テニス

『テニスコーチ?』

「あぁ。ベルツリー急行の時に会った、お前の同級生の鈴木園子さん。いただろ?」


ベルツリー急行の一件から数日。久しぶりに「仕事」から帰ってきた兄が、第一声「明日暇か?」だったから何事かと思えば、園子ちゃんにテニスコーチを頼まれて伊豆高原の別荘に招待されたらしい。
で、「よかったら妹さんも」って言われて一緒に行かないか。ということだった。

気分転換にいいかと思って、ついて行くって言ったら、すっっごい日焼け防止された。日焼け止めは勿論、日傘に夏用のブランケット。ラッシュガードに帽子にサングラス。病弱ではあるけど別に肌弱いわけじゃないのに、この人たまに過保護がすごいんだよなぁ…

案内されたテニスコート行くと、既に園子ちゃんがいて、近くには小五郎さんとコナン君、蘭ちゃんも来ていた。コナン君はすっごく驚いた顔してる。
多分、ベルツリー急行の時に、兄が「バーボン」であると明かして、その後ポアロのバイトも休んでいたからもう来ないと思ってたんだろう。


「珠雨ちゃんも来てたんだ!」

「気分転換にどうかなって思って一緒に誘ったのよ!体調悪くなったりしたらすぐに言ってね?」

『大丈夫、ありがとう』

「安室さんも大丈夫なんですか?体調を崩されたって聞きましたけど」

「ただの夏風邪ですよ!週明けにはポアロのバイトにも復帰しますから」


それを聞いたコナン君は更に驚いた顔をして兄を見つめた。
組織的にはお姉ちゃん死んだことになってるから、これ以上コナン君達の近くにいる必要ないから、そりゃ不審に思うよね。

ベルモットお姉さんはお姉ちゃんが死んでいない事に気付いた上で黙ってるし、兄は兄で別に思うことがあるらしいからここに残ってるんだよね。それもまた秀一さんに相談しなきゃだなぁ…


「じゃあ、サーブから練習しましょうか。珠雨、危ないからコナン君と一緒に下がってて」

『うん。コナン君、おいで』

「あ、う、うん…」

「!?危ない!!」

「へ?」


兄が叫ぶとコナン君の頭にテニスラケットが勢いよく飛んできた。そのまま頭を押えて倒れたコナン君は、目を閉じて意識を失った。


『コナン君!!コナン君!?しっかりして、コナン君!!』

「園子さん、そこのクーラーボックスから氷とタオルを持ってきてください!!」

「は、はい!!」

「ご、ごめんなさい!!手が滑ってラケットが飛んでいっちゃって…!!」


園子ちゃんから救急箱を受け取った兄の元に、女の人が二人走ってきた。コナン君に当たったラケットの持ち主らしい。
一旦園子ちゃんの別荘に運んで処置をしようかという話になったが、ラケットぶつけたお姉さん、桃園さんの別荘の方が近いらしく、そっちに運ぶことになった。

桃園さんと一緒に来ていた梅島さんが既に医者も呼んでくれているらしく、来る前にぶつけた所を見ると、小さなたんこぶ程度だと確認した。
一度、私の足の上に乗せてコナン君の頭に包帯を巻く。普通に座らせて巻けばいいけど、身体を支えなきゃいけないから私の上に乗せるのが楽に巻けるとか兄は言っていた。

お医者様が来る少し前にコナン君が目を覚まして、そのまま診てもらった。少しぼーっとしてるけど、意識はハッキリしているし記憶障害もある訳じゃないから軽い脳震盪だと診断され、お医者様は帰って行った。


「ごめんね、ボウヤ!汗で手が滑っちゃって…」

「だからグリップテープちゃんと巻いておきなさいって言ったのよ…」

「でも残念だなぁ…携帯のバッテリーが切れてなければムービーで撮って「少年を襲う殺人サーブならぬ殺人ラケット」って題でネットにアップしたのに…」

「子供が怪我したってのに、何言ってんだお前!!」

「冗談だよ…!」

「その冗談が元で瓜生は死んだかもしれないんだぞ!?」


話を聞くと、どうやら彼らは同じサークルの仲間らしい。しかし、一人が事故か何かで亡くなっているようで、その亡くなった人の誕生日を祝うために今日集まったようだ。

確かに、今の石栗さんの冗談は「冗談」というより「度の過ぎた悪ふざけ」だよね。


「じゃあ、少年も無事だった事だし、皆さん俺らと団体戦やりません?丁度男女4人ずつだし、なんならミックスダブルスでも…」

「やるのはいいけど、ちょっと休憩してからにしない?」

「そうね…午前中でかなり汗かいたし…」

「腹も減ったしな」

「お昼冷やし中華だけど皆さんも食べます?怪我のお詫びも兼ねて…」

「ええ!」

「んじゃ、俺の分はいいよ!昨日のアイスケーキの残りを部屋で食うから」


そう言って石栗さんは一人、階段を上って二階にある部屋に向かった。蘭ちゃんと園子ちゃんは桃園さん達の手伝いをすると言って、キッチンに向かい、兄と小五郎さんも食器だしたりする手伝いをすると、蘭ちゃん達に続いてキッチンへと向かった。


「じゃあ、ボウヤとお嬢ちゃんはここでゆっくりしてな」

『ごめんなさい、手伝えることなくて』

「気にすんな。出来ることだけやりゃいいんだから。エアコン付けとくけど、大丈夫か?」

『うん』

「ありがとう」


高梨さんが暑いからとエアコンを付けてくれて、そのまま皆のいるキッチンの方へ行った。
コナン君は何か話したいことがあるのか、でもどう言ったらいいのか考えてるのか、ソワソワしていた。


『よかったね、大した怪我にならなくて』

「あ、うん。そ、そうだね…ねぇ、お姉さん、ってさ…」

『ん?』

「昴さんと、仲良いの?」

『うん』


モジモジして聞きたそうにしていたコナン君に頷く。


『どうして?』

「あ、えっと…昴さんが、」

『仲良くしても大丈夫って?』

「う、うん…」


多分「仲良く」じゃなく「信頼」なんだろうな。
で、昴さんが言うならって感じなんだろうか。


『昴さんと哀ちゃんとは「昔から」仲良いよ』

「じゃあ、安室さんと昴さんも、昔から仲良いの?」

『ううん。あの2人は昔から仲悪いよ』

「…昔から……」

『……ほら、怪我人は頭使わないで寝る!』

「わぁ!?」


何かを一生懸命考えていたけど、きっと彼の中じゃまだ把握出来ないだろう。怪我を理由に無理やりソファに横にならせた。
それでもずっと考えようとしていたから、目元を手で隠す。


『寝なさい』

「は、はぁい…」

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