お話するよ

「純歌、元気だった?」

【げんき】


今日は、隣の家に住んでる阿笠博士に呼ばれて、お家にお邪魔してる。隣の家だからお父さんも景光さんも昴お兄さんに変装して着いてくる必要がないから、一人で。

インターホンを鳴らすと、叔母の灰原哀ちゃんが出迎えてくれて、手を繋いで中に入れてくれた。ソファに座らされて、「少し待ってて」と言われる。大人しく待っていると、コップにジュースを入れて持ってきた哀ちゃんと、何かの端末機器を持っている阿笠博士が地下から出てきた。


「待たせてしまってすまんのォ」

【だいじょうぶ】

「これを君に渡そうと思ってな」


渡されたのはスマートフォンと、コナン君が持っている探偵バッジ。


『?』

「このスマートフォンにはワシが作ったアプリが入っておってな。実際に試した方が早いじゃろ」


そう言うと、博士は自分の携帯から渡されたスマートフォンに電話を掛けた。通話が出来る状態にすると、博士の携帯をスピーカーにして机に置いた。


「そのスマートフォンを電話をするように耳に当てて、「あいうえお」と言うてみぃ」

『?』


声が出ないのに?と思いながら、言われた通りにする。すると、博士の携帯から「あいうえお」と音声が聞こえた。


『!!』

「君の吐息と、口の開き具合から発音を読み取るアプリを作って、そのスマートフォンに入れたんじゃよ。声は哀くんの記憶を頼りに君の本来の声に似せておる」

《おしゃべりが、できてる》

「そうじゃ!同じ機能をこの探偵バッジにも付けておるから、いつでも連絡が取れるというわけじゃ!」

「そのスマートフォンには少年探偵団の皆と、阿笠博士。それから昴さんの連絡先が既に入ってるわ」

《ありがとう、あいちゃん…!》

「いいのよ、これはあなたへのプレゼント。ほら、早く昴さんにも教えてあげなさい」

『!』


頷いて、博士との通話を切る。哀ちゃんがくれたジュースを飲み干して、ソファを飛び降りて、2人にお辞儀したら、持ってきたノートとペンと、貰ったスマートフォンと探偵バッチを抱えて隣のお家に走って帰る。

玄関を開けて、急いでお父さんと景光さんのいるリビングに行くと、二人はどうしたのかと首を傾げた。


「そのスマートフォンと…これはボウヤ達が持ち歩いてる探偵バッジか?どうしたんだ?」

「これを貰ったのか?」

【これでおはなしができるの】

「おはなし……会話が出来るってことか?」


頷いて、よく理解出来てない二人に実際にそれを使用してみせる。スマホに入れられている昴お兄さんの番号は、お父さんが昴お兄さんになった時用の連絡。だからお父さんのポケットに入っている端末が鳴った。それを不思議そうに取って、通話が出来るようにしたお父さん。さっきみたいにスマホを耳に当てて、「お父さん」って声は出ないけど言ってみたら、お父さんの端末からそれが聞こえた。


「……」

「ど、どうした?」

「…これは、純歌の声か?」

《あいちゃんが、わたしのこえに、にせてくれたって》

「…そうか…」


お父さんはそう言うと、端末を景光さんに渡してどこかに行ってしまった。不思議そうな顔して、景光さんは端末を耳に当てた。


《ひろみつさん》

「…え、なに。これ純歌ちゃんが喋ってるの?」

《そう!こえも、にせてるんだって》

「へぇ〜!すげぇ…!え、なんであいつどっか行ったの?」

《わかんない》

「なんて言ったの?」

《おとうさんって、よんだ》

「…なるほど」


そう言うと、景光さんは通話を切ってしまった。ソファに座って、おいでって手招きされたから近づくと、景光さんの膝に乗せられる。


「多分嬉しかったんだな」

【うれしかった?】

「だって、自分の子供の初めての声が「お父さん」だったんだろ?俺だったら嬉しくてその場で泣くかな」

【おとうさん ないてるのかな】

「さぁ、泣いてるかは分からないけど、嬉しかったのは確かだろうね。俺も純歌ちゃんに名前呼んでもらって嬉しかったし」


景光さんに頭を撫でられる。嬉しくて、それが顔に出るのが恥ずかしくてどこか行ってしまったのか。お父さんはあまり顔に出さない人だから。

景光さんは、貰ったスマートフォンを手に取ってポチポチと何かの作業をして行く。すぐに返してくれて、何をしたのかと首を傾げると「俺の連絡先と、「赤井秀一」の方の連絡先も登録しといたよ」と。確認すると、確かに増えていた。誰かに見られた時に困るからと、景光さんは「お兄さん」、お父さんは「赤井秀一」じゃなくて「お父さん」って名前で登録されていた。


「いつかこのノートが無くても会話できるようになるといいね」

【そうだね】


ノートに書く文字だと感情が出ないから、やっぱり言葉で会話したい。でもこの体になって声を出さない生活に慣れてしまったから、喋ることに慣れるところから始まるんだろうな。
実際、端末から聞こえる声は、話すことになれてなくて、舌っ足らずな陰キャみたいな話し方だったから。


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