鞭声粛々 夜 河を渡る

到着すると高明さんに抱えられて車を降りる。黒田さんと合流して暫く山道を進むと、機動隊の人達が途中にある小屋を囲むようにして待機していた。どうやらそこに秋山さんと大和さんがいて、二人を包囲しているようだ。その秋山さんは大和さんと会話していて周りに気づいてないようだけど。

大和さんがもう少しで撃たれる、という時に黒田さんがライトを付けるように合図を送る。一斉に辺りが明るくなり、機動隊が包囲している事を秋山さんが理解する。


『鞭声粛々、夜、河を渡る…でしたっけ?』

「その通りです。啄木鳥戦法の裏をかいた上杉謙信のように、ひっそりと音も立てずにあなたに詰め寄り見張ってたんですよ。あなたがまだ崖の中腹でぶら下がっている時からね」


秋山さんは妻女山さんで車に引き摺られて落ちた後、命綱を付けて気にぶらさがっていたらしく、三枝さんや由衣さん達が県警本部に帰ったあと、また小屋のある山頂に登ってきたらしい。その時、大和さんを指名手配する事や、秋山さんの遺体を放置して引き上げることを黒田のおじ様はわざと聞こえるように伝えていたようで、秋山さんはまんまと罠に引っかかっただけのようだ。

機動隊の人達そんなに前から待機してたなんて、お疲れ様です。

黒田さんの合図で機動隊の人達は秋山さんへと走り出し、そのまま彼の手には手錠を掛けられた。山小屋からは気絶した三枝さんが発見され、彼は念の為病院へと運ばれた。


『大和さん大丈夫?』

「ああ、怪我ひとつしてねぇよ」


大和さんは機動隊のライオットシールドを持って、高明さんの車のトランクに入ってたらしく、それを機動隊の人に返していた。ライオットシールドには拳銃で撃たれた跡が何個かあるものの、大和さん自身はかすり傷ひとつ無い。一先ず安心した。


「そういえば敢助君。昼間のヤボ用ってなんですか?」

「拳銃を乱射した友達の墓が、携帯の電波も届かねぇ辺鄙な場所にあって、そこに毎年ばあさんを連れてってんだよ」

「彼はそれも知っていて利用したんですね」

「ああ。……腹減ったな、蕎麦でも食って帰るか」

「いえ、僕はパスタで。…珠雨は、何食べたいですか?」

『え?私?』

「お、嬢ちゃんが食べたいもんにするか。食いたいもんあるか?」

『えっと…じゃあ、お蕎麦が食べたいです』

「……」

「じゃあ蕎麦食いに行くか!!」


私の言葉に、高明さんはなんとも言えない顔をしていて、反対に大和さんはとても嬉しそうな顔でそう言った。


「…はァ……仕方ないですね、蕎麦食べに行きましょうか」

『やった…!』

「食べきれない時は僕に言うこと。いいですか」

『はい。大和さん、オススメのお蕎麦屋さん連れてって』

「お、いいぜ!」


そう言うと、由衣さんと大和さんは由衣さんの車に。高明さんと私は高明さんの車に乗って大和さんオススメのお蕎麦屋さんへと走り出した。

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