約束

コンコンって扉をノックする。「どうぞ」って声が聞こえて、扉を開けると昴お兄さんが二人いた。


「どう?変なところない?」

【だいじょうぶ】

「ふむ、見た目は問題ないな。慣れるまではその姿で過ごせ」

「あとは利き手か…」


景光さんは右利きらしい。お父さんがが左利きだから、今まで昴お兄さんになった時も左利きだった。だから、昴お兄さんになる為に今から利き手を変えなければならない。急に利き手が変わったら混乱させるからって。

どうやら景光さんのことは私を除いて、工藤夫妻にしか話していないらしい。コナン君にも内緒だと言われた。理由を聞いたけど教えてくれなかった。

ふと、この部屋に来た理由を思い出してお父さんの服を引っ張る。リビングに置きっぱなしにしていた携帯が鳴っていたから持ってきたと、携帯を渡すと、画面を確認して部屋を出ていった。多分電話を掛け直しに行ったんだろう。


「純歌ちゃん」


景光さんが、屈んで私を呼んだ。目線を合わせてくれてるんだと思う。何?と首を傾げると、「いくつか聞きたいことがあるんだけど、いい?」と聞いてきた。頷くと、景光さんはありがとう、って頭を撫でてから、聞きたいことを話し出した。


「ここに来る前の記憶がないって言うのは、本当?」


記憶が完全にないわけじゃないけど、私が知らないのでそういうことになってる。要は記憶喪失。頷くと、景光さんは何か考え出した。


「昔、俺も声が出なくなったことがあってさ。その時は友達が助けてくれて、声が出るようになったんだけど…記憶喪失か…」


景光さんは自分も経験して、それが助けになるかもと思ったんだろう。この人すごくいい人では?怖い組織にいたんだよね?向いてなくない?


【ひろみつさん、ほんとうにこわい人たちのところにいたの?】

「うん、そうだよ」

【やさしいから、向いてないとおもう】

「…っはは!そうか?」


吹き出して笑う景光さんは、どこか悲しそうに見えた。

景光さんは元々警察官で、怖い組織に潜入捜査官として入っていたらしい。そこは人を殺したり、悪い取引をするってお父さんから聞いたことある。お父さんも、そこに潜入捜査官として入っていて、景光さんともう一人別の人と一緒にチームみたいなのを組んで行動してて。その時に景光さんが警察官だって組織の人にバレて、殺されそうになった所をお父さんが助けたって。
景光さんはそれが理由で、世間的には死んだ人間になってる。お父さんと一緒で、生きてることがバレたら困るんだって。、


「もう一つ聞いていいか?」

『?』

「その…安室透って人、知ってるか?」


安室透。コナン君が住んでる探偵事務所の下の「ポアロ」っていう喫茶店で店員をしてる人。あと、コナン君を預かってくれてる毛利小五郎って言う探偵さんの、お弟子さんで、お父さんの事が大嫌いな人。
それを、ノートに書いて見せると、景光さんは呆れたように笑った。さっき教えてくれた声を出せるようにしてくれてお友達っていうのが、安室透さんだって。つまりは幼馴染らしい。


「お父さんはこの沖矢昴の姿で、あいつと話したことあるか?」

【分かんない】

「そっか…純歌ちゃんは会ったことある?」

【いっかいだけ、あるよ】


ノートにそう書くと、景光さんは目に見えて喜んだ。おやつを見せられて耳をピンって立てる犬みたいな、そんな感じ。だんだん頭に犬耳も見えてきた。


「げ、元気だった?」

【たのしそうに、ケーキ作ってたよ】

「…ケーキ?」

【あたらしいメニューって言ってた】

「…へ、へぇ…そっか…」


よく分からないと言った顔の景光さん。
一度、コナン君に「街を案内してあげる」って言って、ポアロに連れていってもらった。その時に紹介されたひとりが、安室透さん。顔面偏差値高すぎてビックリしたよね。顔面偏差値90だよ。APP17はあるよ、あの人。

その時に、「店長から新作メニューを任された」って言って試食として色んなケーキを食べさせてもらったことがある。


「美味しかった?」

【おいしかった】

「そうか…俺が沖矢昴に慣れたら一緒に行こうか」

【行く】

「よし、約束!」


景光さんは右の小指を差し出した。「左出して」とノートに書けば、思い出したかのようにあっ、て声に出して右手の小指から左手の小指に変えた。沖矢昴は左利きだから、こういう所から慣れていかなきゃ。


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