お酒の名前

安室さんのケーキ試食会が終わって、コナン君が家まで送り届けてくれた。
「ベルモット」と「スコッチ」のことが気になってお父さんにそれとなく聞くと、私が元々居た怖い組織の人達は実力が認められるとコードネームが与えられるらしい。安室さんは「バーボン」、お父さんは「ライ」。哀ちゃんは「シェリー」。で、それは全部お酒の名前だと教えてくれた。


「この前聞いた「ベルモット」も酒の名前だ」

【じゃあ、ベルモットは、こわいひと?】

「そういうことだ。だが何故急に酒の名前を聞きに来たんだ?まだ早いぞ?」

「シャロンの事が気になるんじゃない?何か言われたんでしょう?」


ソファで座ってるお父さんに聞いていると、有希子さんがお茶を持って来てそう言った。どうぞってお父さんにカップを渡して、私にはリンゴのジュースが入ったコップをくれた。


【しゃろん?】

「純歌ちゃんやお父さん達が言っているベルモットの事よ!私と同じ女優で、シャロンって名前で活動してるから」

「有希子さんと昔からの知り合いだそうだ」

「でもどうしてシャロンは純歌ちゃんに幸せになるように言ったのかしら…普通の人ならまだ分かるけど、あの組織の人間はそんなこと言わないと思うのよね…」

【あのね】

「うん?」


ノートに安室さんから聞いた話を書くと、二人とも驚いた顔でノートをまじまじと見つめている。


「でも、純歌ちゃんのお母さん…亡くなったのはつい最近よね?」

「えぇ。つまり、組織側がなんらかの理由で明美と純歌を離したという事になりますね」

「だけど、その人。組織の監視下にあるとはいえ、結構自由にはさせてもらっていたんでしょう?どうして引き剥がす必要があったのかしら…しかも数年前だなんて…」

「俺のせい…だとしても、引き剥がす必要は無いでしょう。なにか理由があるのか…」

「純歌ちゃん、他になにか聞いたりした?」


頷いて、またノートに書いていく。


【もともと、すこっちって人が、やるよていだったって】

「スコッチ?」

「…彼が?」

【ことわったから、べるもっとって人がやることになったって、きいた】


ノートを読んだ有希子さんは首を傾げて、お父さんは何かを考えているのか顎に手を当てていた。しばらくして何か思い出したのか「そういえば」と呟いて、立ち上がりそのまま庭に。
今庭には景光さんと優作さんが草むしりしている最中で、お父さんは景光さんを呼びに行った。丁度いいからと優作さんと一緒に休憩がてら話を聞こうという事になって、全員がリビングに集まる。

今話したことを二人に説明すると、景光さんは「あぁ!」と思い出したように声を出した。


「あれ、純歌ちゃんの事だったのか!」

「本当に子育ての任務が来てたのか…」

「珍しく拒否権がある任務だってジンから言われたんだ。大人しい子とは聞いていたけど、もし自分が潜入捜査官だとバレて、見たこと全部話されたら不味いなと思って断ったんだよ」


「ごめんな」って私の頭を撫でる景光さん。多分「スコッチ」は景光さんのことなんだろうな。
子供だろうが何を聞いて何を見たか分からないから、もし自分が潜入捜査官であることがバレてしまった場合。いつどこで誰にそれを話すか分からない。特に子供は善し悪しが分からないからと、景光さんは言った。


「でも純歌ちゃんはそこしっかりしてるから、今思えば了承しても良かったかもね」

「しかしその後君は公安の人間だとバレてしまっただろう」

「そうなんだよ」

「他人事のように言うなよ。君の遺体無しで死を偽装するのは大変だったんだぞ」

「悪い悪い」


眉を顰めて景光さんに言うお父さんに対して、景光さんは笑ってそう言った。そんなお父さんの服を軽く引っ張って呼べば、「ん?」と優しい顔に戻る。


【あのね】

「あぁ」

【すこっちってなまえ、おぼえてるかもしれない】

「…ほう」

「え、」


ノートを見て、景光さんもお父さんも。有希子さんと優作さんも驚いていた。

でも多分覚えてるの私じゃなくて「この子」だと思う。


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