お喋り

「あら、誰かしらこの可愛い女の子は!」


昴さんに呼ばれて工藤宅へ行くと、この家の主の工藤優作先生の奥さんの工藤有希子さんが出迎えてくれた。
秀一さんに呼ばれたと言えば、「あら〜!」ってニコニコ笑顔で招き入れてくれて、リビングに通してくれた。


「ごめんなさいね、足痛くない?」

『大丈夫、です』

「んふふ、緊張しなくていいのよ?」


当たり前だけど室内用の車椅子がないから、這って廊下を歩く。その事に謝られたけど気にしない。というか、普通に緊張するでしょ。元女優が目の前にいるんだから。


『あ、そうだ。これ…』

「ん?……うそ、これ…!めちゃくちゃ人気で、並んでも買えないって言われてるお店のマカロンじゃない!!どうしたの、これ!?」

『朝知り合いが買ってきて貰ったんだけど、ひとりじゃ食べれないから…よかったらって思って』


朝、私の様子を見に来た兄の知り合いが、わざわざ並んで買ってきてくれたマカロンを有希子さんに渡す。とても喜んでくれたようで、有希子さんは紅茶を入れると言ってキッチンに向かい、「沖矢昴」になる前の秀一さんと一緒に戻ってきた。


「すまんなお嬢、呼び出してしまって」

『んーん、大丈夫だけどそのお嬢って呼び方いい加減やめない?』

「レモンとミルク、どっちが好き?」

『ミルクで』

「はい、どうぞ。それで、こちらはどこのお嬢様?」

「黒の組織の一員、バーボンの「義理の妹」の…安室珠雨、だったかな?」

『安室珠雨です』

「あら……組織の?」

「えぇ。だが、信頼出来る子ですからご安心を」


有希子さんが淹れてくれた紅茶を一口飲んで、秀一さんはそう言った。その一言で有希子さんは安心したようにまた微笑んで、「そうなの」と。


「ところで、ボウヤ…江戸川コナン君には会ったのか?」

『うん』

「そうか。で、素性は明かしたのか?」

『秀一さんにも話してないのに話すわけないじゃん』

「それもそうだな」


まだ秀一さんには本名も何も話してない。
けど、薄々勘づいてると思う。

有希子さんがキョトンとした顔で私の方を見るから、ベルモットお姉さんの近くにいたら変装を見破るのが得意になった事を話すと「あぁ、シャロンを…」と納得してくれた。確か、有希子さんとベルモットお姉さんはお友達なんだって、少し前に聞いたことがある。女優仲間ってところだろうか。


『私の事を組織の一員だと思って、あたふたしてるの見てると楽しくて…まだ言わなくていいかなって。どうせ秀一さんもその内分かるだろうし』

「ふむ…」

『それで、呼び出したのはなぁに?お姉ちゃんの事?』

「あぁ、そうだったな。連絡をしてくれて助かったよ。おかげで組織の動きがある程度予測できる」

「あら、シャロンがミステリートレインに乗るって教えてくれたのは彼女なの?」

「はい」


呼び出された理由は、この家の隣に住んでいるお姉ちゃんを守るために、秀一さん達の立ち回りを頭に入れて置いて欲しいという事と、組織のメンバーの確認だった。


『行くのは多分…お兄ちゃんとベルモットお姉さんだけじゃない?』

「ジン達は来ないのか」

『終着駅にいる可能性はあるけど、行くってことは聞いてない』

「作戦内容とか聞いてるの?」

『いいえ、なにも…あ、でも爆弾がどうのって言ってた気が…』

「爆弾?」

『爆弾とか、火事とか…そんな話してた気がする』


数日前、寝ようと布団に入った時に電話してた兄の口から聞こえた言葉。
既に眠気が強くてうとうとしてたから、本当にその言葉を言っていたかはどうかは分からないけど。


「なるほど。お嬢の立ち回りは指示されてるのか?」

『えっと、7号車から後ろには行くなって言われたかな。7号車、8号車、貨物車かな?』

「ほう……7号車と8号車と貨物車か…それで、お利口さんにそこには行かないつもりなのか?」

『だって車椅子だもん』

「義足はどうした。あっただろう、可愛らしいやつが」

『この前、コナンが拐われた時にお兄ちゃんが自分の車ぶつけて、犯人の車を無理やり止めたことあったでしょ。あの時義足を付けてたんだけど、ぶつかった衝撃でぽっきり。今度長野に買いに行くまで車椅子しかないの』

「長野まで?いいわねぇ〜、私も行っちゃおうかしら」

『一緒に行く?』

「あら、いいの?」


冗談のつもりで言ったのだろうか、着いてくるかと聞いたら驚いた顔で返された。


『うん。泊まるのは別荘だし、1、2人くらいなら部屋も余ってるし』

「まぁ、別荘!いいわね〜!じゃあ、このミステリートレインの旅が終わったら三人で行かない?」

『うん』

「……行くのは構いませんが、話を戻していいですか?」

「あ、ごめんなさいね。どうぞ」

「最後尾が貨物車だったか」

『確かそう』

「…ふむ……お嬢にも手伝ってもらおうかと思っていたが、出来ることがなさそうだな」

「そうねぇ……あまり無理させるのも悪いし…」


車椅子だとやれる事にも限度があるし、多分私がいない方が作戦もスムーズに進むだろう。下手に動かず、何かあれば「昴さん」の携帯に連絡を入れることになった。二人ともどうせ出払っているから連絡を取ることくらい大丈夫だろうと。


「しかし、彼は本当に彼女を殺るつもりなのか?」

『しないと思う』

「え、どうして?」

『詳しいことは言えないけど、あの人は多分…始末したと見せかけて保護する気じゃないかな』

「…もしかして、そのバーボンって人……いい人?」

『いい人ではある。………私は嫌いだけど』

「…俺が言うのもなんだが、いい加減許してやったらどうだ」

『やだ』


即答で断ると秀一さんは大きくため息を吐いた。

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