父親

『は?長野?』

「そう。……行かない?」


零さんと一緒に父に呼ばれて、組織関連の話をされたまではいい。話が終わって帰ろうかという時に「そうだ」と呼び止められた。零さんは家族の話だからと早々に退室して、父と二人になると「休暇を取れたから長野に遊びに行かない?」と聞かれた。


『この前行ったばかりなんだけど』

「分かってるよ。でも、ほら、ね?」


何が「ね?」なんだ、伝わるか馬鹿が。


「澪も会いたいだろ?」

『会いたいけどそんな頻繁に会える職業じゃないって、自分が一番分かってるでしょ』

「そうだけど」

『あんたが遊びに行きたいだけでしょ。一人で行きなよ』


「めんどくさい」と添えれば、父は困ったように笑う。何がしたいんだ、さっきの「ね?」の意味を言え。場合によっては行くから。


「リアが好きだった場所に行きたくてね」


リア。母の名前。
父の口から母の話が出るのは何年ぶりだろうか。事故以来気を使ってか名前さえ言わなかったのに。

お母さんが好きだった場所が、群馬と長野の県境に近いところにあるらしい。山から見える景色とか、そういうのかな。お母さん夜景とか好きだったから。


「本当は自分達の子供が二十歳になったらその子も一緒に連れていこうって約束してたんだけど、ここ数年お互いに忙しくて行けなかっただろ?」

『そこに行こうってこと?』

「そういう事。高明くんは、悪いけどついで」


お母さんが好きだった場所ね。


『いいけど、お金全部お父さん持ちが条件ね』

「それくらいなら」

『あと』

「?」

『新しいコートとキャリーケースが欲しいから買って』

「いいよ」


案外あっさり許可するな。少しは躊躇え。
寒いからね、って笑って、「あとで口座に入れておくね」って。

なんでこの人私に甘いくせに事故当時お見舞いとか、お母さんの葬儀とか来なかったんだろ。仕事は分かるけどこれだけ甘いなら来ても良かったのに。

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