漢字のお勉強

怪盗は夜の12時に盗みに来るって予告状が、警察の人の靴の裏にあった。夜の12時は流石にいれないなぁって思ってたら一般のお客さんが入ってくるらしくて、怪盗が来るまで時間があるから、自由に見学していいって。でも景光さんのお兄さんかがどうしても気になって、平次お兄さんと繋いでた手を離して警部さんに駆け寄って、ズボンの裾をくいって軽く引っ張る。


「なんでしょう?」


私に気づいた警部さんは、目線を合わせるために膝を曲げてしゃがんでくれた。


【けいぶさんの、おなまえ。かんじで書くと、どう書くの?】

「ふむ…そのノートをお借りしても?」


はいってノートを渡すと、警部さんは自分の胸のポケットからペンを取って、名前を漢字で書いてくれた。

「諸伏高明」。返されたノートには綺麗な字でそう書かれている。
景光さんの苗字も確かこの漢字だったし、長野にいるって言ってたからお兄さんか、親族の人なのはほぼ確定だと思う。


「これで、「もろふし たかあき」と読みます」

【もろふし たかあきけいぶ】

「そうです。しかし、何故漢字を?お勉強中ですか?」


本当は違うけど、うん、って頷くと「勉強熱心で偉いですね」と頭を撫でて褒めてくれた。よく見れば景光さんと目が似てる気がする。


【けいぶさんは、お姉さんとか、お兄さんいる?】

「兄弟でしたら、弟がいますよ」

【おとうとさんの、おなまえは?】

「景光です。これも漢字で書きましょうか。もう一度ノートお借りしますね」


もう一度ノートを渡すと、さっき書いてくれた名前の横に「諸伏景光」と書いてくれた。やっぱり景光さんのお兄さんだ。


「これで「ひろみつ」です」

【これが、ひろ?】


「景」の部分を指さして聞くと、警部さんは頷いた。


「えぇ、そうです。あまりそう読むことは無いですが」

【おしえてくれて、ありがとう】

「いえ、どういたしまして。もし良かったら展示品の説明文の漢字も教えましょうか?」

【いいの?】

「ええ。怪盗が来るまでは、私も博物館を見て回っていいと言われているので」


「忙しくないの?」って聞くと、大丈夫だと言われる。景光さんのお兄さんも気になるし、漢字も教えてもらえるなら一石二鳥か。
この身体の持ち主、漢字は読めるけど書けないみたいで、簡単な漢字だけ書ける。教えて貰ったら書けるようになって、読む側がスラスラ読めるようになるかな。平仮名だけだと読みにくいもんね。

お願いしますってお辞儀をすると、警部さんが「行きましょうか」と抱えてくれた。

「あれはこう」、「これはこう」と一つ一つ漢字の読み方と、まさかの漢字の成り立ちまで教えて貰って、あっという間にノート二ページ分が埋まった。最後に怪盗が狙うって言われてる氷の部屋に連れて行ってもらって、ピンクの宝石の事も教えてもらった。「妖精の唇」って書いてフェアリーリップって言うんだって。


「あ、いた!諸伏警部!」

「おや、どうされました?」


コナン君に呼ばれてお兄さんが振り返る。皆でお昼ご飯食べるとかで呼びに来たって。
下ろされて、「またお勉強するなら呼んでください」と頭を撫でられて、お兄さんに手を振ってコナン君と一緒に皆のところに。

「何してたの?」って聞かれたから漢字のお勉強ってノートを開いて見せたら、びっしり書かれた漢字にコナン君は「ぉ、おぉ…」となんとも言えない声を出した。
お昼を食べ終わって今度は和葉お姉さんと蘭お姉さんと一緒に館内を見て回る。和葉お姉さんに手を繋いで貰って歩いていると、何か違和感。朝は普通にしてたのに、今はずっと足曲げて歩いてる。痛くならないかな、それ。繋いでる手を引っ張って呼ぶと、「どないしたん?」と立ち止まってくれた。


【あし いたい?】

「足?なんともないで?」

【まげてるから、いたいのかなって】

「あ〜、ちゃうちゃう。氷の部屋寒かったやろ?せやからちょっと足くっつけて暖めてんねん!」


嘘っぽいなぁ。


「ウチの事より、純歌ちゃんは寒くなかった?」

【だいじょうぶ】

「寒くなったらすぐに言うんやで?」


うん、って頷くと「次何みたい?」と笑顔で聞かれた。どうしようかなって周りを見てると景光さんのお兄さんを見つけた。お姉さんのこと言った方がいいかなって思って、お兄さんの方指さして「あの警部さんと少しお話したい」って伝えると、「行ってらっしゃい!」って手を離してくれた。

