飛んで火に入る夏の虫

「…さん……姉さん…!……お姉さん!!」

『ん…』

「大丈夫!?」


資料を読んでいたら頭がボーッとして来て、一瞬クラってしたと思ったら車椅子から落ちてしまったらしい。その音でコナン君達が駆け寄って来て、私に呼びかけていた。


『…蘭ちゃ…今、何時…』

「え?えっと…16時だよ」

『…あー……』


薬飲むの忘れてたんだ。
小五郎さん達に手伝って貰って車椅子に乗せてもらう。コナン君に、車椅子の下に乗せてる鞄を取ってもらって、財布を渡して水を買ってきてもらう。薬が入ったポーチを取り出して、飲む予定だった薬を飲んでいると、高明さん達が帰ってきた。


「戻りました」

『おかえりなさい』

「…珠雨の薬の時間は、もう少し早い時間では無かったですか?」

「あ、薬を飲むの忘れてたみたいで…」

『それで、鹿野さんはどうだったんですか?』


そう聞くと、高明さんは首を横に振った。
絞殺されて、首を吊った状態で発見されたらしい。額にはまた啄木鳥の足跡があったと。


「それから、敢助君の携帯に「我は毘沙門天、啄木鳥を滅ぼす軍神なり」というメール、鹿野さんの携帯に「啄木鳥は残り三羽」というメールが届いてました」

『啄木鳥…?』


やっぱり昼に言った啄木鳥会が関係しているのかな。


「あと気になるのは、ロープですかね」

『ロープ?首に掛かっていた?』

「ええ。よくある一本のロープで作ったような物ではなく、二本のロープをこういう風にして作られたものでした」


高明さんは、輪ゴムでそのロープを再現してくれた。ひとつのロープを輪っか状にして結び、それを半分に曲げて首に掛けて再度輪っか状にし、先端部分を別のロープに引っ掛けて天井から吊るされていたらしい。


『なんでわざわざそんなめんどくさい縛り方を…』

「気にはなりますよね」

「それで竹田警部と鹿野警部補に恨みを持つ人物を洗ってたんだけど…やはり行き着くのは九年前の銃乱射事件と銀行立て篭り事件ということになって…」

「九年前も半年前も鹿野さんは竹田班でしたしね」


でも、さっき高明さんが言ってた様に、二つの事件の犯人のご両親は既に病気などで亡くなっていて、現在ご健在なのは銃乱射事件の犯人のお祖母様だけ。
他に考えるなら、巻き込まれた女の子の遺族。と、銃乱射事件の犯人が幼馴染で、竹田さんに恨みがありそうな大和さんになるけど…それでも鹿野さんを殺害する動機が無いよね。

高明さんも同じようなことを大和さん本人に言っていて、空気は険悪になっていた。


「大和警部が犯人なわけないじゃないですか!」


険悪な空気を割って入ってきたのは、竹田さんの部下の秋山さん。


「それに、そんな事諸伏警部も分かってるでしょ?2人は幼馴染で大親友なんだから!」

「大親友?それは初耳ですね」

「ああ、こっちもそんなつもりはねぇよ!!」

『?』

「こっから先は一人で捜査する!!黒田課長にはそう言っとけ!!」

「あ、敢ちゃん!!」

『大親友…じゃないんですか?』

「違いますよ」


よく高明さんから「敢助君」の話聞くけど、大親友っていう文面なんだけどな…違うんだ…

そのまま大和さんは本当に一人で捜査する為に、外への扉に歩き出した。私とすれ違う時に笑って、頭に手をポンって置いてそのまま外に出ていってしまった。
薬を飲み終え、水が入っていたペットボトルを自販機の前のゴミ箱へ捨てて帰って来ると、ちょうど秋山さんと三枝さんがいるからと気になることがあるらしくコナン君は二人に色々と聞いていた。鹿野さんが一人で家に帰ったことは、黒田さんと大和さんにも伝えたと秋山さんが答えていたのだけ聞こえた。


「となると、敢助君も鹿野さんが自宅に帰ったことを知りえたわけですね」

「ちょっと、マジで敢ちゃん疑ってるの!?」

「何か問題でも?」

「大問題よ!!」

「そうですよ!!あの大和警部に限って人殺しなんて…」

「あら?油川君、電話?」

「秋山ですって!いい加減覚えてください…それに、来たのは電話じゃなくてメールで…」


秋山さんが胸ポケットから携帯を取り出し、メールを確認する。内容を見て少し驚いたような顔をして、聞き込み中雨で濡れたから着替えてくるとそそくさと外へ向かっていった。ご実家が近くの美容室らしい。

どう見たって怪しい。


『どうして由衣さん、秋山さんの事を油川君って呼んだの?』

「ああ、あいつ去年に両親が離婚して油川から母方の姓の秋山に変わったんだよ。別の班の奴らは慣れてなくて、たまに油川って呼ぶ奴はいるぜ」

『そうなんだ。……ねぇもしかして鹿野さんも苗字変わった?』

「ん?ああ、確か結婚して土屋から鹿野に変わったとか聞いたことあるが…なんでそれを…?」

『んーん、なんとなく。ありがとう』


Xに啄木鳥に、土屋に油川。
竹田さんと鹿野さん、秋山さんの旧姓に三枝さん。そして大和さんは、第四次川中島合戦で討死した兵士達と名前が似てる。ただ、戦死者でグループ作るかな普通…?
ただ鹿野さんの旧姓が土屋で考えると別で、武田信玄の何かだった気がする。なんだったっけ、日本史苦手なんだよね私。

秋山さんが出てから暫く経っても戻ってこないので、三枝さんが心配して彼のご実家の方へと向かっていった。それからまた暫くして、黒田さんが今朝の竹田さんの首と、焼け残った胴体からかろうじて取れた足の親指のDNAが一致したと報告に来た。その途中に高明さんの携帯が鳴って、三枝さんから、秋山さんが実家で着替えた後に自分の車で妻女山に向かったと報告があり、高明さん達も急いでそこへ向かって行った。


「帰りづらくなっちゃったね」

「あぁ、腹も減って来たし…」

「あれ?コナン君は?」

『コナン君なら、高明さん達と一緒に走って行ったよ』

「もー、また勝手に…!」


コナン君が居ないことに気づいた蘭ちゃんがキョロキョロと辺りを見渡す。さっき皆が外に向かう時にコナン君も行ってたから、多分高明さんの車に乗って一緒に行ったんじゃないかな。


『私もまだいるから、一緒に待ってようよ』

「帰らなくていいの?知り合いの人と来たんだよね?」

「連絡とかしなくていいのか?」

『お昼にしたから大丈夫。それにまだお仕事終わってないみたいだし…でもちょっと外の空気吸ってくるね』

「うん、行ってらっしゃい」


蘭ちゃんが手を振って見送ってくれた。

|

[ 戻る ]






×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -