黒百合の花束を | ナノ

足のない人


『…で、今、新ちゃんが絶賛エレベーターの中ってワケ…』

《そういうこと》


哀ちゃんから連絡が来て何事かと聞けば、今東都タワーのエレベーターに爆弾が仕掛けられていて、知り合いの刑事さんと弟が様子を見に行ったら二人で閉じ込められたと教えてくれた。元々は別の小さな女の子が閉じ込められていて、それを助けたらエレベーターが動き出して止まってしまったらしい。
あの子、爆弾の解体は出来るでしょうけど、どうしてそう危機に突っ込んで行くかな。


『東都タワーだっけ?』

《ええ》

『閉鎖されてるよね、とりあえず近くまで迎えに行くわ。教えてくれてありがとう』


電話を切って外着に着替えてすぐに東都タワー付近まで車で向かった。途中、パトカーが何台もサイレンを鳴らしながら走っていたから、おそらくここ数日ニュースになってる爆弾騒ぎ関係なんだろうな。数年前にも同じようなことあったから、同じ犯人なんだろうか。

一般人が入れるところまで行けば、警察の人はもちろん、爆発処理班の人達も大勢東都タワーの外で待機していて、中にいるのは弟と一緒に入った刑事さんだけだろう。爆弾の構造がどうなってるか分からないが、万が一の場合は弟が解体するんだろうな。大丈夫だとは思うけどこういう時やっぱり不安になる。そんな気持ちで東都タワーを見上げていれば、スーツを着た女性が私に駆け寄って来る。女刑事で弟とも知り合いらしい。彼女の車に哀ちゃんが乗っていて、私を見つけて「江戸川コナンの身内」ということを教えてくれたと。


『それで、あの、今どういう状況ですか?』

「現在、コナン君と刑事がエレベーターに閉じ込められている状況で、エレベーターの天井に爆弾が仕掛けられている事を把握しています。水銀レバーが仕掛けられていて、少しでも揺れたら起爆する恐れがあると報告を受けてます」

『じゃあ、爆発処理班やレスキュー隊が天井に乗った振動で爆発するって事ですか』

「そうなります。爆弾の構造は三年前の爆発事件と同じものと一致したので、これから爆発処理班が機材を受け渡し、無線でやり取りしながら中にいる二人が解体することになります」


やはり弟が解体するんだ。刑事さんは言葉を濁して教えてくれたけど、本人がやるって言い出したんだろうな。あの子ならそうする。
小さくため息を吐くと、横にサングラスかけた男の人が来て「大丈夫だ」って東都タワーを見ながらそう呟いた。

待って、この人足ない。
足ないのに声聞こえた。


『え、』

「?どうかされました?」

『あ、いや。なんでも』


キョトンとしてる私に首を傾げた刑事さんに聞かれて、慌てて首を横に振る。

足がないってことは多分、というかもう「そういうこと」なんだろうけど、声聞こえるのが初めてでどういう反応したらいいのかが分からない。

というかこの人誰。


〈…ん?〉

『…え…っと…』

〈お前、見えてんのか、俺が〉

『はい』

〈声も聞こえてんのか〉

『はい』


サングラスの人は私の視線に気づいて、少しキョロキョロした後そう聞いてきた。小声で答えると「そうか」と小さく呟いて、もう一度「大丈夫だ」と私の頭を撫でるような仕草をした。実際には手はすり抜けてしまっているのだけど、頭の上で撫でているように手を左右に揺らしていた。


『警察だった方ですか?』

〈ああ、今エレベーターにあるっていう爆弾と同じもので、数年前に死んだ〉


この人、その恨みでここにいるのだろうか。これだけはっきり視えてるってことはそれ程未練があるのだろうし、会話も出来ているから相当な恨み辛みなんだろうな。
でも声色的にはそれ程に犯人を恨んでいるという物ではなさそうなのよね。

この人は殉職する前に、さっきの女刑事さんとペアで組んでいたらしく、たまにこうして事件現場に来たりしているらしい。だから昔の弟の事も、今の弟の事も、たまに弟に同行して事件現場にいた私のことも知っているらしい。

その人と話していれば、弟は爆弾を解除出来たらしく東都タワーから出てきていた。中継していたマスコミの人達に囲まれて、少しだけ話をした弟は女刑事さんに連れられて私の元まで歩いてきた。


「あ、お、姉ちゃん…」

『怪我はない?』

「う、うん…大丈夫…」

『ならいいのよ。他にやる事はある?』

「えっと、少しだけ目暮警部とお話してもいい?」

『いいよ、行ってらっしゃい』


頷いて言えば、弟は離れた場所にいた目暮警部の元へかけて行った。何かを話したあと、目暮警部は近くの人に指示を出した。

そんなやり取りを見ていると、またサングラス人が話しかけてくる。


〈よかったな、無事で〉

『そうですね、ありがとうございます』

〈なあ、これからも今みたいに話しかけてもいいか?〉

『…まあ、大丈夫ですけど。どうして?』

〈あまり話せる奴がいなくて暇なんだよ。成仏もしたくても出来ねぇし〉


本当はあまり関わらない方がいいって言われてるけど、この人は悪霊とかじゃないと思うし大丈夫だろう。いつかサングラスの人のお友達とも話し相手にもなって欲しいって言われて、この人の友達ならきっとその人も大丈夫だろう。


『お兄さん、お名前は?』

〈松田陣平。元刑事だ、よろしくな〉


サングラスを外してそう言ったお兄さん。

お兄ちゃんの友達にいなかったっけ、そんな名前の人。

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