タブレット端末

先日、コナン君が拐われた事件で、もう一度聴取がしたいと兄の方に警察から連絡があったらしく、呼ばれた日がちょうど私の定期検査の日と同じだった為、検査が終わってから聴取の為に警視庁へと向かった。しかし、特に何も無いということですぐに解放された。

帰ろうと警視庁から出ると、入口にコナン君と数人の子供達がいた。声をかけると、彼らは少年探偵団をしているらしく、「子供犯罪防止プロジェクト」というパンフレットのモデルになった為に撮影に来たらしい。しかし、どうやら一緒に来た保護者の人を待っていたけど来れなくなったようだ。


「なるほど。しかし、子供だけじゃ心配だね」

『じゃあ、私がついてるよ。お兄ちゃんは今からポアロのバイトでしょ』

「え、で、でも…」

「そうだね。じゃあ、終わったら連絡してくれ。梓さんに言って迎えに行くくらいは出来るから…」

『ん、』


そのまま兄は駐車場へと向かい、車でポアロのバイトに向かった。割と時間ギリギリだから間に合うかな。


「おい、コナン。あの兄ちゃんとこの姉ちゃん、誰だ?」

「あの人は小五郎のおっちゃんに弟子入りした探偵で、この人はその妹さん」

『安室珠雨だよ、よろしくね』

「美人兄妹なんだね!」

『それで、ここで待ってるってことは誰か刑事さんが案内してくれるの?』

「はい!高木渉っていう刑事さんが来るはずなんですけど、もう約束の時間過ぎてるのに来なくて…電話も繋がらないんです…」

「んじゃ、千葉刑事にでも電話してみっか…」

「じゃあ、佐藤刑事に電話して!」


どうしてこの子達は刑事さんの携帯番号を普通に知ってるんだろうか。他にも千葉っていう人や佐藤っていう刑事さんの番号も知っているらしい。

なんか、そのうち私の父の番号とか聞き出してそうだな…

コナン君が、佐藤刑事に連絡するとすぐにその人は外に出てきてくれた。大岡さんの事件の時にいた女刑事さんだった。事情を話すとすぐに入館証を貰いに行ってくれて、それを胸に付けるよう言われる。


『コナン君、コナン君』

「ん、なに?」

『この子達の名前教えてくれる?』

「あぁ…あの女の子が歩美ちゃんで、あっちが光彦。もう一人が元太だよ。本当はもう一人いるんだけど、保護者として来てた博士の看病に帰ったんだ」

『ふーん…』


コナン君から皆の名前を聞いている時、光彦君が佐藤刑事に細長い箱を渡していた。私達が警視庁から出てくる少し前に、帽子をかぶったおじさんから「高木刑事から恋人の刑事さんに渡して欲しいと頼まれた」って渡されたようで。


「生モノだから、明日か明後日までに早く食えって言ってたぞ!」

「でも食べられそうにはないわよ?」


箱に入っていたのはひとつのタブレット端末。


『その人、本当に生モノだからって言ってたの?』

「はい。だからてっきり食べ物かと…」

「ビデオレターじゃない?高木刑事恥ずかしがり屋さんだから!」


佐藤刑事がタブレット端末の電源を付けると、画面に映し出されたのは高木刑事の顔を横から撮った映像。口元にガムテープが貼られ、首には縄が括られており、縛られてどこかに寝かされているような映像だった。数秒すると映像が切り替わり、別アングルからの映像が映し出された。
それは、高木刑事が寝かされている場所がどこかの建築現場で、不安定な木の板に寝かされてもし寝返りを打ってしまったら宙ぶらりんになるのがわかる映像だった。


「起きなさい高木君!!高木君!?起きて状況を把握して!!」

『多分、音声は届いてないよ』

「え?」

『これ、向こうの音声聞こえないでしょ?だから多分向こうにも届いてないし、なんなら向こうにはこっちの映像映し出されてないわ』

「そ、そんな…!!」

『とにかく、佐藤刑事は他の刑事さん達にこの事知らせて捜索しないと。時期が時期だから、もし場所が寒い場所なら凍死する可能性がある』

「そ、そうね!!」


佐藤刑事はすぐにタブレット端末を持って、自分の課のある場所に入っていった。そこについて行くと、見た事のある刑事や警部が沢山いた。

佐藤刑事が事情を話すと、すぐに高木刑事の捜索と経緯の調査が開始された。どうやら、高木刑事は昨日誰かと会う約束をしているから一泊する予定だったらしく、まず空港に連絡がされた。
タブレットは充電出来ないように改造されているから、一時間おきに10分だけつけてその映像を録画し、その録画を元に場所を特定する事になった。


