため息混じりに英理さんがそう言うと、執事さんが証拠を見せてくれると言って客室に案内してくれる事になった。流石金持ち、廊下が長い。

長い廊下を歩いている間、お母さんが英理さんにどうしてここに居るのかを聞いた。小五郎さんが依頼を聞いた時に「身内の仕業だという証拠が揃っている」と聞いて、その前日前々日に800万程を使って、依頼人の素華さんに会いに行ったらその証拠というのが大した物じゃなく、今は事務所で酒に潰れて寝ていて、仕方なく英理さんが代理で詳しい話を聞きに来たのだという。


「は、はっぴゃくまん!?」

「シー!」


驚く私とお母さんに恥ずかしそうに俯く蘭ちゃんと、呆れたような顔の新ちゃん。800万の内訳が麻雀仲間とかに300万で、それを取り返そうとして競馬競輪で500万。で合計借金が約800万なんだそう。麻雀だと役満じゃん。四暗刻だよもう。

| back |
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
×
- ナノ -