クリスマス

「珠雨ちゃーん!」


ポアロに入ろうとしたら後ろから声をかけられる。振り返るとそこにいたのは和葉ちゃんと平次君。

平次君何か不貞腐れてない?


『どうしたの?平日だよ今日?』

「錦座にあるイルミネーション見に来てん!折角なら皆で見よう思て、蘭ちゃん達も誘いに来たんよ」

『あー、クリスマス近いもんね』

「珠雨ちゃんも居たら誘お思てたんやけど、よかったら一緒に行かへん?」


ニコニコと笑顔で言う和葉ちゃんの後ろで、少しムスッとしている平次君。やっぱり不貞腐れてるよねこれ。さては二人で行きたかったんだな。


「平次んとこのおばさんがな、錦座のカフェの食事券当てて貰ってきたから、イルミネーション見ながら夜ご飯食べへん?」

『ん、んー…』

「な!平次もええやろ?」

「…ええけど、体調とか大丈夫なんか」

「あ、せや。体調悪いとかやったら全然断ってくれてええんやで!」

『それは、大丈夫だけど…』


告白とかする気だったのなら行くの申し訳ないなぁ。

そう思いつつ和葉ちゃんの勢いに押されて、平次君も止める気がない様なので三人で蘭ちゃん達を誘いに事務所の方に行くことになった。
急に行くのもビックリさせるから先に電話しようと、ご機嫌で蘭ちゃんに電話をかけている和葉ちゃんの後ろで小声で平次君に話しかけた。


『いいの、私も行って?』

「しゃーないやろ、止めたら不自然やし…いっぺん決めたらやめへんしコイツ」


ハァ、とため息を吐く平次君。やっぱり告白とかする気だったのでは、と罪悪感。女の子が好きそうな綺麗な場所聞いてたし、クリスマスのイルミネーションなんてベタだけど告白するには満点の場所だもんね。
そんな事を思っていれば、和葉ちゃんに手招きされる。平次君が抱えてくれて、そのまま階段を上がる。私抱えられる必要あるかなこれ。


「せやから、蘭ちゃん達も誘お思て、来てもーてん!」


そう言いながら和葉ちゃんは事務所の扉を開いた。中には当たり前だけど驚いた顔の蘭ちゃんとコナン君。でも蘭ちゃんは今夕飯の買い物して来たばかりらしく、手には袋が握られていた。小五郎さんが七時には帰ってくるからそろそろ作り出さないといけないと断ろうとすると、和葉ちゃんも夕飯作り手伝うと言い出す。その間私と平次君とコナン君はポアロで暇潰ししててと、そのまま事務所から出て、和葉ちゃんと蘭ちゃんは上の自宅の方へと向かっていった。


「…おい、工藤」

「あん?」

「「何しに来た?」とかしょーもない事聞く気やったら」

「聞かねぇよ…大体わかるし」

「せやったらええけどな…姉ちゃんもすまんな、急に誘ってしもーて」

『いいよ、暇だし』


平次君に抱えられたまま、ポアロに入店。車椅子はコナン君が押して来てくれた。


「いらっしゃいませ…って、あれ。珠雨、その子はお友達かい?」

『うん』

「そっか、ならソファ席に。コナン君、車椅子はこっちに置いてくれるかな」


今の時間、お兄ちゃんがシフト入っているから接客はお兄ちゃんで。車椅子は椅子を退かしたところに置かれて、私達は四人席に案内された。ソファの方にコナン君が座って、私の隣の席には平次君が。
飲み物を注文すれば、お兄ちゃんはキッチンの方に向かってカチャカチャと音を立てて準備する。横では平次君が頭を抱えてため息を吐いていた。



「しかし、わざわざ来るかねぇ…東京まで」

「うっさいわ、ボケェ!!わざわざロンドンに行って告った男に言われたないわ!」


確かに。


「お!俺の場合は、たまたまそこがロンドンだっただけで…」

「ほぉー、言うてみたいもんやの。そんなカッコイイ台詞」

「そういえば珠雨さんはイルミネーション見に行かないの?」


「諸伏警部と」と小声で付け足したコナン君。

行きたい気持ちはあるけど、あの人忙しいから無理だし。そもそもクリスマス一緒に過ごしたことないし。あれ待ってそういえば無いね、クリスマス一緒に過ごしたこと。なんか急に悲しくなってきたな。