『ねぇ、あのタブレットを渡してきたおじさんは、本当に明日か明後日までに開けろって言ったの?』

「え?えぇ…確か、「それは生モノだから早めに開けてくれ、遅くとも明日明後日にはダメになってしまうから」って…」

「高木渉刑事の恋人の先輩刑事に渡してって言ってたから、佐藤刑事なんだと思って。だからコナン君に佐藤刑事に電話してもらったの!」

『…うーん…』

「あ、君たち!今から向こうの部屋で、あれを渡してきたおじさんの事詳しく話してくれる?」


佐藤刑事は事情聴取を頼まれたらしく、私達は別室へと案内された。少ししてから別の女性刑事さんが来て、タブレットを渡してきたおじさんの外見を聞かれた。この人は似顔絵を描く担当の人らしい。

子供達が言った特徴を元に似顔絵が描かれた。帽子をかぶって、メガネのおじさん。


「私に恨みを持ってる可能性もあるのかしら…」

『それは0に近いと思う』

「え?」

『この子達が言うには高木刑事の事は「高木渉刑事」ってフルネームで把握してるけど、佐藤刑事の事は「恋人の先輩刑事」としか把握してなかったみたいだし。全く面識がないと思う』

「じゃあ、なんで…他に気になることは無かった?癖とか、言葉遣いとか」

「特になかったよな」

「うん」

「た、大変です、佐藤さん!!」


息を切らして1人の男性刑事が入ってきた。どうやら映像に何かしらのアクシデントがあったらしい。呼ばれた佐藤刑事と、気になったコナン君が部屋を飛び出して行った。


「お姉さんは分かりますか?高木刑事が何処にいるか…」

『今のところなんとも…映像もしっかり見たわけじゃないし、あなた達にあれを渡したおじさんとも話したわけじゃないしね』

「そうだよね…」

「大丈夫かな、高木刑事…」

『大丈夫よ。あなた達の証言で高木刑事は絶対助かるから。だから、思い出せるだけ話してね』

「うん!!」

「ただいま…」

「あ!おかえりなさい!高木刑事、どうしたんですか!?」


少し安心したような顔で佐藤刑事とコナン君が戻ってきた。高木刑事が警察手帳を落とそうとしていたのを、板から落ちそうになっていると思ってさっきの刑事さんは呼びに来たらしい。
そして今、先週高木刑事が資料室から涙ぐんで出てきたのを見たという刑事さんの証言を元に、なんの資料かを調べ、その事件との関わりを考えている最中らしい。


「で、見ていた資料が一年前に自殺した女性の事件で…3件見ていたらしいのよ」

『女性の自殺…?』

「えぇ。高木君と私が駆けつけたんだけど、どう見ても自殺で事件性が無いから管轄に任せた案件でね。一人目が徳木侑子さん、東都大学医学部の6年生。人を轢き逃げした良心の呵責に耐えかねたっていう遺書もあったわ」


二人目が英会話スクールの教師をしていたナタリー・来間。彼に捨てられた絶望で自殺。
三人目が六本木のバーで人気NO.1ホステスだった彦上京華。貢いでいた彼氏が結婚詐欺師だと分かり、ヤケになって首を吊ったと。


『ナタリー…?』

「ん?」

『ナタリー…も、死んだの…?』

「え、えぇ…一年ほど前に……もしかして、知り合い?」

『う、うん……そっか…あ、ごめんなさい。それで、えっと、その三件目の結婚詐欺師は捕まったの?』

「えぇ。捕まえたのは伊達さんよ」

「伊達さん?」

「誰だ、それ?」

「あぁ、そっか。君たち会ったこと無かったわね。高木君の教育係でね。その結婚詐欺師を捕まえてすぐに、落とした警察手帳を拾おうとして居眠り運転の車に跳ねられて亡くなったのよ。そういえば伊達さんが亡くなったのも一年ほど前よ」


