警視庁公安部

あの後、兄はすぐに戻ってきて帰るのかと思えば車をUターンさせて病院に戻った。何したいんだと窓から外を見るとジョディ捜査官に変装したベルモットお姉さんを迎えに来たらしい。二人の会話を聞くにやはり赤井秀一が生きていることを証明する為に動き回っていたようで。
兄妹として暮らしてる家の前で下ろされて、「まだ仕事があるから」って二人でどこかに行ったってことは、私がコナン君達と一緒に赤井秀一が生きていることを黙っている可能性は考えてるらしい。少しでも話せばすぐに対策を練られるから教えたく無いんだろう。その通りだよ。


『突撃ばーん』

「え、あ、澪さん!?」


澁谷先生が襲われた次の日。大きな紙袋を持って警視庁へ。

警視庁公安部。零さんの直属の部下である風見裕也さんが所属する部署。それ故に私と顔なじみも沢山いる。
父が色々としてくれているお陰で、公安部署は自由に出入りしていいと言われてる。そこだけはとても感謝だけど基本来ないからその権限無くしていいと思うのよね。


「今日は何を…?」

『差し入れ。どうぞ』

「あ、ど、どうも…」


扉の近くにいた眞鍋さんに、差し入れとして持ってきた紙袋を渡す。中身はサンドウィッチとか卵焼きとかおにぎりとか、そういうの。おにぎりは人が握ったもの食べれない人もいるからコンビニで買ってきたものだけど、他は私が昼から作ったもの。今日は学校午前中までで、ここに来ることは決めてたけどそれまでどうしても暇だったから作りすぎちゃった。えへ。


『裕也さんは?』

「風見さんなら、あそこで降谷さんに頼まれた書類を」

『呼ばれてないの?』

「はい、今日は珍しいことに…」


眞鍋さんが指さした方を見ると、パソコンと書類を交互に見てる風見裕也さんがいた。零さんの直属の部下だから呼ばれてると思ったのに。

零さんから頼まれた書類もきっと始末書とかじゃないかな。いつも本当にお疲れ様だよ、この人。


『裕也さん』

「…え、は!?澪さん!?な、何故ここに…!?」

『差し入れしに来たよ。あと零さんに話があって』

「ふ、降谷さんに、ですか?しかし、あの人はまだ帰ってきてませんが…」

『そろそろ帰ってくると思うから、向こうで待ってていい?』

「それは構いませんが」


ズレた眼鏡を直して裕也さんは私を休憩スペースに連れて行ってくれる。部署内にある場所だから一人でもいいのに、裕也さんは一緒に待っていてくれた。まあ、休憩してほしかったからいいんだけどさ。

暫くして零さんが帰ってきた。数人の部下を連れて。

私が居ることに驚いた零さんは、カツカツと革靴を鳴らして私のところへ一直線に歩いてくる。


「何をしてるんだこんなところで」

『降谷さんを待ってただけですよ』

「君、赤井秀一が沖矢昴に変装して居ること分かってただろう」


降谷さんは拳を強く握って、私にそう聞いた。

変装を見破ることが得意な私が、知らないわけ無いものね。昴さんに初めて会った時にすぐ分かった。「あ、ライお兄様だ」って。彼もバレる事を覚悟で私の前に出てきて、全部話してくれた。キールお姉様の事と、名前は教えてくれなかったけど知恵を貸してくれてる小学生の事。今思えばそれはコナン君の事だろう。


『…知ってたら何?』

「何故報告しなかった」

『報告したらどうするの。組織に連れ戻すでしょ』

「当たり前だろう」


どうやらこの人、赤井秀一が生きていることを確認し、捕らえて組織に引き渡して組織の中心部分にいける計算をしていたらしい。


『国や組織が違うとはいえ、狙いは同じ。何故味方になってくれる人達を敵に回す必要があるの?この日本が好きなら、追い出すべきはFBIではなく、あの組織でしょ』

「アメリカやイギリスの諜報員が無断で捜査していいことにはならない」

『私怨で警察を動かしてるあなたが言える事じゃないでしょ』


この人は、「赤井秀一が諸伏景光を殺した」と今でも思い込んでる。だから赤井秀一への恨みが募りに募っている。
世間的に恨みの対象が死んでいることによって復讐さえも出来ないから、今回こうして強行したんだろう。