お兄さんの方に駆け寄ると、すぐに気づいてくれて「また漢字のお勉強しますか?」と。首を横に振ると、お兄さんは首を傾げた。


【あのおねえさん、あしをずっとまげてるの】

「あぁ、大阪の彼女…足を、ですか?」

【あさは、まげてなかったの】

「…ほぅ…」

【かいとうさんは、ちがう人になってくるんでしょ?だから、お姉さんかもしれないとおもって】

「なるほど…確かに今朝と服装も違いますから入れ替わった可能性はありますね。情報提供感謝します」

「あ、いた!純歌ちゃん!」


お兄さんと話してると、後ろからコナン君と平次お兄さんから呼ばれた。どうしたのかと首を傾げると、もうそろそろ夕方だから昴さんにお迎えに来てもらおうって。時計を見ると夕方で、景光さん達も話は終わってるだろうから電話で帰ることを伝える。すぐに迎えに来てくれるというので、それをコナン君に伝えると、「じゃあお見送りするよ」と博物館の出入り口に連れていってもらった。景光さんのお兄さんも一緒に見送ってくれるとかで、コナン君と平次お兄さん、景光さんのお兄さんの三人と一緒に昴お兄さんを待つ。


「それにしても声が出らんっちゅうのは大変やな」

「失声症は治るらしいから、いつか出るとは思うけど…」

「生まれつきではなく、失声症なんですか」

「あ、うん。純歌ちゃん、何かのストレスで記憶もなくて、声も出ないんだ」

「そうでしたか。…実は私、弟がいまして。弟も昔、失声症だったんです」


景光さんと初めましての時、そんな事言ってたなぁ。


「訳あって二人別々に親戚に預けられたんですが、連絡は取り合ってまして。暫くして弟は声が出るようになったんです」

「どうして出るようになったの?」

「詳しくは知りませんが、友人が助けてくれたと。ですから、あなたの声も必ず出るようになりますよ」

「ただ、焦って出そうとせんでええんやで。ゆっくりでええんや。出した無かったら出さんでいいしな」

「その通り。無理に出そうとして返って治らなくなることもありますから。今度会った時に声が出るようになっていたら、聞かせてくださいね」


うん、って頷く。
丁度昴お兄さんが来てくれて、「コナン君!」と駆け寄ってきた。この昴お兄さんはお父さんかな。


「純歌。いい子にしてたか?」

【おべんきょうした】

「勉強?」

「私と一緒に漢字の読み方を少々。勉強熱心でいい子ですね」

「そうでしたか。純歌がお世話になりました。コナン君達も今日はありがとう」

「ううん!またお出かけする時純歌ちゃん誘っていい?」

「この子がいいなら」


ちらっと私の方を見た昴お兄さんに、行きたいって意味で頷いた。伝わったらしく、コナン君は笑顔で「じゃあまた誘うね」と言ってくれた。


「またね、純歌ちゃん!」

「ほなな」


三人に手を振って昴お兄さんと一緒に車に乗り込む。
そのまま寄り道せずにお家に帰ると、景光さんが笑顔で「おかえり〜!」と迎えてくれた。抱えられて、リビングに連れていかれる。


「楽しかった?」

【たのしかった】

「そっか。ならよかった!」

【あのね、これ】

「ん?」

【ひろみつさんの、お兄さんいたの】

「兄さん?」


「これ」って見せた書いてもらった名前を見せると、ノートを持って景光さんは立ち止まった。


「兄さんに書いてもらったの?」


うん、って頷くと景光さんは「そっかぁ」って嬉しそうにその字を見つめていた。会話がしたくてノートを返してもらう為に、ズボンの裾を引っ張ると「ごめんね」って返してくれた。
景光さんのお兄さんが書いた景光さんの名前と、お兄さんの名前の所を破いて、景光さんに渡す。書いてもらったページの裏には何も書かないようにしてたから、ちゃんと後ろは真っ白なまま。


【あげる】

「え…どうして?」

【おまもり】

「お守り…?」


景光さんはきっとお兄さんが大好きなんだと思う。たまにお兄さんの話をしてくれるけど、その時の景光さんは楽しそうに話すし、お父さんが秀吉さんと会ってるって言った時「ずるい」って言ってたから。


【だから、少しでもお兄さんのものあげたくて】

「それで、書いてもらったのか…?」

【いやだった?】


首を傾げると、景光さんはそんな事ないって頭を撫でてくれた。「少し部屋にいるね」ってそのまま階段を上がって行って、ひとりでリビングに行くとお父さんに景光さんの事を聞かれて今のことを伝えると、笑って「そうか」とだけ言いソファに座って膝の上に私を乗せた。

そろそろ会話用のノートを新しくしてもらおうかな。

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個人的に書きたいところは全部書いたので「このキャラとの絡みがみたい」というのがあれば拍手コメントかTwitterにください。


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