母親

長野から帰った次の日。有希子さんから「体調が大丈夫そうなら家に来て欲しい」と言われて、行けるって返事したら昴さんが車で迎えに来てくれた。工藤宅に着くと、有希子さんと旦那さんの優作さんが出迎えてくれた。


「じゃーん!」

『……室内用の車椅子?』


昴さんに抱えられてリビングへ行くと、新品の白くて可愛い、室内用車椅子が置いてあった。それに乗せられて「違和感はないか」と聞かれる。大丈夫だと答えると、これはプレゼントだと言われた。


「家によく来るって秀君から聞いてね。ないと不便かなって思って!」

『しかもこれ、家のと同じやつ…』

「店の人に相談したら、君の家にあるのと同じものが置いてあると言うから、慣れている型の方がいいだろうと」

「ベルツリー急行で哀ちゃんの事教えてくれたり、秀君や新ちゃんの事を組織に黙ってくれている事に対するお礼よ」


ウインクして有希子さんはそう言う。横では優作さんが腕を組んで微笑んでいた。受け取らないのも申し訳ないから、お礼を言って素直に受け取る。


「それにしても、大きくなったな」

『?』

「あら、知り合いなの?」

「昔、事故現場から彼女を助けたことがあってな。足がなくなってしまったのは残念だが…生きていてくれて良かったよ」

『…助けてくれたの、優作さんだったの?』

「あぁ、そうだよ。そう言えばあの時は締切が近かったから、君の親族が来たらすぐに帰ってしまったから名乗ってなかったのか」

「あら〜!!じゃあ、もしかしてもしかするの!?」


楽しそうな満面の笑みで私と優作さんを交互に見る有希子さん。そういえば初恋の事話したんだった。


『ずっとお礼が言いたかったの。助けてくれてありがとう』

「いや、お礼を言われる訳にはいかない。君を助けはしたが、君のお母さんは助けられなかったんだからね」

「珠雨ちゃんのお母様?」

『その事故で母は死んだの』


母の運転する車の助手席に私は乗っていて、居眠り運転のトラックが突っ込んできて母は即死。私は両足を切断する大怪我。トラックの運転手もその事故で亡くなった。


「そうなの…」

『でも、人生死あり。修短は命なり…って言うでしょ』

「?なにそれ?」

「中国の軍師の言葉で、「人は死を避けられない、短い人生を終わらせるのは天命だ」って事だ」

「へぇ…」

「しかし、よくそんな難しい言葉を知っているね」

『好きな人が昔から中国のことわざとか、そういうの詳しくて』

「もぉ〜、諸伏さんのこと大好きじゃないのよ!」


そりゃそうだよ。私から好きになったんだもん。

有希子さんは本当にこういう話が大好きらしく、勢いでぎゅーって抱きしめられて、頭を撫でられる。


「じゃあ、今はお父さんとお兄さんと一緒に暮らしてるの?」

『ううん。兄と二人で』

「あら。お父さんは?」

『知らない。興味無い』


母が生きてる間も家に居ることがなくて、母の葬儀にも来なかった人の事なんて知らない。私のお見舞いは一回だけ来たけど、あとは全部部下の人任せ。たまに休みが取れたからって一緒に出掛けるけど、結局仕事が入ってまともに話したことさえない。
それを言えば優作さんに「お父さんのお仕事は?」って聞かれた。チラッと秀一さんの方を見ると、じーっと私がそれを言うまで待っている。どうにも知りたいらしい。


『…警察官。階級は知らない。上の方とは聞いてる』

「警察庁の上の方…お名前は?」

『…東条 颯汰』

「君、東条警視監の娘さんだったのか」

「知ってる人?」

「亡くなったお母様の妹さんのお子さん…この子にとっては従姉妹だな。その子達と知り合いでな。それで東条警視監とも少しだけ」

『そういえばあの二人、推理作家と探偵だったっけ』

「あぁ。彼女達は元気かね?」

『ずっと喧嘩してる』

「まだ仲悪いのか…」


二人の現状を聞いて小さくため息を吐く優作さん。この人の前でも喧嘩しかしていないらしい。サイコパスと度の過ぎたシスコンだもん。喧嘩するよそりゃ。

父の名前を言ったことによって、秀一さん達に私の本名が「東条」である事が知られた。どうせすぐにバレると思うからいいんだけど。
秀一さんに「下の名前は教えてくれないのか」と聞かれたけど、もう苗字わかったんだから調べれば分かるだろうし、そもそも教えたって本当かどうか結局調べるんだからと教えないでいた。どうせ兄のこと調べてるんだから、そのついででも調べられるだろう。



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従姉妹達は今後出てくる予定ないです
出ても名前だけか番外編とか

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