魚心あれば水心

由衣さん達が戻ってきた。秋山さんがいないのを見ると、おそらく殺害されたんだろう。


『おじ様、おじ様』

「ん?どうした?」


一緒に帰ってきた黒田のおじ様を手招きして、さっき電話で高明さん達との電話で話した推理を耳打ちで話した。


「なるほど、竹田班が啄木鳥会か…それで、犯人の目星は付いてるのか?」

『秋山さんと鹿野さんの現場見てないし、詳しいことも聞いてないからなんとも』

「そうか。では、今お嬢が一番怪しいと思う人物は?」

『秋山さん』


確信は無い。ただ九年前の銃乱射事件で巻き込まれた女の子と同じ苗字だからっていうだけ。結構無理があるけど、どうやら黒田のおじ様も秋山さんが犯人だと思っているらしい。

先程、妻女山で秋山さんは首に紐を付けられ車に引っ張られて、首を切られて落ちていった。ただ、彼はずっと首の紐を手を交差させて掴んでいたようで、首の前で紐を交差させて持っていると手を離せばすぐに外せる。

鹿野さんの自宅で首を吊った遺体を見つけた時も、鹿野さんの携帯にメールが来て皆そっちに気を取られていた。遺体の近くにいたのは高明さんと秋山さんで、高明さんは遺体から携帯を取って立ち上がっていて秋山さんはしゃがんだままだったそうだ。
天井から吊られていた鹿野さんを下ろしたのは大和さんで、その時手袋をせずに素手でロープを掴んでいた。その後鹿野さんの携帯にメールが来て、秋山さんがロープの事を大和さんに聞いた時に、吊っていた方のロープを素手で触っていた。妻女山に行く前に鑑識の人から鹿野さんを吊っていたロープの二本ともに大和さんの指紋が発見されたそうで、その細工が出来るのは秋山さんだけだろうと。


『大和さんは微塵も疑ってないんだね』

「彼奴はもっと上手くやる…これだと、“彼”の帰りは明日になるやもしれんな」

『いいよ、あの人は』

「しかし、あいつの仕事が終わらないとお嬢も帰れんだろう」

『一人でも帰れます〜』

「く、黒田捜査一課長!」


後ろから慌てた様子の三枝さんがおじ様を呼んだ。大和さんを見つけたという目撃情報を貰ったが動かせる車がないと。しかし、近くにいた高明さんを見つけて車を貸してもらい、情報の信憑性があればすぐに連絡すると言って走って外へと行ってしまった。


「今の三枝の発言はどう思う?」

『怪しいかなぁ…』

「では我々も三枝の後を追うぞ。毛利探偵、もう夜も遅いですから帰って頂いて結構です。何かあればこちらから出向きますので」

「は、はぁ…」

「長時間、お時間を取らせてしまって申し訳ない」

「いえ、そんな!お気になさらず!」


そのまま小五郎さん達は帰るために外へ。コナン君が事件解決までいないのは珍しいなと思いながら見送れば、おじ様から着いてくるかと聞かれた。頷くと高明さんと一緒に由衣さんの車に乗るようにと言われ、そのまま駐車場へ向かう。
停めてある由衣さんの車の後部座席に座ると、隣に高明さんが座る。それを由衣さんがキラキラしたような顔でバックミラー越しに見ていたから、首を傾げると「ごめんなさいね」と笑いながら車を発進させた。


「いつも諸伏警部は助手席か運転席だから、当たり前のように珠雨ちゃんの隣に座ったのを見て本当に好きなんだなぁって」

「いけませんか」

「そんなこと言ってないじゃない!でも珠雨ちゃんといる諸伏警部の顔は、初めて見るものばかりで新鮮だわ」

『いつもと表情変わらないよ?』

「結構違うわよ?」

『…そう?』


じーっと高明さんの顔を見つめれば、高明さんも私のこと見つめ返す。特に変わらない表情にだんだんと睨めっこのようになって来て、それが次第に恥ずかしくなって来て私から目を逸らした。

私の彼氏、顔がとても良い問題について。


「本当に仲良いのね」

「この子が幼い頃から一緒にいますからね」

「でも二人共結構年の差あるわよね?年離れすぎて不便な事とかってないの?」

『特に…』

「ないですよね」


高明さんの体力があり過ぎるのは不便というか、なんというか。本当にこれは35歳の体力なんでしょうか?って思う時あるけど、29歳でゴリラか?ってくらいの体力ある人が身近にいるからよく分からないのよね。

というか公安の皆体力ありすぎだよね。

世間的には話が合わないとか思われるだろうけど、そもそも私が流行り物とかに疎いからそんなことも無いし。なんなら高明さんの方が流行りに詳しい。


『遠距離なところくらいじゃないかな』

「頻繁に会えるわけじゃないですからね」

「どれくらいの頻度で会ってるの?」

『時間が合えば会うくらい…?連絡は取ってるから』

「どうしても会いたいって時はどうしてるの?」

『我慢』

「休みを取るために頑張ってます」

「あぁ…」


思い当たる節があるのか、由衣さんは苦笑いをしていた。

会いたいって思う事はあるけど、そう思うのは離れてすぐか半年以上会えてないなって時くらい。付き合いたての頃はよく思ってたけど、数年我慢すればいいだけ、数年後には毎日会えるんだって考え始めたら、今会えないのが苦ではなくなった。


「ふふ」

『なぁに?』

「ううん。なんでも」


バックミラー越しに目が合って、由衣さんはニコニコと笑っていた。

車の揺れが大きくなってきて、窓の外を見ると坂道を登っていた。妻女山への道に入ったんだろう。そろそろ到着する頃か。

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