沖矢昴が居候させてもらっている工藤家に乗り込んだと、ここに来る前にコナン君から連絡を貰っている。誰かは知らないが、その時兄に対応したのは別の人が変装した沖矢昴で、秀一さんはキャメル捜査官達と一緒にいたと。


「とにかく、赤井秀一とは関わるな。あいつがどういう男か、分かってないだろ」

『分かってないのは降谷さんの方でしょ。何も理解しないで思い込みで行動してたんだから』

「あいつは景を殺したんだぞ!分かってるのか!?」

『あんたの脳みそ綿あめで出来てんの?あの日の事実を知らないで、考えようともしない人に、どうこう言われる筋合いはないの』

「どういう事だ?」

『それを自分で考えろっつってんのよ』


人に言われても理解しないんだから、自分で考えて。探偵なんだから、推理は得意でしょう。そう言うと、零さんは黙って仮眠室に入っていった。スーツに着替えに行ったんだろう。すぐに戻ってきて、今まで来ていた服は畳まれて袋に入っていた。


「それで、澪さんはわざわざ俺の事を待ってまで、何の用なんだ?」

『あ、そうだ。あの馬鹿が降谷さんと一緒に来いって』

「東条警視監が?」

『馬鹿で上司を連想するのもどうかと思うけど、そう。話があるって』


昼間、ここへの差し入れを作ってる最中に電話が来て零さんと一緒に警察庁に来るように言われた。何故?って聞き返しても教えてくれなかったから、組織の話なんだろうな。

すぐに零さんは車を回してくるからと裕也さんに私を外に連れてくるように指示して、走って廊下に出ていった。
裕也さんと一緒に外に出るためのエレベーターを待っている間、いつもなら何も言わない彼が珍しく口を開いた。


「澪さん、あまり降谷さんを挑発しないでください。嫌いなのは仕方ないですけど…」

『零さん好きだよ?』

「…え?」

『零さんは好きだよ、私』

「そ、そうなんですか?」

『組織に入ってからの零さんが大嫌いなだけで。零さんは大好きだよ』

「そう、なんですね…」


外までの通路を歩きながら、違いがわからんと言いたそうな裕也さん。

組織に入る前の「降谷零」は、今で言う「ポアロのアルバイトをしている安室透」に近い。周りをよく見ていて、正義感が強くて、明るく優しい人。
組織に入ってからの降谷さんは、警戒心が強い余り周りを見れてない。見れてはいるけど、見えていない状態。秀一さんに対する行動言動がいい例だろう。


『景兄の事、秀一さんもショック受けてるのよ』

「そうなんですか?」

『あの二人仲良かったから』

「しかし、彼を殺したのは赤井秀一だと降谷さんに伺ってるのですが」

『殺したのは零さんだよ』

「え、」


「誰が諸伏景光を殺したのか」と、その答えを言うなら「降谷零」だろう。実際は自決なのだけど、何が原因で自決したのかと言えば「降谷零の足音」だ。

実際、秀一さんは逃がそうとしてくれていた。
その相談もされていた。

「スコッチが潜入捜査官らしいんだが、同じ立場としては何とか生かして逃がしたい。協力してはくれないか」

ビルの屋上で自決しようとしていた景兄を止めて、自分の本名まで明かして、逃がそうとしていた矢先。非常階段を上ってくる足音が聞こえて、組織の人間だと思った景兄は誰か確認することなく、持っていた拳銃で胸ポケットに入っていた携帯ごと心臓を撃ち抜いた。
その遺体は確認していないけど、秀一さんがそれを教えてくれた時に何度も謝っていたから、きっと本当なんだろうと。それ以来、大好きだったお酒のスコッチを飲まなくなってしまったから。

駆けつけた零さんには「自分が撃った」と発言し、私には「言うな」と固く口止めされている。
あの頃はまだ秀一さんも零さんも、お互いが潜入捜査官だと分かってなかったけど、秀一さんはなんとなく分かってたんじゃないかな。

赤井秀一は本来優しい人なのに、零さんは微塵もそれを考えない。


『零さんには内緒ね。自分で考えないと理解しないから、あの人』

「分かりました。絶対口外しないとお約束します」

『ありがとう』


後ろの裕也さんを見ると、キリッとした顔で「降谷さんの事ちゃんと好きなんですね」と。友達だから当たり前でしょ?と伝えると、裕也さんは嬉しそうに笑ってくれた。

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