確かに伊達さんが亡くなったと聞いたのは一年ほど前だった。その後、ナタリーが「今は誰とも話したくないから、立ち直ったら連絡する」って言われて以降、ずっと連絡がない。まさか亡くなっていたとは。


『……ねぇ、もしかして高木刑事拉致したのってナタリーの関係者じゃないの?』

「え?どうして?」

『その伊達さんって、伊達航さんでしょ?ナタリー、確かカレンダーに予定を細かく書いてたと思うんだけど。英語教師だからローマ字の「DATE」をデートの綴りだと勘違いするんじゃない?多分、カレンダーにDATEって書いてたよね?』

「確かに、書いてたわ…」

『だから、関係者に「DATE WATARU」ってメールで送っても、「ワタルとデート」と読まれると思う。で、その拉致した人もそうだと思い込んで、同じ「わたる」って名前の高木刑事を、ナタリーの復讐として拉致したんじゃないかな。あの子、会えたり電話した日もカレンダーに書いてたから』


犯人は、同じ「わたる」の高木刑事がナタリーを捨てて別の女刑事に乗り換えたから、ナタリーが死んだと思い込んでるんじゃないかな。


「なるほど…!!…え、じゃあ、ナタリーさんの彼氏って伊達さん!?」

『そうだよ。知らなかった?』

「ぜんっぜん!!じゃあ、ナタリーさんの関係者に絞るように管理官に…」

「待って!そのナタリーさんに北海道関係者っている?」

「えっと…確か彼女の出身が北海道で…でもどうして北海道?」

『この子達にタブレット端末を渡した人、「明日明後日にはダメになる」って言ったんでしょ?「明日明後日」は北海道の方言にあるから…普通は「明日、遅くても明後日にはダメになる」って言うと思う』

「確かにそうね…明日明後日ってどういう意味なの?」

「明後日って意味だよ」

『だから、ナタリーの関係者で北海道が故郷の人に絞るのがいいかと』

「わかったわ、ありがとう!!管理官に伝えてくる!!」


そう言って佐藤刑事はまた部屋を飛び出して行った。


「…珠雨お姉さん」

『なに?』

「どうして高木刑事を拉致したのがナタリーさんの関係者だと思ったの?他の二人かもしれないのに」

『だって、ほかの二人は高木刑事とその周りの関係者と関わりがなさそうだったから。佐藤刑事の話だと、高木刑事とその周りに関係あるのってナタリーだけだもん』


調べたら出てくるかもだけど、「今」考えられるのはナタリーだけ。なら「違うかもしれない」を捨てて、行動に移すのがベストでしょう。


「その、伊達航って刑事さんの事、お姉さんは知ってるんですか?」

『うん。航さんを通じてナタリーとも仲良くなったの。女同士の方が話せることもあるだろうって』

「へー……どんな刑事なんだ?」

『正義感が強くて、友達想い、仲間想いでいい人よ。体格もがっしりしてたし、冷静に状況判断も出来て…』

「お姉さん、もしかしてその伊達さんの事好きだったの?」

『好きだけど、恋愛感情は無かったよ。どちらかと言うとお兄ちゃんみたいな感じだったかな』

「へー…!!」

『それに、他に好きな人いるしね』


笑って言うと、歩美ちゃんがキラキラした目で私を見る。やっぱり女の子はこういう話大好きだよね。


「えー!どんな人!?カッコイイ?イケメンさん?」

『とってもかっこいい人だよ』

「わぁ…!!こんなに綺麗なお姉さんに好かれるなんて、その人は幸せ者ですね!!」

「ねー!」

『歩美ちゃんも将来かっこいい彼氏さんが絶対出来るし、光彦君は絶対私より美人な彼女さんが出来るよ』

「そ、そうでしょうか…」

『だって歩美ちゃんはもうこんなに可愛いし、光彦君だってもうすでにイケメンさんだもん。絶対出来るよ』


歩美ちゃんの頭を撫でると、既に想い人がいるのかその人を思い浮かべて顔を緩めていた。隣を見るも光彦君も同じように顔を緩めて笑っている。

可愛い。

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