別の話題にしようと、頭を回転させる。そういえば今日の夕方、なんとなく見てたワイドショーで映画特集してたっけ。なんか、13日の…あ。


『ところで、日付け的に今日でいいの?』

「あー、せやな。よりによって今日は」

「13日の金曜日、ですか?」


注文した飲み物を持ってきたお兄ちゃんが、平次くんの耳元でそう言った。

そう、今日は13日の金曜日。イエス・キリストが最後の晩餐を行ったのが13人だったとか、そのキリストが処せられたのが金曜日だからだとか、様々な理由から不吉と言われる日。
まぁ、確率で言えば年に二回来るわけだし、日本だから関係ないとは思うけど。

お兄ちゃんも同じことを言っていて、「気にせず告白しても大丈夫だ」と伝えていた。この話振っておいてそれをこの人に説得されるの腹立つな。


「しかし、今日は仏滅…日本的にも避けられた方が宜しいかと」

『え?』

「あ、これは失礼。会話が耳に入ってしまって、つい戯言を」


隣の席に座っている、眼鏡をかけて、片耳にイヤホンを付けた男の人が話に入ってきた。私達のすぐあとに来店してきた人だったかな。そういえば初めて見る人だな。観光とか、仕事でここに来てふらっと立ち寄った人かな。

でも、なんか見たことある気がする。

どこで見たんだろうと記憶を遡っていると、またポアロの扉が開いて鈴が鳴る。待ち合わせしているらしく、まだ相手の人達が来ていないんだそうで。どうやら予約した大学生の一人のようで、隣の席の「予約席」のプレートが置いてあった机のソファ席に荷物を置いて、お昼頃からお腹の調子が悪いとかですぐにトイレに入っていった。
それから暫くしてからその待ち合わせしている相手の男女二人が来店して、遅れてもう一人お兄さんが来店した。


『ところで、和葉ちゃん達遅いね。煮込み料理かな』

「肉じゃがって言ってたよ」

『じゃあそろそろかな。…それにしてもいいよね君らは。大事な人とイルミネーション見に行けて』


机に肘を付いてため息を吐く。
蘭ちゃんとコナン君、平次君と和葉ちゃんの4人でイルミネーションなんてただのダブルデートじゃないか。そこに混ざるのなんだか申し訳ない気持ちがあるな。


「僕と一緒に行く?」

『脳みそ何で出来たら自分が私にとって大事な人とかいうおめでたい発想になるの?イチゴ味の飴?』


笑ってそう聞いてきたお兄ちゃんに眉を顰めて返す。間違っては無いけど間違ってるんだよね。

そりゃあ勿論、お友達とも見に行きたいけど私は高明さんと見に行きたいんだ。多分かれこれ半年は会ってない。イルミネーション見に行きたいじゃない、会いたい。そりゃ連絡取ってるし電話もしてるから声は聞けてるし、似合うと思ってって高明さんは色々贈ってくれるし私も贈ってる。それでも会いたい気持ちは別である。

またため息を吐く私に、コナン君が小声で話しかけてくる。


「最近会ってないの?」

『うん』

「最後に会ったのいつ?」

『あの…啄木鳥会の事件の時?』

「……だいぶ前だね」


そう。そうなの。お互いに予定が合わなさすぎて会えない。悲しい。


「キミ達、少し音が出るから、ヨロシクちゃん」


そんな話をしていると隣の席の、さっき女の人と一緒に来たお兄さんが、パソコンをカバンから取り出して電源を付けるところだった。どうやらお姉さんが誕生日らしくて、バースデー動画を各々作成したからそれを見るんだとか。
お兄さんがパソコンの電源ボタンを押すが、電源が付かずおそらくバッテリーが切れてるんだろうと、梓さんに延長コードを貸してもらって、パソコンの電源プラグをコンセントに刺した瞬間、ブレーカーが落ちたのか停電した。


『なに…?』

「火花みたいなのが一瞬光ったけど…」

「梓さん、ブレーカーを!」


お兄ちゃんその声で梓さんがスマホの明かりを使ってブレーカーを付ける為に、さっき壁際に避けた椅子を配電盤の方まで持って行く。ブレーカーを上げようとした時、さっきのパソコンに電源を入れようとしていたお兄さんの悲鳴が聞こえた。その後すぐにドアが閉まる音とビッていう謎の音が。

梓さんがブレーカーを上げて店内に明かりが戻ると、そこには血を流して床に倒れている大学生のお兄さんがいた。

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