写真

『ご、ごめんね…?』

「嬢ちゃんが気にする事はねぇよ」


次の日になっても父は帰ってこなかった。昨日は事件で観光出来なかったから、今日は少し歩こうと義足を付けて散歩していたら角から警察の人達が数人飛び出してきた。一人とぶつかって転んでしまって、その中に大和さんと由衣さんがいてぶつかった人は逃げた犯人を追い掛けてるからと二人を残して謝りながら走り去って言った。


「悪ぃな、俺の部下が」

『ううん、ちゃんと前見てなかった私が悪いから大丈夫』

「それより、手当てしましょ。珠雨ちゃんの手首赤くなっちゃってるから!」


そう言われて見れば、転んで手をついた時に痛めたのか右手首が赤くなっていた。軽く曲げてみてもそれほど痛みは無いから、ただ腫れているだけだろう。「大丈夫」と言っても由衣さんは手当しないといけないと譲ってくれない。


「敢ちゃんの家、ここから近かったわよね?」

「ああ。連れてくか」

『いいよ、そんな。気にしないで』

「嬢ちゃんをそんな擦り傷だらけにして放置したら、俺たちが高明に怒鳴り散らかされる。助けると思って大人しく手当されろ」


そっちの方が申し訳ない。由衣さんに手を引かれて近くにある大和さんのお家にお邪魔した。椅子に座るように言われて、大和さんがテレビの横にある棚から包帯と塗り薬を取り出して塗ってもらい、由衣さんが包帯を巻いて固定してくれた。
その上から袋に入れた氷水を当てて、暫くその状態でいるように言われる。待っている間、由衣さんは犯人を捕まえたという連絡を貰って本部に戻って行った。


「すまねぇな、ほんと」

『ううん、こちらこそごめんね。時間取っちゃって』

「そうだ、ただ待ってるだけなのも暇だろ。ちょっと待ってな」


そう言うと大和さんは、押し入れの中をガサゴソと漁り出した。奥から取り出して持ってきたのはアルバム。一人暮らしする時に間違えて入れてしまってそのままにしていたんだって。


「こういうの見せてくれねぇだろ、あいつは」


笑いながら表紙を開いて、「ほら」と見せてくれたのは大和さんと高明さんの幼い頃の写真。


『へ…!?』


待って。可愛いがすぎる。
体操服を着ていて頭にはちまきを巻いているから小学校の運動会だろうか。


「これは確か…小学三年とかだったか」

『かわいい…』

「こっちは修学旅行だな」

『かわいい…』

「で、これが卒業式で隣のが中学の入学式だな」

『かわいい…!!』


可愛いしか感想が出てこない。
限界オタクみたいになってるけど本当に可愛いんだもん。

確かに高明さんは幼い頃の話はよくしてくれるけど、写真は見たことがなかった。一回だけ景兄から「僕が生まれてすぐくらいのだよ」って見せてもらったことがあるけど、あの時も「可愛い」しか言葉が出なかったな。あれは本当に二人とも可愛かった。


「嬢ちゃんは本当にあいつが好きなんだな」

『う…うん?』


頷きそうになって、ふと止まる。昨日大和さんって車内の会話聞いてないはず…だよね?後ろのトランクにいたけど車内の会話って聞こえないはずだし。


「ん?…あぁ、実は昨日ずっと高明と電話繋げて外の様子を聞いてたから全て知ってるぜ」

『ほぁ…』

「あいつがよく話してたから、好意を寄せた相手がいるのは知ってたが…まさかこんな若ぇ嬢ちゃんだとはな」


キョトンとしてれば大和さんはそう説明してくれた。
まさか全部聞かれてたとは。どうやら昔から私のことを聞かされていたらしくて、どんな人かと思えば一回りも年齢が離れた私でびっくりしたんだって。トランクにいた時、声出しそうになったくらいびっくりしたと教えてくれた。


