センサー
閉館時間が過ぎ、高明さんと中森さんで機動隊の配置箇所や、既に宝石が取られてないかの確認などを終え、気が付けば時刻はキッドの予告の時間間近に迫っていた。
「眠たいのなら、休憩室で寝ていていいですよ」
『ん…大丈夫です…』
いつもなら既に布団で寝ている時間だから眠気に襲われ、それでも寝ないようにと目を軽く擦る。それを見た高明さんに、休憩室にいていいと言われたけれど首を横に振って断る。
「…僕は近くにいることは出来ませんから、何かあった時の為に、終わるまではあの大阪の彼か、コナン君の近くにいるんですよ」
『んー…はい…』
「大丈夫なのか、本当に…」
困ったように眉を下げて息を吐き、頭を撫でながらそう言った高明さんは、もう一度「ちゃんと毛利さん達の近くにいるんですよ」と言って持ち場に向かった。蘭ちゃん達は宝石が展示されている部屋の入口付近にいて、近づけば和葉ちゃん(キッド)がずっとカバンを漁って何かを探していた。
『和葉ちゃん、どうしたの?』
「あ、珠雨ちゃん…なんや眠そうやな?」
『いつもならもう寝てる時間だから…で、どうしたの?ずっとカバン漁ってるけど』
「スマホがさっきから見当たらへんねん…なあ平次、ウチのスマホ知らん?」
「鳴らしてみよか?」
平次君がおしりのポケットから携帯を取りだして和葉ちゃんの携帯に掛ける。着信音は硬質ケースの中から聞こえた。
「指輪の写真撮って、そのまま置いてきてしもたんやわ」
「ホンマか?けどもうキッドの予告時間10分前やし、一段落するまで待っとけや」
「えー!?スマホなかったらキッド来た時写真撮られへんやん!!お願いや平次!警部さんに頼んで取りに行かせてもろてーや!」
「む、無茶言うなや…」
「あかんのー?」
「しゃ、しゃーないな…」
しゃーなくないよ。あかんよ。
あの反応から見て絶対気づいてないな。あの和葉ちゃんの中身がキッドだという事に。
和葉ちゃん(キッド)は平次君の腕にしがみつき、わざと胸をくっ付けて甘えてる。それに頬赤くしてチョロチョロのチョロになってるポンコツ平次君。
「珠雨さん」
『なぁに?』
「あの和葉ちゃんって、キッドだよな…」
『うん、そうだよ』
「…なにしてんだ、あいつ?」
『さぁ…?違う事楽しんでるのは確か』
「うん…」
小声で話しかけてきたコナン君。やはり気づいていたようで。コナン君が気付いているのなら、きっと高明さんも気付いているだろう。
中森さんに事情を話せば、まだ予告の時間まで10分とあるから、すぐに戻ってくるならとケースの中に入れてもらった。
「えーっと…」
『この下じゃない?』
「あ、ホンマや!こんなトコに落ちてたわ」
展示されている氷を囲むように置いてあったパーテーションをズラせば、着信音が鳴っている携帯が出てきた。和葉ちゃんはそのまま屈んでカバンに手を入れると天井からプシュッと音がして氷を覆うように、透明なシートが落ちてきた。かと思えば足元に黒い玉がいくつも転がっていて、それは次々に煙を吐き出し、氷を囲った部屋はすぐに煙で満たされた。
『けほっ、ケホッ、!』
「姉ちゃん!大丈夫か!?」
『んッ、だ、だいじょ、えっ、なに…?』
煙で何も見えない中、耳に何かを当てられた。形からヘッドホンのようなものだと思う。触って確認しようとすれば、すぐに手を引かれて、多分、平次君だと思う。煙を吸わないようにと、口元を手で覆ってくれた。視界が白から急に黒くなって、ヘッドホンでよく聞こえないけど電動ドリルみたいな音が聞こえる。
どれくらい経ったか分からない頃に、ようやく入口が開けられて中森さん達が入ってきた。
「姉ちゃん、大丈夫か!?煙は吸うてへんか!?」
『うん、大丈夫。ありがとう』
「ちゅーか、なんやこのヘッドホン?持っとったん?」
『ううん、煙が部屋に充満したすぐくらいに誰かに付けられたの』
「何だこの黒い布は!?」
