お父さんから近くのコンビニまでお使いを頼まれて向かうと今日も今日とて事件です。
と言ってもコンビニ強盗とかじゃなく、最近偽札を使っている人物がいるらしくこのコンビニのレジにも偽札が混ざっていたと通報があり、近くにいたこの前のライブリハーサルの時にいた刑事さんと、もう一人の男の刑事さんが駆け付けたらしい。

邪魔にならないように刑事さんがいない方のレジに頼まれた牛乳とお砂糖を持っていって支払いが終わると、丁度話を聞き終えたのかこの前の刑事さんに結局声をかけられた。


「君、確か沖矢さんのところの子だよね?」


ペコって頭を下げると、刑事さんは笑顔で「こんにちは」って言ってくれた。


「今日はお使いかい?」

【ぎゅうにゅうと、おさとうを たのまれたんです】

「へぇ〜、一人でお使いなんて偉いねぇ」


刑事さんは頭を撫でて褒めてくれて、もう一人の刑事さんも「ちゃんと出来て偉いね」って言ってくれた。


「もうお使いは終わったのかい?」


そう聞かれて頷くと、もう一人の刑事さんが「高木さん送ってあげたらどうですか」と提案して、刑事さんは「そうだな」って頷いた。「一人で帰れます」ってノートに書いたけど、「何があるか分からないから」って刑事さんは私を抱えて買ったばかりの牛乳とお砂糖が入った袋を持ってくれた。


「そういえば僕の名前言ったっけ?」

【しらないです】

「僕は高木渉、よろしくね。君の名前は?」

【純歌です】

「純歌ちゃん…ね。お家どっちかな」


あっち。って指差すと、高木刑事はそこに向かって進んでいく。


「そういえば、純歌ちゃんは沖矢さんがお父さん…じゃないんだっけ?」

【おとうさんはべつの人です】

「お父さんはどんな人なのかな」

【かっこいい人です】


そう書くと高木刑事は「そっか」って笑った。


【しつもんしていいですか?】

「うん?なんだい?」

【もし、たかぎけいじのだいじな人が、あした、しらない人になってたら、どうしますか?】

「…ん?ど、どういうこと?」

【だいじな人のなかみが、しらない人になってたら、どうしますか?】

「え?…うーん……見た目はそのままで、中身が別人って事だよね」


うん、って頷くと高木刑事は更に唸り出す。難しい質問だもんね。悩んで当然だと思う。
こんなこと身近な人に話せば怪しまれるから、ほぼお互いを知らない人に話すくらいしかなくて。難しい話題振って申し訳ないけど。


「その中の人が、故意に…えっと、見た目の人の中に入ろうって思って入ったのなら、元の人の場所を聞いて元に戻す方法を探す、かな」

【じゃあ、なかの人もなんでべつの人のなかにはいったか、わからなかったら?】

「一緒に元に戻す方法を探すかなぁ…その場合は特に中の人に怒ったりはしないと思う…」

『……』

「その場合、元の人は亡くなってる可能性もあるしね」

『?』

「例えば僕が死んで天国に行ったとする。同じ時間に純歌ちゃんが事故にあって、神様が間違えて純歌ちゃんを僕の体に入れてしまった。そういう場合もあるんじゃないかな」


じゃあ、つまり「私」と「純歌」の両方が同じ時期に死んで、「純歌」はそのまま成仏して「私」が何かしらの理由で「純歌」の体に入ったという事か。

高木刑事は「それかお互い入れ替わってるか」と笑って言った。正直今までそっちだと思ってたけど、この子がいつからいたか分からない時間から外に倒れていて、高熱を出していたと言うなら亡くなってる可能性の方が高いのか。


「でもどうしてそんな事を聞くんだい?絵本でそんなお話があったとか?」

【ゆめで、しらない子と、いれかわってたんです】

「夢?」

【しらない子といれかわって、その子のおとうさんは、なかの人がちがうことが分からないんです】

「…」

【その子としてすごしてたら、こわくなってきて、でもほんとうのこと言ったら、すてられそうで、こわくて】

「そっか…もし…もしだよ?もし、純歌ちゃんが本当の純歌ちゃんじゃなくても、僕は嘘つき!って怒らないし、今すぐこの街から出ていきなさい!なんて言わないよ」


高木刑事は頭を撫でてそう言ってくれた。


「それに、きっと沖矢さんもそうだと思うよ。君を捨てたりはしないと思うな」

【ほんとう?】

「あぁ!もしも沖矢さんや君のお父さんが、中身が別人だからって君を捨てたり酷いことをしたら、僕が絶対助けに行くから、すぐに連絡してくれる?」


頷くと、高木刑事は「携帯持ってるかな」と聞いてきた。カバンから取り出すと、「僕の連絡先追加してもいい?」と聞かれ頷いたら高木刑事はポチポチと私の携帯に連絡先を登録し、高木刑事の携帯に私の連絡先を登録した。
登録した後に「電話出来ないんだっけ…?」と引き攣ったように笑っていたけど、電話出来る事をノートに書けば安心した顔でまた笑った。

そんな話をしているとすぐに工藤家に着いた。


【ここおうちです】

「え、ここ…って、工藤さんの家、だよね…?」

「おかえりなさい、純歌ちゃん!送ってもらったの?」


丁度有希子さんが帰ってきて門を開けているところで、私を見つけると手をブンブン振って、おかえりなさいって頭を撫でてくれた。高木刑事を見て「知り合いの人?」って聞かれると、高木刑事は警察手帳を取り出して自己紹介をした。


「すみません、最近起こってる事件の通報があって駆けつけたら純歌ちゃんがいたので、一人じゃ危ないと思って」

「そうだったんですか。すみません、ありがとうございました」

「いえ…じゃあ純歌ちゃん、またね」

【ありがとうございました】


私を降ろした高木刑事から、持ってくれていた袋を受け取ってお辞儀をすると、高木刑事は手を振って今来た道を戻って行った。


「あの刑事さんとどんなお話したの?」

【さいきんみた、ゆめのおはなし】

「夢?どんな夢見たの?」

【こわいゆめ】

「あら…じゃあ、怖い夢なんて見ないくらい楽しいことしましょうか!」


有希子さんにそう言われながら、手を引かれて家の中に入る。夢なら良かったんだけどね。

最近捨てられるんじゃないかと怖くて仕方ない。


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