「まぁ、その辺は人それぞれだ。二人がちゃんと想ってるんなら、俺が口出す事じゃねぇ…高明の事、頼んだぜ」


あ、公認なんですね。


「こっちも見るか?」

『これは?』

「警察学校に入った時のやつだ」


捲られたページの右端にある写真を大和さんは指さした。警察学校時代の写真で、制服を着て部屋で本を読んでいる高明さんと、備え付けのベッドで横になっている大和さん。同期の人が撮ってくれたんだって。

今まで可愛かったのに急にカッコイイ写真が来たな。

大和さんもかっこいいんだけど、高明さん若いしお髭ない頃だし、かっこいいにも程がある。今度頼んだらこの制服着てくれないかな。高明さんの事だからきっとクローゼットの奥に眠らせてあるはず。


「どうだ?」

『すごくカッコイイ』

「そりゃよかった」


楽しそうに笑う大和さんに、頭をわしゃわしゃと撫でられた。


『可愛いがすぎる…可愛いしか言えない…』

「急に語彙力が低下するな」

『可愛いんだもん…高明さんが可愛いのが悪い』

「こういうの、あいつは見せてくれねぇだろ」

『そうなの』

「だと思った」

『ねぇ、これ一枚写真撮っていい?』

「構わねぇけど…何に使うんだ?」


影や光が入らないように注意して携帯で写真を撮る。画像欄からそれを探して、ロック画面に設定した。これでいつでも見れるけど可愛いがすぎるなホントに。


『そういえば…さっき高明さんいなかったけどどうしたの?同じ班でしょ?』

「追っかけてた奴は詐欺グループの受け子をしていたんだが、二人いてな。高明はもう一人の方を走って追っかけてったんだ」

『高明さんでも走るんだ?』

「体力ねぇからすぐバテるけどな」

『……嘘だぁ?』

「マジだよ」


嘘だぁ。そんな事ないよ。あの人は体力ばかみたいにあるもん。高明さんが走るとかいうことにもびっくりだけど、体力無いって思われてるのもびっくりなんだ。

何をどうしてそう思われてるんだと考えていると、大和さんの携帯が鳴った。なかなか帰ってこないから何してるんだと高明さんからのお叱りの電話らしい。適当にあしらって無理矢理会話を終えた大和さんはすぐに電話を切った。


「悪ぃ。そろそろ戻らねぇと」

『素直に私がいるって言えばいいのに』

「言ったら言ったでなんで一緒なんだとか言われてめんどくせぇ」

『そこで嘘つけばいいじゃん』

「んなもんすぐバレちまうだろ。手はどうだ、痛くねぇか?」

『うん、大丈夫』


そう言うと大和さんは私の手から氷水を入れた袋を取って、軽く触った後その袋を台所のシンクに置いた。長居するとまた大和さんが怒られてしまうから、立ち上がって二人で一緒に家を出る。途中まで同じ方向だから、近くの交差点まで一緒に歩く。お互い何かしら足が不自由だから、歩くペースが余り変わらず歩きやすい。


「あぁ、そうだ」


信号を待っていると、何を思い出したのか大和さんはポケットから手帳とペンを取りだして、一枚破いて何かを書いた。それを渡されて見ると書かれていたのは大和さんと由衣さんの連絡先。


「何かあればすぐに連絡しろ。高明の事で相談とかでも乗るからよ」

『うん、分かった。ありがとう』

「じゃ、気をつけてな」

『お仕事頑張ってね』

「おう」


青になった信号を渡って、大和さんは真っ直ぐ県警本部の方に歩いて行った。
私は角を曲がって、別荘の方へと歩いていく。別荘に帰ってすぐ二人の連絡先を登録し、自分の連絡先だとメールを送る。ついでにと受信メールを確認すると昼頃に父から「明日には帰れるから帰宅準備しておいて」と来ていた。

結局、母の好きだった場所には行けず、そのまま帰ることになりそう。

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