答え合わせ

昨日から数日入院して、検査をすることになって、今日の分は終わったから病室に帰っていいと担当医に言われて病室に戻り、メールを確認していると電話が鳴った。画面には「コナン君」の文字が表示されていた。
電話に出ると聞きたいことがあるって言うから、入院先の病院を教えて来てもらうことにした。電話だと盗聴される恐れがあるからって言えば、コナン君はすぐに来てくれると。


『で?なんでコナン君じゃなくて昴さんなわけ?』

「俺がボウヤに頼んで確認してもらったんだが、直接話すのなら俺が行こうと思ってな」


コナン君が来ると思ってたのに、扉が開いて入ってきたのは沖矢昴さんだった。
見た目は昴さんなのに、声が秀一さんということは組織的な話だろう。


『…それで、どうしたの?』

「君の兄だという安室透君のことなんだが。子供の頃のあだ名が「ゼロ」だったとボウヤに教えたらしい。本当か?」

『ゼロ?』


コナン君が昨日、蘭ちゃんのお母さんの英理さんが虫垂炎で手術に。そのお見舞いに行った時に兄に偶然会って、少し話している時に知らない男の子が「3、2、1、0」とエレベーターが来るのをカウントダウンしてたらしい。その「0」に兄が反応して、どうしたのかと聞いたら子供の頃のあだ名だったと教えてくれたと。

そういえば景兄がたまに「ゼロ」って呼んでたような。あの人、本名の下の名前が「零」で「れい」だけど、数字の「0」を漢字にすると「零」だからって理由だったかな。


『多分本当だと思うけど』

「多分?」

『そう呼んでるの一人しか知らないから。他にも呼んでる人いるかもしれないけど』

「そうか。何故その「ゼロ」に反応したか分かるか?」


大人になった今、そのあだ名で呼んでた人から呼ばれたか、似た声の人だったなら反応するのも分かるけど、明らかな子供の声に反応したから気になると。


『多分これかなっていう理由はあるけど』

「教えてくれるか」

『だめ』


理由はきっと、「子供の声だったから」。
景兄とあの人は、小学校の頃からの幼馴染みだったらしいから、それでまだ反応してしまうんだろう。

これは流石に第三者の私が話していい事じゃないでしょう。本人が「話していい」と許可を出すか、自分から話すかしない限り、探偵だろうが警察だろうが知る権利ないと思う。

教えられない事だけ伝えると、秀一さんは「そうか」と諦めてくれた。


『聞かなくてもある程度予想してるでしょ?私のことも調べ終えたんだろうし』

「…バレていたのか」

『というか、父の名前と職業分かればすぐ分かるでしょ』

「あぁ。東条警視監の娘で、幼い頃に両足を切断せねばならないほどの大きな事故に遭った現在23歳の女性。これだけですぐに分かったよ、東条 澪君」


ドヤ顔で私の方を見る秀一さんに、「正解」と言って拍手をした。まあ、これだけの情報はヒントを超えてもはや答えよね。


「しかし、いくら調べてもバーボンとの繋がりがよく分からなくてな」

『妹役に選ばれただけだよ』

「選ばれた?」

『あの人、なんでも出来るでしょ?だから組織に潜入する時に優秀すぎて潜入捜査官だと疑われるんじゃないかって話になったらしくて。「兄妹でもいれば組織に入っても「家族がいるのに裏切らないだろ」と思い込んでくれるのではないか」って結果、選ばれただけ』

「つまりアイツは君の父親の部下か」

『そう。あとは…友達だから選んだっていうのもあるんじゃない?』

「友達?」


幼い頃から学校に行けなくて、父の知り合いに勉強を教わってた。その中の一人が高明さん。でも皆忙しくなって、母親も亡くなって、私の面倒を見る人もいなくなった時に父親が選んだ場所が「警察学校」だった。
そこは父の部下も後輩もいるし、何かあった時にすぐ自分のところに連絡が来る。11歳になった頃に警察学校に通い出して、手が空いている教官達が勉強を教えてくれたり、話し相手になってくれた。たまに生徒の人達も話し相手になってくれて、その中の一人が兄であるあの人。


