調査依頼

「問題ないかな?」

『うん、大丈夫。ありがとう』


事情聴取が終わり、車椅子も返却してもらって足を外して車椅子に乗り換えから帰る為に廊下を移動していると、鈴木次郎吉さんと出会った。どうしたのか聞くと、来週大きな宝石を展示するから怪盗キッドに来るように仕掛けて、その為に警備をどうするかと中森さんに相談に来たらしい。


「お嬢さんは何故ここに?」

『殺人事件の第一発見者で、事情聴取してたの。今から帰るところだよ』

「ほぉー、大変じゃのぉ…そうじゃ、来週キッドとの対決に招待してもよろしいか?」

『うん、大丈夫。それで、わざわざ相談に来たって言う警備配置はどういう風にするの?』


聞けば、宝石を囲むようにして警備隊を配置しようとは思っているが、中森さんからもっと人数を増やせと言われたようだ。しかしこれ以上増やせば、来場した人が宝石を見ることが出来ないからと困っているらしい。
確かに、毎度毎度警備員が多すぎて純粋に宝石やらなんやらを見に来た人達が可哀想だものね。亀さんの時くらいの警備隊員の数じゃ、落ち着いて鑑賞も出来ないでしょう。何も無く見れたのってムーンストーンの時くらいじゃないのか。


『じゃあ…宝石を部屋の真ん中に置くでしょ?それを三人分くらいの間を開けて硬質ガラスで囲んだら?お客さんはその中に入って宝石が見れるし、警備隊はガラスの外で囲むように配置すればいいんじゃない?』

「なるほど、それなら確かに宝石も鑑賞出来る。しかし、そのまま宝石を置いていれば盗んでくれと言っているようなものじゃよ」

『確かに』

「やはり守りより攻めじゃ。何としてでも彼奴を逃さぬ策を考えねば」

『でも、「内部の守りを固めずに、外部を攻めるは愚策である」って言う……あれ?』


中国軍師の言葉を言うと、私と被せて聞き覚えの声が同じ言葉を発した。


「その昔、中国で名を馳せたある軍師が、そう言ったそうですよ」

『た、かあき、さん!』


声の方を振り返ると、高明さんが角から出てきた。

久しぶりに会って思わず声が裏返る。それを見て高明さんは笑いを堪えていた。
仕方ないでしょう、久しぶりに会えて嬉しいんだから。


「知り合いか?」

『うん、こちら長野県警捜査一課の諸伏高明警部。私が信頼して尊敬してる人。で、こちらは鈴木財閥相談役の鈴木次郎吉さん。怪盗キッドと対決する為に、担当刑事さんに警備の相談をしに来たんだそうです』

「ほう、あの鈴木財閥の。お会い出来て光栄です」


高明さんが手を出すと、それに応えて次郎吉さんも手を出して握手を交わした。

こう見ると高明さんって手小さいんだなぁ…


「しかし、守りを固めろと言われてもどうすれば…展示物を客に見せる気があるのかと、毎回批判されておる。お嬢さんが出してくれた策は確かに良いものじゃが、どうぞ盗んでくれと言うてるようなものじゃし…」

「どういった策を?」


そう聞かれてメモ帳を取りだして簡単に説明する。それを見て高明さんは「確かに良い策ですね」と頭を撫でてくれた。


「咄嗟に出た案にしては、とても良いと思います」

『んふふ』

「しかし、鈴木相談役の言う通り。あと一つ欲しいところですね」

「うむ。お嬢さんの言うた案で行くなら、警備隊が囲む硬質ガラスの入口に警報器などを取り付けようとは思うが…出来るなら、宝石を簡単に奪われないようにしたいのじゃよ」

『何かいい案あります?』

「ふむ…では、こうすればいかがかな?」


顎に手を添えて、そう言った高明さんは宝石を氷に閉じ込める事を提案した。小さな氷ではなく、とても分厚い氷で。そうすれば、ドリルを使って氷に穴を開けても宝石に傷が付くし、溶かそうにも時間が掛かる。それに、氷が大きいから氷ごと持っていかれてもすぐ見つかる。


「そうすれば、この季節ですから来場した方々は涼やかに、且つ怪盗に盗まれにくいものになるのでは」

「なるほど、それなら行けるかもしれんな…」

「珠雨の案と合わせれば、諦めさせることも可能でしょう」

「うむ。ではその策で進めよう!お二方には感謝するぞ!」


さっきまで悩んでた次郎吉さんの顔が、途端にいつもの顔になって近くにいた秘書らしき人の一人にすぐに準備するようにと伝えた。言われた人は走り出し外へ向かったから、準備する為の電話とかかな。


『あ、ねえ、次郎吉さん。その来週のキッドが来る日、高明さんも招待したらどうかな?折角氷の案出してくれたんだし』

「ん?うむ、諸伏警部の時間が合うなら構わんよ」

『時間、空いてたりします…?』

「ええ、大丈夫ですよ」

「ではお二方には是非、我が鈴木博物館に足を運んで頂くとしよう!詳細が分かれば連絡をしたいのだが…お嬢さんは園子を通じてするとして…諸伏警部は長野県警に連絡すればいいかの?」

