見ていた

「事件や、工藤!!」


探偵事務所で小五郎さんに色々と教えてもらいながら蘭ちゃんと一緒に勉強中、扉の方からそんな声が聞こえてきた。
振り返ると帽子をかぶった色黒の男の子と、ポニーテールの女の子がいた。声の主は帽子の子だろう。


「服部君と、和葉ちゃん!ていうか、工藤って?」

「へ?」

「言ってたよね、「事件や工藤」って!」

「あ、せ、せやからそれは…事件やから躍動!しまっせ!っちゅー意味やがな…」


焦った男の子は、誤魔化すように「工藤」ではなく「躍動」だと訂正した。
どうやらコナン君の事を知っているらしい。


『…お友達?』

「あ、うん…大阪府警本部長の息子さんで、新一と同じ高校生探偵の服部平次君と、服部君の幼馴染の遠山和葉ちゃん」

「なんやえらいべっぴんさんやなぁ。初めまして、遠山和葉言います〜」

『安室珠雨です』

「珠雨ちゃんか〜!よろしゅう!」

「ん〜……?あんた、どっかで見た事あるような…」

『気のせいじゃない?』


隣に来て顔を覗く彼に、嫌な予感がした。


「……あ、あー!!!あんた、とうじょブフッ」

『それ以上言ったら殺す』

「……ス、スンマセン…」


大阪府警本部長って確か、平蔵さんか。そういえば幼い頃に家族で2,3度会ったことあるな。まさか覚えられているとは。
名前を言われそうになったから口を塞いで、隣にいる蘭ちゃんに聞こえない程の小声で言うと、大きく首を縦に振った。


「なにー?平次知り合いなん?」

「い、いやぁ、他人の空似やろ!!」

「んで、何しに来たんだよ?」

「あ、あぁ!ちょっと、殺人事件が起きてな」

「殺人事件て…もしかして、大阪で起こった事件をわざわざ相談しに来たのか?」

「ちゃうちゃう。現場はここ東京で、その証人がこの大滝はんなんや」

「お、大阪府警の大滝警部!?」

「どーも、ご無沙汰しております…」


平次君が扉の方を指差して、そっちを見るとスーツを着た男の人が立っていた。
話を聞くために勉強道具を片付けて、蘭ちゃんは大滝さんに「座ってください」と言って、お茶を淹れる為に席を立つ。私は少し端に避けて、大滝さんがさっきまで蘭ちゃんが座っていたところ、私の横に座った。

話を聞くと、大阪と神戸で殺人を犯した犯人の目撃情報が東京であり、その犯人の仕事等を紹介したりして何かと世話をしていた犯人の高校時代の担任のおじいさんを警視庁と合同で見張っていたらしい。その張り込み三日目に、いつもなら朝の散歩をするのに出てこないおじいさんを不思議に思って様子を見に行ってみると、部屋の通気口から首を吊って死んでいたという。部屋の入口も窓も見張っていて、侵入者はいなかったことから自殺として処理されたのだけど、首吊った時に使われたと思われる椅子が、遺体の爪先から椅子の座面が10cm程離れていたらしく、殺人ではないかと思って休暇使って東京に来たのだとか。


「つまり、その椅子は自殺したように見せかけるための犯人が置いた小道具やったっちゅーこっちゃ。部屋の扉は鍵かかって無かったみたいやし、他殺で間違いないやろ」

『その部屋見たの?』

「いや、これから行くで」

『人から話聞いただけで殺人って決め付けるのもどうかと思うけど』

「…せやったら、あんたも行くか?現場見たら、他殺かどうか分かるやろし」


ムッとした顔でそういう平次君。
別にその事件が他殺か自殺かは興味無い。私が言ってるのは、「見てもないのに決めつけるバカがここにもいるのか」って事。人の先入観やらが入り交じった話を聞いて解決するなら、この世に裁判官やら警察やらは必要ないのよ。


『行ってもいいけど、私車椅子だから邪魔でしょ?』

「そんなん入口に置いとけばええやん」

『じゃなくて、床這うから現場荒らすかもって事だよ』

「這うってなんやねん、あんた歩けばいいやろ」

『これでどう歩けと』


そう言ってロングスカートの裾を掴んで、太ももの真ん中くらいまで捲る。そういえばこの子と会った時まだ足あったな。
足が無いことを見ると、平次君は「すまん」って複雑な顔で謝ってきて、和葉ちゃんが慌てて私の足を隠そうとして来た。


