推理

コナン君が出ていってすぐに、小五郎さんがふらふらと歩き出し、壁際に並べられていたパイプ椅子に座った。


「警部殿。夜も老けてきましたし、この辺りで蹴りをつけましょう」

「犯人が分かったのかね!?」

「はい、これから真相をお話しますから、容疑者2人をここに連れてきていただけますか」

「2人を?」


疑問に思いつつ、目暮警部は小五郎さんの言う通りに容疑者である2人をここに連れて来るように高木刑事に指示を出した。
すぐに連れてこられた2人は横に並べて座らされ、そのまま小五郎さんの推理が始まった。


「大岡さんが帰宅したあと、現場を出入りしたのはあなた方だけです」

「私はやってない!」

「私だって!」

「現場には被害者の血で、「K」と書き残されていました。状況的にあなた方のどちらかが、操作を撹乱する為わざと書き残したとは考えにくい。被害者が残したダイイングメッセージだと考えて間違えないでしょう」


ただ、問題なのはそれが何なのか。普通に考えてイニシャルだと思うし、容疑者2人はイニシャルが「K」であることから、どちらが犯人かは分からない。というのが現状だ。


「九栄さん、あなたが大岡さんにお金を渡しているのは毎月27日ではありませんか?」

「え?えぇ…」

「甲斐谷さんは5日」

「は、はい、そうです…!」

『汐見のホテルに大岡さんが現れたのは8日、薬局に来たのは17日』

「その通りです…」

「えぇ…どうして分かったんですか!?」

『カレンダーに書いてる。ね、小五郎さん』

「えぇ、そうです」


大岡さんの手帳には「○オカ」と書かれていた。それは「マルオカ」ではなく「オーオカ」と読むのが正解だ。これとカレンダーを見ると、大岡さんは人や場所の名前を書き記す時、アルファベットや数字を当てはめる癖があったのだろう。

カレンダーの27日には「9A」。5日には「89女」。
九栄という字は音読みで「きゅう」と「えい」になり、それをアルファベットや数字にすれば「9A」。
甲斐谷さんは薬剤師であり、薬の部分を「89」、女性だから「女」。
8日の「403」は汐見。17日の「100」は「10」とアルファベットの「O」で「十王」。

これに当てはめると、現場にあったアルファベットの「K」はイニシャルではないということが分かる。あれは「警官」の「K」で、犯人は立野巡査となる。


「立野巡査が犯人!?」

「ま、待ってください!あれが警官のKだとしても、どうして私が犯人なんです!?」

「遺体を発見した時、お前は家の中に不審者がいないか確認すると言って最初に台所に向かった。妙じゃないか。何故、1番近い向かい側の部屋から調べなかったんだ」

「そ、それは…」


その時きっと、立野巡査は台所の勝手口に鍵をかけたのだろう。犯行後出た勝手口は鍵が開いている。それを確認すると言って、勝手口の鍵を閉めに行った。
それで窓も勝手口も閉まっていた現場が出来上がる。

事件前のおば様が言っていたゴミ荒らしはきっと彼だろう。巡査としてパトロールをしながらゴミ捨て場を確認して、大岡さんの情報を得ていた。そこから今日容疑者である2人が、大岡さんの家を尋ねることを知って、犯行を実行した。


「お前は九栄さんが現場を逃げ出した後、勝手口からこっそり家に入り、大岡さんを殺害し、また勝手口から出た。そして何食わぬ顔で花沢さんの前に姿を現したんだ」

「デタラメだ!!何か証拠でもあるんですか!?」

『あなたが今身につけてるじゃない、証拠』

「!?」

『大岡さんを殺害した時、帽子が脱げて落ちたんじゃないの?だからさっき白い何かが付いてた。あれ、砂糖だよね』

「そんなこと…」

『それに、さっき汚れた部分を下にして汚れ払ったでしょ。普通、何がついて汚れてるかを確認する為に上に向けるのよ』

「もしかして、帽子をひっくり返せない訳でもあるんじゃないのか」

「…それは……」

『そこに、証拠があるんでしょ』

「俺の推理が正しければ、消えた大岡さんの差し歯は、お前の帽子の中にある!」


それを聞いた目暮警部は、立野巡査に帽子を脱ぐことを命令した。しかし、彼は脱ごうとしなかった為、高木刑事が無理やり帽子を奪った。

中には確かに、差し歯があった。

汚れを払う時に、それに気付いて帽子をひっくり返せなかったんだ。


「立野巡査、何故あんなことをしたんだ」


そう聞かれると、彼は全てを告白した。

学生時代、彼は九栄さんと同じ雀荘で賭け麻雀の常連だったそう。大岡さんと同じように運良く逮捕を免れ、それ以降は賭け麻雀を辞め、真面目に勉強をして警察官を目指したのだとか。
しかし、半年前に万引き犯の引き取りに行ったスーパーで大岡さんと再会してしまい、九栄さんと甲斐谷さん同様、お金を揺すられる事になったのだとか。

彼がお金を渡していたのは11日。「水」とあるがあれはKに付け足して水にしたのだろう。


「先月、刑事課配属の内示がありました。それを知った大岡はますます要求をエスカレートさせて…調べてみたら、あいつの被害者は他に何人もいる事が分かりました。このままあいつを野放しにする訳には行かない、そう思いました。そうです、私は裁きを下したんです!!」


告白に熱くなった彼は、そう言い出した。


「あいつに苦しめられている人たちを救うために!!正義の名のもとに!!これは!正義の裁きなんで……!!」

『黙りなさい』

「!?」


黙って聞いてられなくて、彼の手を引っ張り右頬を叩いた。


『理由がなんであれ、お前がやった事は殺人でしょう』

「……」

『日本の警察のみならず、各国の警察官の誇りを傷つける行為である事を自覚しなさい。お前の「正義」はただの自己満足。恥を知りなさい』

「…あ、安室さん……」

「……そこまでだ。立野寿己男、お前を殺人容疑で逮捕する!」


そのまま、彼は高木刑事に連れていかれた。


「安室さん、ありがとう。私達の代わりに彼を怒ってくれて」

『…腹立ったから』

「でも人を叩くのも良くないわ。これからは先に口を動かすように」

「時間も時間だ。佐藤君、彼女を家まで送って行ってあげなさい」


目暮警部に言われ、私は佐藤刑事と一緒にその場を後にした。殺人を犯していないとはいえ、九栄さんは傷害罪、甲斐谷さんは窃盗罪になるそうだ。


「珠雨ちゃんは、家族が警察官だったりするの?」

『知り合いが警察関係者なの』

「なるほど、だからさっきあんなに怒ってたんだ」


佐藤刑事の車の中で、そう聞かれた。


「さっきは本当にありがとう。スッキリしたわ」

『間違えた正義感で下される罰なんて、ただの自己満足のオナニーじゃない。気持ち悪いんだもの』

「結構言うわね、あなた……あ、お家ここであってる?」

『うん。ありがとうございました』

「いいえ。今後何かあったら連絡してね」


後部座席に閉じていた車椅子を出して、乗る補助までしてもらい、佐藤刑事は「じゃあね」とすぐに車を出してしまった。

ただの散歩のつもりが、なかなか面白いものが見れた。暫くはゴロゴロするだけのつまらない日常にはならなさそう。ただこれは黙っていた方がいいんだろうな。

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