磁石と帽子

「ほ、宝石が亀ごと消えただとォ!?そんなわけは無い!この水槽のどこかにいるはずだ!!」


中森さんが水槽の中を探すように機動隊員に指示すると同時に、次郎吉さんが足元にカードが刺さっていることに気づいた。内容は「宝石が盗まれたのが信じられないなら確かめてみろ」というもので、次郎吉さんはすぐにスタッフに連絡し、水槽の金網のロックを解除して脚立を持ってくるように言った。すぐにロックが解除される音がして、脚立も用意された。
次郎吉さんが脚立に乗って水槽の中を調べたけど、いないらしい。


『ねぇ、カーペットと天井はちゃんとチェックしたの?』

「あぁ?」

「確かに…カーペットにはテグスを仕込まれて、それを吊り上げるウインチを天井の照明に仕掛けられてるなんて、事前にチェックしてたら見つけられてるはずだよな!」

「調べなかったのか!?」

「あ、はい…カーペットも証明も、水槽がここに展示される数日前に取り替えたと聞いていたので…」


カーペットにジュースを零した客がいて、それで取り替えた時に業者が折角だからカーペットに合う照明にしたらどうかと提案してきたらしく、模様替えもいいかと思って取り替えたんだそう。つまり、その業者が怪盗キッドなんだろう。


「まあ、今回は儂らの負け!撤収じゃ!!どーせ、もう彼奴はここから立ち去って…」

「と見せかけて、実はまだこの展示場にいるんじゃないか?」


真純ちゃんが次郎吉さんの頬を抓る。
怪盗キッドはいつも部屋の照明を落とすか、煙幕を使って逃げるのに今回はしなかった。だからまだここにいると思ったらしい。だから全員をチェックしないかと。


「でも、今ボクがしたように頬を抓るのは女の子にはしたくないし、二人一組になってボディーチェックし合うってのはどうだ?キッドなら、宝石付きの亀を今も持っているはずだしな!」

『じゃあ、蘭ちゃんと園子ちゃんは二人でやって…私とやろっか』

「え、いいのかボクで?」

『うん』

「…まあ、君は足で証明出来るしな」

「じゃあ、全員二人一組になってボディーチェック始めろ!宝石亀を持っている奴がいたらすぐに報告しろ!!」


中森さんの指示でさっき頬を抓られてキッドじゃない事を確認した次郎吉さんと、明らかに違うだろうコナン君を除いた全員がボディーチェックを始める。


「じゃあ、歳の順でボクからやろうか!」

「歳の順って…世良さん、珠雨ちゃんより誕生日早いっけ?」

「ていうか、なんであんた安室さんの誕生日知ってるわけ?」


真純ちゃんの言葉に、隣でボディーチェックを始めようとしていた園子ちゃんと蘭ちゃんが反応する。
つい先日転校してきて、基本学校にいない私の誕生日を知っているのが不思議なんだろう。


『はい、手を上げて〜』

「はーい」

『…まぁ、持ってないよね』

「当たり前だろ?」


ぺたぺたと真純ちゃんの体を触っていく。ポケットの所を念入りに探して、帽子も取って中を確認するけど亀さんはいなかった。
私は足があるかを見てすぐに終わって、何も無いことをお互いに確認した。


『じゃあ、ちょっと耳貸して』

「ん?なんだ?」

『自分からボディーチェックしようなんて言い出して偉いね、黒羽快斗君?』

「…なっ……!?」

『大丈夫、亀さん持ってないから言わないよ』


これは亀を持っている人物がいたら報告する為のボディーチェック。持っていないから報告する必要が無いだろう。笑ってそういうも、やはりバレたからか焦った顔をしている真純ちゃん。


『私の周りにも変装が得意な人がいてね。見るだけで分かるの。あと、あなた発言が怪しいからね』

「べ、別に怪しい発言なんて…」

『どうして私が、さっきから名前呼ばないと思う?』

「?」

『それが分かれば、怪しい発言もわかるよ』


この人はきっと、真純ちゃんの事を私達より年上の男の子だと思ってる。蘭ちゃん達が「世良さん」って呼んでるから、年上だと思ったんだろう。同級生の男の子なら普通は「○○君」か呼び捨てで、年上ならさん付けで呼ぶ事もあるから。

