黒ウサギ
暫く勉強会をして、日が暮れ始めた頃。女子高生達は「そろそろ帰るね」とキリのいいところで勉強会を切り上げた。その後ひとりで座ってボーッとしていたら、お店の扉が開く。
「珠雨さん」
『ん、コナン君。どうしたの?』
少し前に兄が小五郎さんにサンドウィッチの差し入れに行き、帰ってきたのは兄ではなくコナン君だった。
これから小五郎さんが依頼人に話を聞きに行くついでに、蘭ちゃんとコナン君をつれて外食をするところに兄が来たらしく、探偵の授業として兄も同行することになったようで。コナン君が同行したら?って誘ったら、小五郎さんも一緒で構わないと。本人がいいならという事でコナン君が呼びに来たと。
特にすることもないし、夕飯まだ決めてなかったからと思い着いて行くことを伝える。会計を済ませると、コナン君が「じゃあ行こっか」と、車椅子を押して店の外に連れ出される。外に行けば既に蘭ちゃん達が待っていてくれていた。
「それで、どういうお店に行くんですか?」
「「黒ウサギ亭」って名前だから…小洒落た料亭なんじゃねぇか?」
暫く進んで兄が小五郎さんに聞くと、そう返ってきた。でもこの辺にそんな名前の料亭あったかな。名前的に洋食屋のようなイメージもあるけど、聞いたことない。個人経営の小さなお店とかかな。
そんな事を思っていると、だんだんと繁華街になっていき、小五郎さんが「ここだ」と足を止めた。
『なるほど、黒ウサギ亭ね…』
中に入れば、その名の通りバニー姿の女性が沢山いた。要はバニーガールのクラブらしい。名前の通りすぎて繁華街に入った時に疑問に思うべきだったわ。こういう所って未成年大丈夫なのかしら。
奥の席に通され、少し待てば依頼人の諸岡郡蔵さん、その付き人の深町惇史さんが声を掛けてきた。脅迫状が届いているから、その犯人を突き止めて欲しいっていうのが依頼のようで、小五郎さんはその脅迫状を付き人さんから受け取って中身を確認していた。
内容は「命が惜しければ黒ウサギ亭には近づくな」というもの。
『狙われるのは店内と限らないんじゃ?』
「常にボディーガードを二、三人帯同していますので、狙われるとしたらこの店の中しかないんですよ」
「じゃあ、なんで今はボディーガードがいないんですか?」
「そりゃあもちろん、厳しい顔の屈強な男共を連れていたら、この店の雰囲気が壊れるからですよ!」
その言葉に鼻の下伸ばして同感する小五郎さん。
おじさまたちの言うことはわからないわ。
依頼内容について話していると、後ろから茶髪のバニーさんが話しかけてきて、諸岡さんのお気に入りの女性らしい。いつも指名しているのも彼女のようで、今日も事前に指名していたから席に来たという。
なんでも頼んでいいという諸岡さんの言葉に、彼女はメニューを広げて食べたいもの言って、「他に注文あれば」と私達にメニューを渡してくれた。
「珠雨は何か食べたいものあるかい?」
『んー…お姉さんオススメある?』
「そうねぇ…ご飯系なら玉子焼きとか唐揚げとか。デザートの方なら、フルーツポンチもオススメかな」
『じゃあ…唐揚げ食べたい』
「食べられる?」
『食べる。あとりんごジュース』
そう言うとお姉さんは注文表にそれを書いていき、小五郎さん達にも一通り聞き、それを厨房に持っていく為に席を立った。
注文を待っている間お手洗いに行きたくなって、近くにいたバニーのお姉さんに場所を聞くと、車椅子スペースがないから店から三つ隣にあるコンビニに行った方がいいかもと言われた。ここら辺は繁華街で勧誘もあれば色々と面倒な人に絡まれることもあるからと、お姉さんが着いてきてくれることになった。
『お仕事中なのにごめんね』
「いいのよ、気分転換にもなるし!でもやっぱり車椅子のお客様にとって、うちの店にトイレがないの不便よねぇ…」
『あまりこういう所来ないから分からないんだけど、大体無いの?』
「んー、あるところはあると思うな。私もあまり他のお店のこと知らないのよね」
コンビニに行くまでお姉さんは話をしてくれて、私がお手洗いに入っている間、休憩中のお菓子を買うとかでお店の中見て回ってたみたい。お手洗いから出たら袋持ってた。
コンビニから出てもずっと話をしてくれていて、こういうクラブで話すことが仕事の人達って凄いなと感心する。私じゃ話続くないけど、話題を作るのが上手。
「普段話すのが男性だから、女の子のお客様珍しくて沢山話しちゃったけど大丈夫?ウザく無かった?」
『うん、寧ろありがとうって気持ち』
「そう?ならよかった。休憩室に荷物置いてこなきゃなんだけど、席には戻れるよね?」
『それは大丈夫。着いてきてくれてありがとう』
「うん、じゃあお店楽しんでね」
お店に戻り入り口の近くでお姉さんと別れる。席に戻ると、もう既に注文したものが全て揃っていて、私の飲み物とかは兄の隣に置いてくれていた。その兄の座っている席の隣に向かう途中、何かがぶつかってその勢いで車椅子が横に倒れて一緒に私も横転した。
『…ったぁ……なに…?』
上半身を少しだけ起こして机の方を見ると、車椅子にもたれ掛かるようにして諸岡さんが指名したお姉さんが口を押えて苦しそうにぐったりしていた。
「ゆ、有里!有里!おい、大丈夫か、有里!」
「彼女に指一本触れるな!蘭、救急車と警察に連絡だ!」
お姉さんに駆けつけようとした諸岡さんをコナン君が抑え、小五郎さんが蘭ちゃんにそう伝えると、蘭ちゃんはすぐに携帯を取り出して連絡をした。
「いったい、どうやって…」
『ねぇ、考えるのはいいけど先に起こして』
倒れたお姉さんさんの方を向いてそう言う兄に、手を伸ばせば抱えて先程まで座っていた椅子に下ろしてくれた。事件だから仕方ないとはいえ足元に倒れてるんだから、視線くらい向けてくれたっていいじゃないのよ。
「どこか痛いところはないかい?」
『倒れた反動で横腹が少し痛い』
「肘置きが当たったんだもんね。触っても?」
『うん』
「失礼」と言って横腹を軽く触られる。特に激痛がする訳でもないから酷くても打撲、軽くても青あざ程度かな。救急隊員が来た時に兄が伝えてくれるそうだから、その時にもう一度軽く診てもらえればいいかな。
『あのお姉さん、倒れる前何か食べたり飲んだりしてた?』
「ああ、自分のシャンパンを飲んでいたよ。その直前にはフルーツ盛りの中にあったりんごを齧っていたけど、食中毒だと症状が出るのが早すぎるし、諸岡さんもフルーツを食べていたけど何も無いみたいだから違うだろうし…」
『アレルギー反応…だとしたら、そもそも自分から口にしないもんね』
「諸岡さんを狙っていた人物がフルーツに毒を盛って、それを運悪く食べてしまったか」
『お酒の中に毒が入っていたかのどちらかだね』
「そうだね」と兄は頷いた。
それにしても、車椅子にお酒が掛かってしまっているから、あれは証拠として鑑識さんが持って行ってしまうだろうし、暫く義足生活だなぁ。
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