妖精の唇

『次郎吉さん、ごめんなさい。遅れちゃった』

「おお!二人ともよく来てくれたのォ!!」


先日、鈴木次郎吉さんにお呼ばれしたキッドとの対決を行う博物館に高明さんと一緒にやって来た。博物館について直ぐに、受付の人が出てきて休憩室に案内してくれた。次郎吉さんが「疲れたらいつでもここに入っていい」との配慮だって。
今日は足を付けた状態で車椅子に乗って居たんだけど、折角なら歩いて博物館を回ろうと、車椅子をそこに置いて来たら少し時間に遅れてしまった。

高明さんと腕を組んで宝石が展示してある部屋に行くとそこにはコナン君と蘭ちゃんと小五郎さん、キッド事件担当の中森さんと、平次君と和葉ちゃんまで来ていた。


『和葉ちゃんと平次君も来てたんだ』

「ああ、まあな」

「久しぶりやねぇ、珠雨ちゃん!」

『うん、久しぶり』


この前のクリスマスで平次君とお話したけど、和葉ちゃんはすぐに帰ってしまったから面と向かって会うのは久しぶりになる。


「今日は車椅子ちゃうん?」

『うん。前にキッドが来た時、部屋の端にいたけど邪魔になってそうだったから足付けてきたの』

「でもキッドが来るのいつか分からんのやで?夜とかやったら、疲れへん?」

『一応休憩室に置いてるから、疲れても取りに行けるようにはしてるよ』

「ほな大丈夫やな」

「珠雨ちゃんと目線合うてるの新鮮や〜」


和葉ちゃんはそう言いながら私と自分の頭の上で手のひらを行き来しながら、「身長同じくらいやねぇ」と背比べをした。和葉ちゃんは蘭ちゃんとも同じくらいの身長だから、きっと本当の足があれば二人と同じくらいの高さなんだろうな。

平次君と和葉ちゃん達と会話していると、コナン君に手の甲をつつかれて、目線を合わせると小声で「足付けてきた理由本当にそれだけ?」と聞かれる。それに人差し指と中指を立ててピースを作り「一応デートだから」と言えば、でしょうねと言いたげな顔が返ってきた。


『お隣歩きたいじゃない?』


笑って言えば、コナン君は「そうですね」と棒読みで言った。何よ、車椅子だと常に高明さん後ろなんだもん。いいじゃないのよ。

まあ、デートと言っても手繋いだりは出来ないけど、足をつけてれば支えてくれる口実で腕を組むことが出来るしね。


『で、これがキッドが狙う宝石?』

「おお、そうじゃ!!これならお嬢さんの提案通り、客も警備の威圧感もなく宝石を楽しめるじゃろ?」


縦長の大きな氷の中央に展示する宝石を入れて、硬質ガラスで囲む。ガラスの中は他の部屋より室温を下げ、警備隊はガラスの外。客は威圧感無しに宝石を鑑賞ができ、更に警備も固められる。

展示される宝石はピンク色の大きな宝石のついた指輪。


『…綺麗…』

「色や大きさ、形も然ることながらこの表面に出た模様は絶品。「妖精の唇」の名に相応しい」

「そのコンクパールは三重県の英虞湾に眠っていた巨大なアコヤ貝に眠っていた真珠で、その真珠独特のオリエント効果の輝きに魅せられて大枚をはたいて買い付けた唯一無二の一品!」


そう話すのは宝石ブローカーの鳥越さん。今回この宝石を次郎吉さんに預けて展示したいと申し出た、宝石の持ち主なんだそう。ただ、既に別の人物に行き渡る事が決まっているため、盗まれた場合は次郎吉さんが賠償金を支払うことになっているらしい。


「ウソよ!!!」


鳥越さんが宝石の事を教えてくれたと同時に、外から女性の大声がした。そっちを見ると、警備隊員に抑えられながらも鳥越さんに掴みかかりそうな勢いで迫ってきている、綺麗なお姉さんが。


「それは私の祖父が海外旅行中にカリブの大富豪から貰った、大切な贈り物よ!!あんたがその宝石の価値を調べてくれるって言うから預けたのに、返してくれないじゃない!!」

「お、落ち着いて…!!」


女性が言うには、それは祖父が祖母へと贈ったマリッジリングの結婚指輪で、調べてもらうために預けたのに返ってきたのは全く違う模造品の指輪。祖母が先日亡くなり、明日が葬儀だから棺に入れて一緒に天国へ持っていってもらいたいと。

ただ、今それを言ったところでどちらが本当で嘘かなんて分からないからと、警備隊は女性を外へ連れ出した。


『高明さん、』

「ええ、勿論そうしましょう」


あの二人の内、本当の事を話しているのは女性の方。鳥越さんは彼女を騙して宝石を奪ったのだと、理解した。
なんとかして、彼女の方に宝石返してあげたいなぁ、と思い、既にいる快斗君の方へ目線を送る。彼も理解しているようで小さく頷いてくれた。

というか、何普通に警備隊の中に紛れてるのよ。

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