「はい」

「うむ、ではその通りに。早速氷の手配をせねばならんので、儂はここで失礼するぞ」

『またね』

「ではまた」


高明さんがお辞儀をすると、次郎吉さんと秘書さん達はエレベーターの方へ向かっていった。見えなくなった頃に、高明さんが「それで」と私の方を向く。


「珠雨は何故ここに?」

『え?えっと…今朝散歩してたら公園に遺体があって、第一発見者なのでその事情聴取に』

「…本当に最近事件多いですね、あなた」

『えう』


人差し指と親指で頬を挟まれて、むにって押し込められた。
今住んでる家に引っ越してから事件に遭遇することは確かに多い。でも実際私が巻き込まれてるというよりは、一緒にるコナン君が巻き込まれに行った事によって巻き込まれてる事の方が多いんだよね。

今日のは私が発見したから、コナン君関係ないけど。


『高明さんこそ、何故東京にいるんです?』

「殉職された刑事のロッカーから、僕宛ての荷物があったそうで。それの確認に来たら、担当の刑事が事件の捜査で席を外していて…おそらく、珠雨の事件でしょう。いつ終わるか分からないそうなので、一旦帰ることにしました」

『…私が何も言わずに長野行ったら怒るのに、自分は黙って東京に来るんですね』

「…日帰りの予定でしたから」

『…』

「博物館デートで許してください」

『…仕方ないですね』

「ありがとうございます」


そんなこと言われたらさぁ。許すしかないじゃないですか。ずるい。顔がいい。かっこいい。好き。

二人で話をしていると私の携帯がなった。画面には黒田さんと表示されている。そういえば待たせてたの忘れてた。


『もしもし』

《大丈夫か、迷子か?》

『ううん、知り合いと会って少し話してただけ。ごめん、すぐ行くね』

《ああ。正面玄関で待っているからな》


それだけ言うと黒田さんは電話を切ってしまった。素で忘れてた。ごめんなさい。


「友人と待ち合わせでも?」

『いえ、黒田さんが送ってくれるらしくて…待ってくれてるの忘れてました…』

「では、一緒に行きましょうか」


高明さんはそう言って車椅子をエレベーターまで押してくれた。下に行くボタンを押して、エレベーターを待っている間は隣に居てくれる。到着した音がすると、すぐに後ろに回って押して、エレベーターの階数ボタンを押してドアが閉まるとまた隣にいてくれる。

こういうところなんだよね、この人。
「ちゃんといるよ」って行動してくれるのが本当に大好き。


「そういえば」

『はい』

「制服似合ってますね」

『…見ないでください』


そういえば制服だった。お願いします見ないでください。成人済みの大人が高校の制服着てるの、恥ずかしさが勝つから。見ないでください。

エレベーターを降りて、正面入口から出ると黒田さんが車の外で立って待っていてくれた。私と高明さんに気がつくと、こちらに歩いて来て車椅子を押すのを交代した。


「長野県警から人が来るとは聞いていたが、諸伏だったとはな。用事は済んだのか」

「いえ、担当刑事が事件で出払っていたので後日という事に」

「担当刑事…は、佐藤だったか。わざわざ来てもらったのに悪いな」

「いえ、仕方の無いことですから。珠雨、おいで」


会話しながら車まで向かうと、高明さんがそう言って手を広げて私を抱えあげて、黒田さんの車の後部座席に座らせてくれた。その間に黒田さんが車椅子を畳んでトランクに積んだ。
窓を開ければ、高明さんは「ではまた今度」と言って頭を撫でてくれた。黒田さんが運転席に乗り込めば、高明さんは手を引っ込めて、黒田さんに向けて頭を軽く下げる。黒田さんもそれに頷いて、車のエンジンを掛けた。


『また今度』

「ええ、」


手を振れば振り返してくれて、車は動き出した。窓を閉めて前を見れば、黒田さんが話を始める。


「啄木鳥回の時から思っていたが、昔から諸伏と交流があるのか?」

『高明さんが大学卒業するまで、私の家庭教師してくれてたんだよ』

「だから珍しく敬語なのか」

『うん。で、わざわざ送ってくれるってことは何かあった?』

「察しがいいな。隣に書類があるだろう」


私が座ってる座席の隣に、端がホッチキスで止められた数枚の紙が置かれてあった。手に取ってパラパラと捲れば、一人の女性の情報が書いてある。


『誰これ?』

「若狭瑠美、という女教師を知っているか」

『ああ、コナン君の副担任の人…だっけ?』

「その人物はレイチェル・浅香という人物と同一人物である可能性がある。それはレイチェル・浅香に関する書類だ」

『レイチェル・浅香…浅香?』


少し前にラムのおじ様が零さんに調べるように言ったのが、「浅香」っていう曲が気になるとかだった気がする。その人は何年か前に起こった羽田浩司殺人事件の重要参考人らしく、その事件についての詳細が書かれた書類も入っていた。


『黒田さんもそこにいたんだ』

「ああ。それで組織の存在を知った」

『で、その浅香さんと若狭先生が同一人物かどうか調べて欲しいってこと?』

「そうだ。どうも私は警戒されていてな。子供達とも親しいお嬢の方が、調査には向いていると判断した」


書類に書いてあるのが本当で、浅香さんと若狭先生が同一人物なら、元SPだから警察関係者とか雰囲気で分かってそうだしね。

前にコナン君から聞いたラムのおじ様と特徴が似てるって話、今見てる書類によればラムのおじ様とレイチェル・浅香は別人のようだから警戒しなくていいって伝えたいけど…でもそれなら何故学校の先生になったのかが気になる。

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