夜。おトイレに行きたくて目が覚めた。
もぞもぞ動いてお布団を背中に乗せるようにして起き上がると、いつも隣にいるお父さんと景光さんがいなくて、代わりにうさぎとペンギンのお人形に挟まれていた。タバコ吸いに行ったのかなぁ、なんて思いながら階段を降りて行くと、玄関で物音がした。
なんだろうって思って見に行くと、ちょうど電気が付いてそこにお父さんと帽子をかぶった安室さんと、優作さんと有希子さんが立っていた。

何してるんだこんな夜中に。


「すまない、起こしてしまったか…違うのか?じゃあどうしたんだ?」


首を横に振って、おトイレの方を指さすと「ああ」と納得してお父さんは私を抱えておトイレに連れて行ってくれた。

おトイレから出て洗面所で手を洗って出ると、扉の横で安室さんが立っていて、私が出てくると目を合わせるようにしてしゃがんだ。


「ごめんね、こんな夜中に騒がしくして」


ノートを持っていないからお話が出来なくて、首を横に振った。


「君に聞きたいことがあるんだけど…眠くないなら聞いてもいいかな?」


少しなら、と頷くと、安室さんはにっこり笑って「この家、君と赤井、工藤夫妻の二人以外に誰かいるよね?」と聞いてきた。

そういえばさっき玄関に景光さんだけいなかったな、と思い出す。

安室さんは玄関にあった靴を見てそう思ったみたいで、一つ優作さんやお父さんにしてはラフなスニーカーがあると不思議に思ったらしい。

ノートも無いこの状況、どう答えたらいいんだろうか。確か景光さんの事は内緒だから言っちゃいけない。昴お兄さんの時用だと言えばなんとかなるんだろうけど、伝えられない。


「あれは赤井…お父さんのかい?」


お父さんの、ではないけど、うんって頷いて、人差し指と親指を使って丸を作り、眼鏡のようにして目元に持っていくと「ああ、沖矢昴のって事?」と理解してくれた。


「へぇ、ああいう靴履くんだ」


昴お兄さんは大学院生という設定だから、学校に行く時に履くんだよっていう意味で、ノートを開いてペンを持って書き込んでいるジェスチャーをすると、少し間を置いて安室さんは理解してくれた。


「なるほど、そうなんだね」


「一生懸命教えてくれてありがとう」と微笑む安室さんは、笑って私の頭を撫でた。その時小さく「ヒロの趣味と同じなんだな」と言ったのを聞き逃さなかった。
多分、景光さんのことだと思う。


「ごめんね、夜中にこんな事聞いて。もう眠いよね」


そう言って安室さんは手を繋いで一旦リビングに連れて行ってくれた。リビングには景光さん以外の皆がいて、眠そうな私を見て、お父さんに抱えられて部屋に連れていかれた。
ベッドに下ろして布団を掛けられ、そのまま頭を撫でてくれる。


「起こしてしまって悪かった。それと、諸伏君の事を黙ってくれて助かった」


お父さんの手を掴んで、手のひらに「景光さんはどこにいるの?」と人差し指で書くと、「別の部屋に隠れている」と。安室さんがどの部屋に行くか分からなかったから、とりあえず二階の角部屋にいるらしい。何かあった時、その部屋が一番窓から外に出やすいからって。


「ほら、もう寝よう。気になることがあるなら、起きた時に教えるから」


そう言ってお父さんは「おやすみ」と笑ってもう一度頭を撫でてくれて、部屋を出ていった。

一瞬、「沖矢昴」が出てたな。



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