「あ、あああかんよ!!女の子がスカート捲ったら!!」

『見た方が早いと思って』

「そら今のは平次が悪いけど…!と、とにかく!そないに簡単にスカート捲ったらあかんよ!分かった!?」

『分かった』


頷いて、捲ったままのスカートを戻す。


「平次ももっかい謝っとき!」

『いいよ、気にしてないから』

「せやけど…」

『大丈夫。ありがとう、和葉ちゃん』

「…なら、ええけど……」

「この前、義足作ったって言ってなかった?」

『まだ届いてないの。だから移動手段は車椅子か、誰かに抱えて運んでもらうかの二択』

「せやったら、お詫びに平次が抱えたったらええやん」

「俺!?…かまへんけど…」

「んじゃ、行くか…珠雨君の車椅子を下に下ろしておくから、探偵ボウズが抱えて来いよ」


小五郎さんが立ち上がって、探偵事務所を出る。平次君が抱えて下まで下ろしてくれて、車椅子に座らせられる。そのまま蘭ちゃん達が来るまで待って、全員が揃ってからそのマンションへと向かった。

そのマンションは七階建て。現場は遺体発見時のままで、明日娘さんが遺品を取りに来るらしいから、今日しか調べられないんだそう。

部屋に着くとすぐに平次君が背負ってくれた。そのまま遺体が首を吊っていたリビングに向かって、和葉ちゃんが携帯の写真と床に倒れている椅子を見比べる。その椅子は和葉ちゃんの家にある椅子と同じもので、個数限定のものでサイズは全て同じ。それを確認するためだけに和葉ちゃんも着いてきたんだとか。

部屋の隅には掃除ロボットと倒れたゴミ箱。首を吊っていただろう場所に鉛筆の削りかす。


『自殺じゃん』

「え?」

「あ、あんた…部屋見ただけで分かるんか?」

『コナン君。そのゴミ箱、鉛筆の削りカスがある所に置いて』

「えっと、こう?」

『うん。で、和葉ちゃん。そこの掃除ロボット起動させてくれる?』

「う、うん…」


和葉ちゃんが掃除ロボットの電源を押すと、動き出す。それは何も無いところで曲がって進み、首を吊っていただろう場所も通っていた。


『こんなに部屋を綺麗にしていて、掃除ロボットまで置いてあるって事は、ここに住んでたおじいさんは綺麗好きだと思うの。それなのに鉛筆の削りカスが部屋の真ん中に落ちてて、ゴミ箱は倒れたまま』

「なるほど?首吊る時に踏み台にしたんは、このゴミ箱ってわけやな」

『椅子を予め倒して置いて、掃除ロボット起動させて…首吊って足で踏み台にしたゴミ箱を椅子の足の間に倒しておけば、掃除ロボットが勝手に部屋の隅っこに持って行ってくれる』

「あとは掃除ロボットが充電基地に戻ればこの自殺現場が完成するっちゅうわけか…変なルートやし、障害物置いてこのルート覚え込ませたんやろな」

「じゃ、じゃあこの事件…」

「あぁ。どっからどう見ても…自殺や…」

『だから言ったじゃん』


大きくため息を吐いた平次君は、事件じゃなかったし解決したから帰ろうとすぐに私を玄関に置いてある車椅子に乗せて部屋を出た。後ろから小五郎さん達も着いてきて、エレベーターのところまで向かう。ボタンを押してエレベーターが来るのを待っている間、平次君は壁にもたれかかって分かりやすいくらい落ち込んでいた。そんなに落ち込む事かな、これ。

自殺したおじいさんは、人に殺されたように自殺したということだけど、何故そんな亡くなり方をしたのか小五郎さんが不思議に思って大滝さんに聞いていた。株で借金をしてしまって、その原因になったこのマンションに住む株のブローカーを恨んでいたらしい。


「確か名前は…」

「二階の布浦さんでしょ?あの人にはマンション中すごい迷惑してるんだから!」


大滝さんがその株ブローカーの名前を思い出そうとしていると、知らない声が聞こえてきた。ここの住民さんらしくて、エレベーターを待っている間に株を勧められて、最初は儲かるけど大金を預けたら大損。旦那さんも乗せられそうになって大変だったと教えてくれた。


「死神みたいな男で顔も死神そっくり!窪んだ目に痩せた頬!顔は青白くて…あ!噂をすれば…」


住民の人がエレベーターの方を指さすと、中に人が乗っていた。中の人は左手に持った拳銃を自分の頭に当てていて、私達に見せつけるように引き金を引いた。そのままエレベーターは上の階に上がって行き、中の様子が分からない状態に。
すぐにボタンを押して下に降りてくるようにするけれど、エレベーターなんてそんなすぐに降りてこない。


「大滝ハン!階段どこや!?」

「え、えぇっと…」

「住人のあんたなら知ってるやろ!?」

「あ、あぁ…」


住人のその人はびっくりしすぎて言葉が発せない状態。というか、何が起きたかよく分かってないんだと思う。自分で階段探すからエレベーターを見張るように平次君は言ったが、同時にエレベーターが降りてきた。ドアが開くと中にはさっき引き金を引いた人が血塗れで倒れていた。

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