だから私はさっきからずっと「真純ちゃん」って呼んでない。ただの意地悪。


『まあ、これ持ってるってことは亀を隠したのは君だと思うけど』

「あっ!い、いつの間に…!」


ボディーチェックをした時に、取った大きな磁石。これを持ってたからさっきカーペットが動く前に蘭ちゃんが移動してたんだろう。彼女の携帯はガラケーと呼ばれるもので、磁力で開閉して画面が付く。彼女の近くに強い磁力を持った彼がいたから携帯が閉じたままだと勘違いして画面が付かなかった。それを知らなかった蘭ちゃんは電波が悪いとでも思って移動したんだろう。

そして亀はカーペットで水槽が見えなくなってる時に、これを使って隠したんだろう。多分、プレート部分に粘着剤かなにかが塗ってあって、そこに亀を移動させてネックレスの金具部分を磁石で見えないようプレートで隠した。
その後、亀を回収できるのは次郎吉さんくらいだろうし、何か理由があるのかもしれない。


「…何者なんだ、お前…?」

『探偵の妹』

「妹?」

『うん』

「世良さん!安室さん!チェック終わった?」

『終わったよ。何もなし』

「だそうよ、中森警部!」

「あぁ、分かった」


園子ちゃんが中森さんに伝えると、中森さんは次郎吉さんと小五郎さんの三人でこれからどうするかと話し合いを始めた。コナン君は少し引っかかるようで、蘭ちゃんと園子ちゃんの会話に耳を傾けていて、私と真純ちゃんの方には誰も注目していない事を確認した彼は、小声で話しかけて来た。


「なぁ、アンタ…どこまでわかってんだ?」

『ん?宝石が偽物って事と、君が黒羽快斗って事と、君の幼馴染はあの中森さんの娘さんって事。亀さんと宝石は多分だけど、次郎吉さんが持ってるんじゃないの』

「じゃあ、まず一つ目。どうしてあの宝石が偽物って思うんだ?」

『赤面の人魚の持ち主はイタリアの女優さんでしょ?なら、亀の名前はローマ神話の海神ネプチューン。ギリシャ神話の海神ポセイドンは少し変じゃないかなと思って』

「二つ目。なんであの爺さんが持ってると?」

『どうやってそこにくっつけたかは分からないけど、粘着剤塗れのネームプレートら辺に亀を誘導させて、それをさっき次郎吉さんが探すって言って金網外させた時に回収したんでしょ。それくらいしか亀を取ること出来ないし』

「でも、ネックレスの金具は?」

『それを隠すための磁石だったんじゃないの?』

「……じゃあ、最後。なんで俺の個人情報知ってんだ?」

『それは内緒』


まさか、今までの新聞記事と都内全ての中学校から大学院までの在校生、及び30年分の卒業生のデータと示し合わせて一致した顔だから分かった。なんて言えないでしょうよ。名前さえ分かれば後のこと調べるの簡単だからね。


『まぁ、盗まないで人に危害を加えないなら、君のことは黙ってるよ。今日だけじゃく今後もね』

「え、マジ?」

『マジマジ』

「……何か企んでるだろ」

『君に恩売っても私にメリット無いもん』

「確かに…」

「珠雨お姉さん!」


真純ちゃんと話していると、コナン君が手の甲を人差し指でつついて来た。どうしたのと聞くと、館内のトイレで人がいないか見てきて欲しいって耳打ちで頼まれた。女子トイレだけじゃなく、男子トイレも。
多分、この子は既に宝石の場所と怪盗キッドが真純ちゃんに変装してるのも分かっているんだと思う。キッドがどうやって亀をネームプレートの所に誘導したかも、次郎吉さんが亀を持っている事も。全て。


『いいけど、どうして私?真純ちゃんとかの方がいいんじゃない?』

「あ、えっと…もしキッドが亀を違うところに隠してここにいるなら、珠雨お姉さん以外の人だと思うし…」

『変装した人だった場合逃げられるから?』

「そう!」

『ん、いいよ。中森さん、お手洗い行きたいんだけど、いい?』

「あ?んー……まぁ、お嬢さんなら大丈夫だろ」


中森さんに許可を貰って、その部屋を出る。まぁ、誰だって両足がない車椅子の人間に変装するとは思わないでしょうね。にしてもあっさり許可で過ぎでは?とは思うけど。

言われた通りに、トイレを隈無く探していく。一階の受付近くにあるトイレ。通路の真ん中にあるトイレ。階段付近にあるトイレ。個室も掃除用具入れも、女子トイレは化粧室が別で設置されていたからそこも含めて、全て見て回る。