入ってきた中森さんに言われて、気がついた。氷を覆った透明なシートが真っ黒に染まっていて、今いる硬質ケースの中も真っ黒になっていた。途中で視界が暗くなったのは、黒い液体が霧状で噴射されたからか。
「珠雨!大丈夫ですか!?」
『はい、大丈夫です』
「良かった…」
おそらく、私の顔も黒くなっているんだろう。高明さんはハンカチを取りだして顔を優しく拭いてくれた。
「お化粧が取れてしまうのは、許してくださいね」
『ん、大丈夫です。あ、宝石は?』
振り向けば、中森さんが氷からシートを剥がしていて、氷の中には宝石が沢山ある状態だった。氷の中央からドリルで穴を開けた形跡があり、そこに「妖精の唇は頂いた」と書かれたキッドカードが貼り付けられていた。
「これはフローラルアイスパフォーマンス」
『氷の中でお花作るアレですか?』
「ええ。細かい飾りやリングは用意していたものをくっ付けただけでしょうが…」
おそらくキッドは黒くした布に入り込んで、明かりをつけて作業をしたんだろう。床に工具や軍手、ライトが落ちていたけど、私達には何が起きてたか分からなかった。視界は暗いし音は大きいしで、お互いの声すら聞こえない状態だったんだもん。
ただ、この状況。三人の中にキッドがいるのは明らかで、中森さんは身包み剥いででも調べてやると息巻いている。
『そんな事しなくてもいいんじゃない?』
「ん?」
『宝石持って出たら、そこのセンサーが反応するんだから』
入口を指させば、平次君が「せやな!」と言って和葉ちゃんと一緒に扉から部屋を出て、続いて私も出る。当たり前だけど警報は鳴らない。だって氷のところよく見たら本物の指輪あるから。
この部屋、囲ってあるから他の部屋より暗いし、黒い液体で更に暗くなってるから本物と偽物の区別は付きづらい。
「とにかく、俺ら三人共キッドやないっちゅうこっちゃ!」
「せやせや!」
「…分かったよ…」
『それにしても、これ、落ちるかなあ…』
「大切な服ですもんね」
身体を見れば顔や腕だけじゃなく、服も所々が黒くなっていた。今日の服はお母さんのお下がりだから、大事な服。綺麗になるかなぁ、なんて言いながらちらっと和葉ちゃんを見れば、「大丈夫」と言いたげに人差し指と親指で丸を作っていた。
「とりあえず着替えましょうか。少しは水で落ちるかもしれませんし」
『でも今日着替え持ってないです』
「私の着替えが車にあります」
高明さんはこっちに泊まる事になった際の着替えや荷物を車に積んでいて、それを取りに中森さんに許可を貰って二人で外に向かう。トランクを開ければキャリーケースがあり、中から高明さんがいつもお部屋で来てる黒いTシャツを出して渡してくれた。
ここで着替える訳にも行かないから、お手洗いで着替えてくると言って向かうと、中に和葉ちゃんの様子を見に来たキッドがそこにいた。
「お、それ着替えか?」
『うん。君は何してるの?』
「顔に付いた墨を洗ったりしにな。あとはこの子の様子を」
奥の個室のドアを開くと、座った状態で眠っている和葉ちゃんがそこにいた。夏だとは言え、夜は寒いだろうからと膝掛けを足に掛ける。
『これからどうするの?』
「ああ、氷の部屋の冷房は切ってもらったから三時間もすりゃ溶けてくれる。そこを狙って盗ろうかと思ってるよ」
『ふーん…頑張ってね』
「…今日は手伝ってくれねぇのか?」
『無理』
「無理って、結構すっぱり言うな…」
『代わりにセンサーの話聞き出してあげたでしょ』
「ああ。あれは聞けて良かったよ」
何かあるのは分かっていたが、その肝心の「何か」が分からないから誰か聞いてくれないかと思っていたようで。聞かなかったら途中で自分から聞き出そうとはしていたようだけど。
和葉ちゃんのいる個室の隣に入って、服を脱ぎ高明さんに借りたTシャツを着る。半袖とはいえ、男性物だから大きい。全然太ももまで隠れるくらいある。
当たり前だけど高明さんの匂いがする。
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