濡れぬ先の傘

橋の下にあったのは、首のない人の胴だった。少し砕かれていて、焼かれているらしい。


「珠雨も下に来ますか。抱えますよ」

『え?あ、でも車椅子…』

「私が見てるから、気になるなら行っておいでよ」


蘭ちゃんが河川敷の上で車椅子を見ててくれるらしいので、高明さんに抱えられて私も事件現場を見に行く事に。


『おんぶで大丈夫なんですが』

「こちらの方が見やすいでしょう?」

『まあ、そうですけど…』


まさかの抱きかかえ。
姫抱きじゃないだけマシか。

すぐに鑑識の人達と、死亡した人と同じ班だった人達が来て、捜査が始まった。


「そういえば、珠雨はよく川に首が浮いていることに気付きましたね」

『ドボンって何かが落ちる音がして、なんだろうって見てたら首が浮かんできて…多分、欄干…あの紐の先に結ばれてたんだと思います』

「なるほど…」


橋の方を見れば、紐のようなものが風に揺られていて、おそらくそこにビニール袋をぶら下げ、その中に首と血糊を入れていたんだと思う。
焼けた胴は半日以上経っていて、半日もあれば血は既に乾ききっているはずだから川を赤くするのであれば血糊だろう。

気になるのは、首を発見しやすくしたのは分かるけれど、胴体を発見しにくい橋の下の影になっている場所に置かれていること。


『高明さん、あの胴の近くまで行って欲しいんですけど』

「胴ですか?」


高明さんは、抱きかかえたまま胴体のある橋の下まで連れていってくれた。橋の下は暗いからよく見えなくて近くまで行っても同じだった。


『警察だから何かしら怨まれるのはあると思うけど、こんなにされるまで怨まれることしたんですか、この人?』

「ああ、まあ、加害者を射殺したりしてたから、遺族には怨まれたりしてるかもな」

『射殺?命令で?』

「いいや、独断で」

「あの、額に不自然な血がついていたので、ルミノール液を掛けてみたら妙な痕が」


鑑識さんの声で皆、首の方へと移動する。高明さんもそうで、自然と私も首の方へと移動した。
鑑識さんは髪をかき揚げて額を見せてくれた。バツ印のようなものが付いている。


「アルファベットのXに見えると思ったんですけど」

「ただのXじゃねぇ。動物の足跡みてぇな…」

「鳥でしょうか」

『でも鳥だったら、Y字みたいな形だと思いますけど』

「啄木鳥だよ…」

「!?」


河川敷の上から聞こえた声の方に目線を向けると、そこに居たのは白髪で隻眼の大男。


「啄木鳥はその習性からしっかり木に留まらなきