赤と青

「これなんてどう?」

『……えぇ…?』


今日はポアロが定休日で、梓さんがオフだからと一緒に買い物に来ていた。私がファッションとかに興味が無いって言ったら、勿体ない!って言われて、梓さんが選んでくれるって。

選んでくれるのはいいけど、可愛い服は私には似合わないと思うんですよ。


『に、似合わない思う…』

「そんな事ないわよ!珠雨ちゃん可愛いんだから、なんでも似合うのよ!」

『…いや、でも赤は…』


兄が嫌いだというのもあって避けていた赤色の服。可愛いんだけど…うーん。

梓さんが選んでくれたのは、薄い赤のオフショルダーのセーター。冬用じゃなくて、少し薄手の春でも着れるようなやつ。袖のところにリボンが編み込まれていて可愛いんだけど、ちょっと私には合わないと思う。


「とにかく試着しておいでよ!絶対似合うから!」

『う、うん…』


試着だけならと、店員さんに手伝ってもらって試着室に入る。車椅子を梓さんに預けて、店員さんは「終わったらまた声掛けてください」って言って仕事に戻って行った。

着てみると、やっぱり可愛いけど今まで着たことないような服だから違和感しかない。試着室の外で梓さんが「着れた?」と確認しに来たから、カーテンを開けて見せると、梓さんは大絶賛してくれた。


「可愛い!!すごく可愛いよ!!」

『そ、そう…?』

「うん!珠雨ちゃんいつもシンプルな服しか着てないから、こういうのも着るべきだと思う!!」


と言われても実年齢23だし、もう派手なものはねぇ…

一旦元の服に着替えて試着室を出て、もう一度店員さんに手伝ってもらって車椅子に乗る。梓さんが他にも色々探してくるって張り切っている時、携帯が鳴った。携帯の画面には「高明さん」の文字が。


『もしもし?』

《すみません、急に電話して。今時間大丈夫ですか?》

『大丈夫ですよ。どうしたんですか?』

《先日、あなたの別荘に行ったでしょう。その時、何か落ちてませんでしたか?》

「んー……特になかったと思いますけど…」

《そうですか…》


声から落ち込んでるのがわかる。
何か無くしたのかと聞くと、数年前に私があげたハンカチがその日から見当たらなくて、もしかして落として、私が拾って持って帰ってるのではないかと確認の連絡をして来たらしい。一応、別荘の合鍵を渡しているから、中に入って探しはしたけど見つからなかったと。


『一緒に来てた二人にも確認してみますね』

《はい、お願いします》

『…疲れてそうな声してますけど…大丈夫ですか?』

《えぇ、まぁ…ここ数日少々忙しくて…無理はしてないですので大丈夫なんですが、体力的に…》

『…ハードスケジュール、なんですね…』

《なんですか、その言い方は》


高明さんはよく年で体力が…なんて言うけどあの人体力凄いんだよ。付き合ってるし、お互いに成人済だから、まぁ、その、そういうこともするのだけど、いつも私が先にバテる。運動出来ないで体力がない私と、現役警察官で鍛えてる高明さんとじゃ、そりゃ負けるのは明白なんだけど。
最低でも三回はする35歳が、体力ないって言ってるのどう思う?絶対嘘だよ。それで体力的に疲れてるなら、それはもうハードスケジュールなだけだよ。

でも長野県警が忙しくなる程の大事件なんてあったっけ?


『本当に無理はしないでくださいね』

《勿論。最近色々な事件に巻き込まれてると聞いてます。くれぐれも無闇に首を突っ込まないように……まぁ、基本面倒くさがりな貴女ですから、大丈夫だとは思いますが》

『一言余計なんですよ…とにかくハンカチ見つけたら連絡しますね。アレですよね、薄い紺色の』

《えぇ、それです。……ああ、はい。すみません、呼ばれたのでそろそろ》

『はい。頑張ってください』

《はい》


電話を切って、すぐに一緒に長野に行った昴さんと有希子さんに確認のメールを送る。通話が終わるのをまっていたのか、梓さんがいくつかの服を手に持ったまま後ろに立ってた。


「お友達から電話?」

『うん。この前会った時に無くし物したから知らない?って』

「そう…大事なもの無くしちゃったのね」

『大事なもの?』

「うん。わざわざ電話で聞いてまで探してるって事は、とても大事なものなんじゃない?」


大事なもの…ハンカチが?
正確には私があげたものじゃなく、高明さんの弟の景兄が選んで、私がクリスマスにって選んだネクタイと一緒に送っただけなんだけど。ハンカチもずっと持ってくれてたのか。

そっか、大事なのかぁ。


「珠雨ちゃん?」

『ん?』

「何か嬉しいことでもあったの?」

『どうして?』

「だって珠雨ちゃん嬉しそうだから」


顔に出てたらしい。昔から表情がないとは言われてるけど、高明さんの事になるとどうしても顔に出る。
もしかして秀一さんにバレたのも表情では?気をつけなければ。


『…ところで、それ全部私に?』

「うん、そう!似合うと思う服!」


片腕に持ってる服をひとつひとつ私に合わせて見る梓さん。そんなに持ってこられても今日2、3着しか買う予定ないよ。
いくつか合わせられて、その中のふたつに目がいった。


『これと、これがいい』

「どれ?青いの?」

『うん』


薄い青のセーター。下に白いシャツがセットになってるやつ。ギャザーセーターって言うのかなこれ。
あと、紺色のワンピース。下にブラウスとか着るタイプの。


「そういえば、珠雨ちゃんの服、青系多いけど…青好きなの?」

『ううん。特にそういうわけじゃないけど』


高明さんのスーツが青だから。
そういうの考えると自然と青系の服とか物が増える。

とりあえず今日は、そのふたつと梓さんが最初に選んだ赤いオフショルダーのセーターだけ買うことに。買う気無くて棚に戻そうとしたら梓さんが、これだけは絶対着て欲しいってお願いされて熱意に負けた。

お会計を済ませた時、ちょうど携帯が鳴って昴さんがハンカチを拾っていたらしい。私のだと思って洗濯して返そうとしたけど、忘れてたんだとか。後で取りに行って、明日長野に行くから、その時に返しに行こうかな。

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