ここは二階建てだけど、エレベーターもあるから1人でも移動が出来て助かる。

今頃はコナン君が眠りの小五郎で推理してるんだろうな。もう一度見てみたいな、眠りの小五郎。そんなことを考えながら二階の真ん中のトイレを確認する。女子トイレにはおらず、次は男子トイレ。扉を開けると微かに呼吸音が聞こえた。もしかして誰かいたりします?


『誰かいますか〜…』

「んー!」


呼びかけると、呼吸音よりは大きいけど、小さく聞こえた声。場所は個室のどこか。一つ一つ扉を開けて確認すると、一番奥にガムテープでトイレの便座に縛られた、下着姿の真純ちゃんを見つけた。


『す、すごい頑丈に縛られてるじゃん…』

「…っぷは!ありがとう、珠雨君!」

『大丈夫?とりあえずこれ羽織って』

「ありがとう」


下着だと寒くて風邪をひくから、膝にかけていたブランケットを渡した。トイレに行って個室から出た時に、スタンガンで眠らされた様だ。
それにしてもどうして男子トイレにいるんだこの子は。


「それで、あいつは!?」

『キッド?』

「そう!」

『まだ水槽のところじゃない?』

「…ンのやろぉ…!!」

『あ、ちょっと!』


トイレから勢いよく走って出ていった真純ちゃん。勢いよすぎて扉壊れてるわ。というか、まだあなた下着姿なのに…女の子という自覚を少しは持ってくれ。いくら截拳道に自信があるからって言っても可愛いんだから、少しは危機感持ってほしい…。

真純ちゃんに続いてトイレを出ると、隣の女子トイレの扉から園子ちゃんと蘭ちゃんが何事かと覗いていた。


「なんの音?というか、なんで安室さん男子トイレにいるの?」

『真純ちゃんがここで眠らされてて』

「え!?じゃあ、さっきまでの世良さんって…」

「怪盗キッド!?」

『みたいだね』

「ていうか…世良さん下着姿じゃなかった?」

『うん』

「いやいや、「うん」じゃなくて!」


慌てて園子ちゃんと蘭ちゃんが、さっき真純ちゃんが走って行った方へ追いかけて行く。近くに怪盗キッドとコナン君が一緒にいたらしく、私がそこに来た時には丁度キッドが窓から逃げる時だった。
キッドが脱ぎ捨てた真純ちゃんの服を拾って彼女に渡すと、彼女は一番に帽子を被った。


「で?なんで男子トイレで眠らされてたの?」

「あぁ。トイレに行っただろ?その時、女子トイレは混んでたから、男子トイレに行ったんだ」

「ま、マジで!?」

「元々女の子っぽくないし、早く済ませたかったからさ」


なるほど。そりゃ怪盗キッドも男の子だと思うわな。

真純ちゃんが着替え終わって、宝石も亀さんも無事だと蘭ちゃん達から聞いて、もういる必要も無いし警察も撤収する為に色々と片付けとかしているから、私達も帰ろうと外に出る。もう既に真っ暗で、至る所で外灯がに蛾が集まっている。


「そういえば世良さん、帽子のこと何か聞いてなかった?」

「ベルツリー急行でこの帽子を拾った時に、怪しい男を見かけなかったか聞きたかったんだ」

「別に見なかったけど…お気に入りの帽子なの?」

「死んだ兄がこういうのよく被ってて、真似して被ってるんだ。でも、君が拾ってくれたこれに、兄がよく帽子につけてたカタが付いてる気がして…」

『真純ちゃん、お兄さんいるんだ』

「うん、上に兄が。ボクは末っ子」

『しっかりしてるから一番上の長女だと思ってた』

「はは、そんな事ないよ。兄はかっこいいし、頭もいいから…ボクなんてまだまだだよ」


真純ちゃんは相当お兄さんが好きらしい。
私もそんな兄妹が欲しかったなぁ。もう無理だけど。

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