黒百合の花束を | ナノ

落し物


「Oh!クールキッドの友達ですかー?」


クールキッドと呼ばれた弟は、私と平次君を「友達」として紹介してくれた。


『二人と出掛けてたら、この子が近くに知り合いがいるっていうものだから、だったらその人も一緒にご飯でもと思って』

「OK、OK!じゃあ支度して来まーすから、リビングで待っててくださーい!」


家にあがって、教えてくれた方に進むと弟と平次君はお手洗いを借りたいと行って、玄関からすぐ横の扉に入っていった。すぐに戻ってきた二人と一緒にリビングで待っていれば、ジョディ先生はラフな格好で準備が出来たと言いに来た。
四人で部屋を出て、エレベーターで一階に下りるまで軽く自己紹介をすれば、ジョディ先生は「仲良くしてくださーい!」と笑顔で言ってくれた。


「でも、驚きまーした!クールキッド達にこんなcuteな友達と、外国人の友達がいたなんて!」

「cute…は姉ちゃんやんな。外国人?」

「日本人にしては色が黒いですしー…あなたの日本語ちょっとおかしいね!」

「アホ!!大阪弁は立派な日本語じゃ!!!」

「オオサカベン?駅弁の仲間ですかー?」

『アメリカで言う、南部訛りとかそういうのよ』

「Oh、そうでしたかー!」


聞きなれた関西弁も外国人からすれば、変な日本語に聞こえるらしい。拗ねたような顔の平次君を慰めながらマンションの外に出ると、さっき隣の部屋から出てきた酔っ払いの内の一人がマンションの外観を写真で撮っていた。何をしてるんだろうと見てると、カン、と高い音を鳴らして折りたたみ式の携帯電話が落ちてきた。


『携帯電話?』

「何でこんな物が…」

「上から…」


ふと上を見上げれば、更に大きなものが落ちて来ていて咄嗟に避ける。それは大人の男性で、地面に叩きつけられた衝撃から頭から血が流れていた。


『うっ…』

「姉ちゃん大丈夫か?」

『う、うん…でも少し離れとくね…』

「そうしとき」

「姉ちゃん、“視”えたら教えて」

『あ…うん…』


弟の言葉に頷いて、少し離れたところにいる写真を撮っていた女性のところまで離れる。ギリギリ三人の会話が聞こえる場所で、落ちてきたのは恐らく21階からで、その男性はジョディ先生の隣に住んでいる高井という人らしい。その言葉を聞いて女性が駆け寄ると、本当にその高井という人だそうで。ジョディ先生が言うにはこの女性は高井さんの恋人。遺体を確認して泣き崩れてしまった。

確か、この人が部屋から出た時一緒に二人の男性がいて、高井さんはその時居なかった。聞いたら酔ってベッドで寝ていたはずだと。彼女はこれを自殺だと言い、そう思った理由を聞けば、玄関には鍵が掛かっていてその鍵は今持っているものだけで、寝室にいたら呼び鈴は聞こえないから人が出入り出来ないって教えてくれた。


「とにかく話は、この携帯に残ってる落ちる直前まで電話してた人物と、少し前にメール出した人物の二人と警察を呼んでからや。姉ちゃん!警察と救急車、呼んでくれるか?」

『わ、分かった…!』


平次君に言われてカバンから携帯を取りだして、言われた通りに連絡をした。高井さんの恋人である下田さんは、携帯に残っている電話していた相手とメールの相手を呼んでもらって、警察とその二人が来るまでマンションのロビーで待つことに。電話とメールの相手がすぐに来て話を聞き、あとは警察が来てから捜査してもらうだけ。
だけど、平次君達は待っている時間勿体ないと言って、下田さんから鍵を借りてジョディ先生と一緒に21階に上がってしまった。

これだから探偵の好奇心は。

救急車と警察がほぼ同時に到着し、すぐに鑑識だろう人達の現場保存が始まった。ある程度写真を撮れば、すぐに遺体は担架で運ばれていく。刑事さん達は下田さん達に詳細を聞き、下田さんが私の方を指さして「彼女も第一発見者なんです」と言うと、彼女達の話を一通り聞いた後に私にも話を聞きたいと近付いてきた。


「ん?雪姫君じゃないか!?」

『お久しぶりです、目暮警部』


近付いてきた刑事さんは目暮警部で、昔、父がよく捜査に協力していた人だ。たまに父と散歩中に事件に遭遇して、その時に見たことあるから知っている。なんなら弟がよくお世話になっていたしね。


「おー!また随分と美人になって!海外に行っていたと聞いたが、いつ帰って来たんだね?」

『半年程海外にいて、一昨日に帰国を』

「そうか、帰国して早々このような事件に遭って災難だったな…ところで、雪姫君は何故ここに?君は実家暮らしだっただろう?」

『友達とご飯食べに行こうと思って、誘いに来て…マンションから出た時に被害者の携帯が落ちてきて、その後すぐに被害者が落ちてきたんです』

「ほー、その友人は今どこに?」

「彼らなら、刑事さんと同じ質問を僕達にした後、下田さんが持っていた高井さんの部屋の鍵を持って21階に行きましたけど…」

「…ちなみに、それってどんな人でした…?」

「外国の女性と、関西弁の少年と、眼鏡をかけた子供の三人でしたよ」


その言葉を聞いた目暮警部と、後ろにいた聴取をメモしていた刑事さんは鑑識さんを数人連れて21階へと急いで上がって行った。反応からして既に認識されているんだろう。平次君とジョディ先生はまだしも、小さくなっても探偵として目立つ行為してる弟はどうかと思う。命狙われてる可能性ある自覚あるのかしら。


「ねえ、あなた」

『はい?』


ふと声をかけられれば、下田さんが不安そうな顔で私を呼んでいた。


「さっき、眼鏡をかけた子が「見えたら教えて」って言っていたけど…?」

『あー…信じなくてもいいんですけど、私、昔から幽霊とか、そういうのが見えるんです。だから、もし遺体から出てきたら教えてって事だと思います』

「でも、教えなかったってことは、見えなかったの?」

『勿論、見えない人もいます。この世に何かしらの未練が強い人ほど鮮明に見えるんです。ただ、あなた方三人の話を聞く限り未練がありそうなので、部屋に行けばいるかと思います…正直、あまり見たくないのでついて行かなかったんです』


そう言うと下田さんは「確かに私も見えたら行かないわ」と苦笑いで答えた。理由は怖いからだそうで、それが例え彼氏でも何が理由で未練があるか分からないから、呪われそうで怖いと。
少し会話をしていれば、悲しさは拭えたのか下田さんの目元から涙が消えていた。

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