話したい事

目を覚ましてから数週間。寝たきりだった事で衰えていた体力も戻り始めて、声も徐々に出始め、会話も出来ている事から自宅療養しつつ通院に切り替わった。

そして退院したから更に数週間後。景光さんから電話が来て「明日ひま?」って聞かれた。有希子さんに病院の日じゃない事を確認して伝えると、「明日朝からお出かけするから!」って言われた。でも景光さんここ数日は忙しいって一昨日くらいに言ってたような…って思ったら翌日本当に朝から迎えに来た。お父さんも一緒に行くらしく、有希子さんにめいっぱいお洒落にしてもらった。なんでこんなにお洒落するんだろう。


『どこに行くの?』

「純歌ちゃんが行きたかった場所!」

『行きたかったばしょ?』


どこか行きたいって言ったっけ…?

車に乗って暫くすると大きな建物の前で停まった。明らかに知らない所だし、行きたいと言った記憶もない場所だった。どこだろうって思っていれば、景光さんに何があるか分からないからと抱えられて中に入る。連れられるままにエレベーターで上に行って、大きな扉の所で景光さんとお父さんは止まった。


「開けるね?」

『うん…?』


何故か扉を開ける確認をされて、頷いてから景光さんは扉を開けた。
そこは広い子供部屋みたいな所で、黄色とピンクの可愛いパズルみたいなマットにお人形が沢山あって、窓の近くにベル姉が立っていた。


「Hi、純歌」

『ベル姉!』


部屋の中に入ると景光さんは下ろしてくれて、駆け寄るとベル姉は両手を広げて受け止めてくれた。


「遅くなったけど、ベルモットと話せる時間が作れてね。俺と赤井の監視付きにはなるけど、お昼まではここにいられるよ」

『ひろみつさんも?』

「うん」

「諸伏君がいるとダメなのか?」

『だめじゃない、けど』

「…あの話をしたいのか?」

『う、うん』


頷いたら、お父さんは少し考えた後、「諸伏君も知ってていいんじゃないか」と言ってきた。警察官だから口堅いし大丈夫だろうって。


「純歌、この子は秘密事はちゃんと守る人よ。何を話したいかは分からないけど、あなたが誰にも言わないでって約束すれば、本当に言わないでくれるわ」

『うん…』


それでも悩んでたら、ベル姉が私の頭を撫でながらそう言った。あまり人にほいほい教えてもいいものなのかな。お父さんが既に言ってそうだけど。
少し悩んで、監視の人数を減らすことが出来ないのは仕方ないし、景光さんだけならいいか。と思ってベル姉に全てを話した。当たり前だけどベル姉と景光さんは驚いていて、それでも最後まで話を聞いてくれた。


「ほ、本当に純歌じゃないの?」

『うん…ベル姉がしってるわたしじゃない…ごめんなさい』

「…確かに純歌は私の事を、ベル姉とは言わないわ…」

「じゃあ、今は元の純歌ちゃんは、君がいた世界で生きてるのか?」

『そう言ってた』

「でも、あなたも幼い頃、私に育てられたのよね?」

『うん。ベル姉がそだててくれて、しょうがくせい…になるころかな。ベル姉のおしごとが、いそがしくなって、しほ姉とくらしだして、今だいがくせいだよ』

「だ…大学生!?」

『うん。ひとりぐらし』


大学生だと聞いて、景光さん達だけでなくお父さんまで驚いていた。幼いこの子が気がついたら大学生になってるなんて大丈夫なのかって心配で驚いたらしい。確かに心配ではあるけど、今私がこの子の記憶があるように、あの子も私の記憶があるから大丈夫だよって答えれば少し安心したように三人は息を吐いた。


『でね、このまえ、ゆめでこの子にあって…ベル姉に、しあわせになってほしいって言ってたの。それを言いたくて』


これはこの子だけの気持ちじゃなくて、私もそう思ってる。

「私」にとってベル姉は姉のような母のような感じだから。お父さんや志保姉にとっては複雑だろうけど、本当のお母さんは物心ついた頃にはそばにいなかった。一緒に暮らすのがベル姉から志保姉に変わって、数年してから志保姉に母親が亡くなった事を教えてもらった。父親は生きてるか知らないと。あれは父親に会いたいって気持ちが生まれないようにって配慮だったかもしれない。


『ありがと、ベル姉』

「こちらこそ、ありがとう」


ベル姉は泣きそうな顔で私の頬を撫でてそう言った。


「聞きたいんだが、純歌。お前の世界でのベルモットは忙しくなったあと会いに来たのか?」

『ううん。今くらいのじきだったから、つかまったんじゃないかな』

「なるほど…ほぼ同じなのか」

『しほ姉とわたしは、かんしたいしょう?だったから、いっしょにくらしてたよ』

「もしかして、シェリー?」

「ああ」

「つまり、純歌ちゃんにとって、ベルモットは久しぶりの再会…ってこと?」

『うん』


話したいことが沢山あって、それでも一番最初に言わなきゃいけないのはあの子の事だって思って。

話したい事が沢山ある。一緒に行きたい場所も沢山ある。ベル姉がいなくなってから「ここ行きたいな」って場所が沢山出来た。今日はお出かけ出来ないけど、お昼頃までお話出来るってさっき景光さんが言ってたから、それまで沢山話した。
自分の世界の事も沢山話したし、今までの事も話した。お父さんと景光さんは、途中で部屋の外で待機していると言って二人にしてくれた。ベル姉はこの子の事を沢山話してくれた。記憶にあるものも無いものも。この子が知らないこと話してくれた。

気がついたらお昼は過ぎてて、もう三時になる頃だった。景光さんとお父さんが長引かせてくれたんだって。でも流石にこれ以上は出来ないって、お部屋に入ってきてベル姉とまたねって言って別れた。


「楽しかった?」

『うん』

「また時間作れたら話せるようにするからね」

『ん!』


今度は何を話そうか。


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