魚心あれば水心

蘭ちゃん達と一緒にコナン君達の帰りを待っていると、電話が鳴った。蘭ちゃん達から少し離れて携帯を確認すれば「コナン君」の文字が表示されていて、出ると半年前の銀行立て篭り事件の現場にいた事を高明さんから聞いて、詳しく教えて欲しいと。


『確か、警察の説得に応じて人質を解放しようとしてたんだけど、急に怒り出したのよ』

《怒った?》

《周囲を固めていた竹田班が無理に動いて、それに気づいた犯人が逆上して拳銃を発砲し始め、銀行に突入した竹田さんが被疑者を射殺したんです》


スピーカーにしているのか、運転中だろう高明さんの声がはっきりと聞こえた。
犯人が拳銃を発砲した事によっての死傷者は出なかったものの、竹田さんが躊躇なく射殺したのは少し違和感がある。あの時、警告や威嚇射撃はせず一発目から犯人を狙っていた。


《そういえば、その事件で被疑者の携帯が紛失しちゃったらしいわね。直前まで誰かと話してたらしいけど…》

《確か珠雨もそんな事を話してましたよね》

『はい。「拳銃の出処もXもバレる」とか言ってた気が…』


そういえば、Xって鹿野さんと竹田さんの遺体の額にあった印と同じだな。


『高明さん、武田信玄に仕えたのって武田二十四将でしたっけ?』

《えぇ、そうです》

『Xってアルファベットで24番目ですよね』

《…つまり、戦死者としてじゃなく、自分達を武田二十四将として集めてたのが啄木鳥会ってこと?》

『可能性はあると思う。竹田さんが武田信繁、鹿野さんは旧姓土屋だから土屋昌次。秋山さんが秋山信友。三枝さんが三枝守友じゃないかな』

《とすると、大和警部は山本勘助!》


なるほど。どうりで捜査資料と一緒にある事情聴取のメモに何も書かれて無いわけだ。犯人が射殺された後、人質として一緒に銀行内にいた人達は事情聴取をされて、私はその電話の内容を確かに伝えたのだけど、それだけ書かれていなかった。事情聴取を担当したのが誰だったかは正直覚えてないけど、竹田班の誰かだったんだろうな。
竹田班はおそらく、押収した拳銃をXと称して売り捌いていて、その拳銃があの立てこもり班が持っていたもので、警察官が拳銃を横流ししているのがバレればタダじゃ済まないだろう。それを隠滅する為に射殺した。

コナン君と高明さんも分かったようで、大和さんが殺人リストに入っていて危険に変わりないということを由衣さんに伝えていた。


《ねぇ、そういえばさー》


コナン君が思いついたような声でそう言った。


《事件と全く関係ないんだけど、諸伏警部と珠雨お姉さんって結局どういう関係なの?すっごく仲良いよね?》

《確かに…赤女事件の時も、真っ先に珠雨ちゃんのところに走ってたわよね》

『いや、だから…』

《当たり前でしょう。珠雨は私の彼女ですから》

《…えっ?》

《へ?》

《あっ》


あっ、じゃない。

他言無用にしようと高明さんから提案したのに、口が滑ったのか普通にそれを言った高明さん。気付いた頃には時すでに遅し。コナン君と由衣さん、二人の脳に「彼女」という言葉は辿り着いてしまったようだ。


『高明さん!!』

「うぉ!?な、なんだ?どうした?」

『あっ、いや、な、なんでもない…大きな声出してごめんなさい』


基本声を上げない私が大きな声を出した事で、近くにいた小五郎さんと蘭ちゃんが肩を大きく揺らしてびっくりしていた。「本当に大丈夫?」と蘭ちゃんから聞かれて大丈夫と伝えてもう少しだけ離れる。


《すみません、口が滑りました》

《ど、どどどういう事!?》

《どうもこうも…そのままの意味ですよ。他言無用でお願いしますね》

『もぉ〜…』

《…すみません》


本当に口が滑ったんだろう。声からすごく落ち込んでるのが分かる。言ってしまったものは仕方ない。あとからあーだこーだ言ってもどうにもならない事。


《その、経緯とか聞いても…?》

《彼女が幼い頃、時折面倒を見ていたんです。それで彼女が私に好意を抱いてくれたようで》

《諸伏警部って、珠雨ちゃんの知人の、知り合いなのよね?》

《ええ。その方が彼女の面倒を見ていたんですが、その方も忙しい方で。時間がある時は私が面倒を見に行っていたんです。その頃私は東京にいましたから》


知人ではなく私の「父親」。だけど今私は「安室」の性だから父親は別の人。それに高明さん自身も、私の両親については言うなと釘を刺されているから、例え信頼が出来るコナン君や大和さん、由衣さんにも言えない。だから、父のことを共通の知人としていてくれてる。


《そのうちに彼女が私に好意を抱いてくれたのですが、自意識過剰かもしれないと思って》

《か、確認したの?》

《はい。ただ、憧れの方が強いと正直に話してくれて》

《それでそれで?》


電話越しでも分かる由衣さんの楽しそうな声。女の人っていくつになっても恋バナ好きだよね。

私も好き。

面白い話が聞けるのではと黙って聞いていると、高明さんは私が16になった時に交際しようと言った事を正直にコナン君達に話した。それを聞いてコナン君が「その時珠雨お姉さんの事好きだったの?」と聞いたが、高明さん的には妹の感覚に近かったらしい。

そりゃ年齢的には中学生になりたての頃だったから、恋愛感情なんて湧かないでしょうよ。


《最後に一つだけ聞いてもいい?》

《なんですか?》

《どうして16歳になったら付き合うって提案したの?好きじゃなかったんだよね?》

《…そのまま断った時に、彼女が悲しんで今の関係に距離が出来るのが嫌だったというのと、時間が経てば彼女もその好意が薄れていくのでは無いかと思ったので。当時、彼女は中学生になりたてでしたから》

《なるほど…》

《でも今思えば、あの頃から好きだったのかもしれませんね。…それ、電話切れてます?》

《ううん、繋がってるよ》

《…珠雨》

『はい』

《忘れなさい》

《も、諸伏警部、顔真っ赤…》


私もその顔見たい。


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