『ついでにいうと、スコッチお兄様も警察学校で出会ったの』

「つまり二人は同期なのか」

『小学校からの幼馴染みだって』

「それは…本当に申し訳ないことをしたな。お嬢にとっても大事な友人だったんだろう」

『長野で別荘に来た人いたでしょ?あの人の弟なんだよ』

「つまり……スコッチは将来お嬢の義弟になる予定だったと」

『か、かもね…』


言われて少し恥ずかしくなる。


『でもあの人のこと調べて何するの?』

「ベルツリー急行の後、俺の死に不信感を持ち楠田陸道について聞き回っているらしい」

『楠田陸道?』


キールお姉様がFBIに保護されていた時、彼女を奪還しようとして、お姉様が入院していた病院に潜入していた組織の人間が、楠田陸道。コードネームじゃないということは末端の人間か。

秀一さんが追い詰めたけど、車の中で拳銃自殺をしたそうで。彼の遺体を使って、秀一さんは死んだフリをして今も生きているわけだと。


『聞き回ってるってことは、何かしたの?』

「少し賭けに出た」


そういえば確かに、ベルツリー急行以来あの人は帰りが遅い。帰ってきても何かの資料をずっと見てたり、映像を確認したりしてる。それが組織が持ってる「赤井秀一」が死んだ時の資料なんだろう。

あの人は何故か組織に入った当初から秀一さんに噛み付いていた。潜入捜査で、素を見せない為だろうけど何かあればすぐに噛み付いていて、景兄の溜息が出ない日は無いくらいに。秀一さんが同じ潜入捜査官だと気付いてからは少し柔らかくなったらしいけど、景兄が自殺してからは元に戻った。と言うより、以前より酷く嫌いだした。

あの人は事実を知らないから。


『…多分、というか絶対そうだろうけど…秀一さんの事を調べてるのは私怨の方が強そう』

「やはり、彼のことか」

『うん』

「必要なら話してもいいんだぞ」

『話したって理解しないよ、あの人は』


景兄が自殺した時。すぐにその場に駆け付けた。というより、駆けつけている時に銃声がしたらしい。死んでいる彼を見て、あの人は「赤井秀一が拳銃を渡して自殺させた」と解釈した。
だけど、「諸伏景光」と「赤井秀一」の性格を理解し、尚且つ当時の状況を「諸伏景光と赤井秀一」の視点から考えると、自殺の原因は「降谷零」だ。

自殺をしようとした景兄を秀一さんは止めて、話をしていた時にあの人の足音を聞いて、組織の人間だと思った景兄が自殺した。

あの人は何も理解しようとしていない。
だから腹が立つ。だから嫌い。


「彼にとっては知らない方が幸せだろうが、いつかは理解するぞ」

『自分で推理して理解するなら、それが一番でしょ』

「…そうか。それにしても口が堅いな。会話の途中で彼の本名を言ってくれるものだと思っていたが」

『大きなヒントあげたでしょ。それくらい調べなよ』


秀一さんはわざとらしく、やれやれと言わんばかりに肩を落とす。それに溜息を吐けば、ぺち、と軽く頭を叩かれた。


「じゃあ、今日はこれで。また何かあれば連絡する」

『うん』

「組織のことは、早く終わるように努力する」

『うん?』

「式には呼んでくれよ」


組織のことが終わるまで結婚を延期してるって言った事か。私の事揶揄うのが昔から好きな秀一さんは、楽しそうに笑って、首の変声機を付けて病室から出ていった。

にしても急にそんな事言うなんてなんなんだ。と思っていたら携帯が鳴る。秀一さんからメールで、「首元隠せよ」と。
慌てて鏡で確認すると正面から見えない、ギリギリの位置に痕が沢山。

いつ付けられたんだこんな痕。まだ明日も検査あるんだぞ。

すぐに携帯を取って付けただろう本人に電話を入れた。

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