からす

夕方を過ぎた頃、外にいたマスコミの人達は次々に帰って行った。新一さんと一緒に平次お兄さんもいて、そこにもマスコミが沢山押し寄せたようで、仕方なくインタビューに答えた平次お兄さんは「あれは工藤新一ではなく別人だ」と言ったらしい。マスコミの人達はその別人の写真も見せられて納得して、世間を騒がせた工藤新一騒動は収まったようだ。


「ネットの方も、目撃したって証言した人が勘違いだったかもって言ってるし…」

「そっちは有希子さん達がなんとかしたんだろう」

「対応は全て変声機を付けたし、向こうから俺達の顔は見られてないからとりあえずは大丈夫かな」

【おつかれさまでした】

「うん、ありがとう」


ペコって頭を下げると、景光さんもペコって頭を下げてくれる。

ソファに座ってるお父さんの隣に座ると、お父さんは抱えて膝の上に私を乗せた。対面にあるソファに景光さんが座って、「俺達はどうする?」と真剣な顔で話始めた。


「世間的には解決しただろうが、組織的には解決してないだろ」

「ああ。工藤新一が組織に目をつけられた可能性は大いにある。その内誰かしら接触してくるだろうな」

「そうなったら…」


景光さんがチラッと私の方を見た。自分達は自分を守れるけど、私は自分を守れないからどうするかっていう話なんだろうな。


「だが我々の目の届く範囲にいる方が安全だろう」

「いや、うん。そうなんだけどさ」

「次から次に問題が山積みになっていくな」

【だいじょうぶ?】

「ああ、大丈夫だ」


ふう、と一息吐いたお父さん。あまり大丈夫じゃなさそう。少し疲れたからと、お父さんがキッチンにコーヒーを作りに行くとインターホンが鳴った。首に変声機を付けて景光さんが受話器を取ると優作さん達で、もう日本に飛んできたらしい。


「純歌ちゃ〜ん!」


入ってくるなり早々有希子さんにぎゅーってされた。


「元気にしてた?」

【してた】

「君は先日会ったばかりだろう」

「こ〜んな可愛い女の子、毎日会いたいじゃない!」


そう言いながら、有希子さんは頬を合わせて擦り寄ってくる。有希子さんはずっと私のことを可愛い可愛いと褒めてくれて、私の服はほとんどが有希子さんからの贈り物だったり。


「まったく…すまないね、息子の事で迷惑をかけてしまって」

「いえ、大丈夫です。自分達こそすみません、こちらで対処出来なくて…」

「そういえば、秀君は?」

「マスコミの対応に疲れたみたいで、今キッチンでコーヒーを…」

「あら、じゃあ私もお茶淹れに行こうかしら。純歌ちゃんお手伝いしてくれる?」


頷くと、「じゃあ行きましょうか!」と手を繋いでくれた。そのままキッチンに行くと、お父さんが立ったままコーヒーを飲んでいて有希子さんを見て驚いていた。来たことにすら気づかなかったらしい。


「すみません、気づかないで」

「いいのよ〜!マスコミの対応、お疲れ様」


にっこり笑った有希子さんは、ポットに紅茶を作って人数分のカップと私の分のコップをトレイに乗せた。「純歌ちゃんはこれ持ってくれる?」とオレンジジュースの大きなペットボトルを渡されて、両手で抱える。三人でリビングに行くと、景光さんと優作さんがソファに座って机に置いてある物をじーっと見つめていた。


「なにしてるの?」

「あぁ。これだよ」


優作さんが見せてくれたそれは、「ASACA」「RUM」と書かれた紙だった。なにそれ?って有希子さんが聞くと、17年前の羽田浩司殺害現場に残っていた割れた鏡から切り取られた文字らしい。元々は「PUT ON MASCARA」と書かれていたんだって。
そこから「P」「T」「O」「N」だけ残っていて、無くなった文字を組み合わせたのが「ASACA」と「RUM」。

RUMっていうのは、怖い人達の一人で上から二番目の人の名前だって有希子さんが教えてくれた。ASACAはその羽田浩司さんが殺害された時に一緒に殺害された外国の女の人のボディーガードさんで、その事件以降行方が分からなくなっているらしい。お父さん達はその「ASACA」は「RUM」だと考えていると。

で、今その話を景光さんとしていたようで。


「何か気になるのかい?」


ノートに一文字ずつ書いて色々組み合わせていると、後ろから優作さんに覗かれていた。二つの単語に分けられていたけど、ひとつの単語に出来そうだなって思って色々と組み合わせていく。
だって、殺害現場にあったのは「P」「T」「O」「N」で無くなった文字で言葉ができるってことはそれはダイイングメッセージってもので、ボディーガードの人に殺されたのならわざわざ「ASACA」と「RUM」に分ける必要もない。同一人物なら尚更。

それを優作さんに伝えると、「確かに」と納得してくれた。


「それで、何か分かったのかな?」


色々組み合わせてみても中々言葉にはならず、唯一出来たのは「MARACASU」。絶対違うことだけはわかる。

うーんって首を傾げていると、景光さんが「あっ!」と声を上げた。


「カラスマ…!?」

「からすま?」

「ほら、これ!こうすると、CARASUMAになる!」

「ふむ…」

「からすま…って、烏丸グループかしら…でも会長はだいぶ前に亡くなったはずだけど…」

「烏丸グループの紋章はカラスだ。君達がいた組織の特徴とも一致する。羽田浩司がわざわざそれを残したという事は、おそらくそれが組織のボスだろう」

「なるほど…お手柄だな純歌」


お父さんに頭を撫でられて、有希子さんからも「すごいわね!」と拍手を贈られる。気付いたのは景光さんだよ?って伝えると、景光さんが「純歌ちゃんのヒントで気づいたから、純歌ちゃんがすごいんだよ」と褒めてくれた。


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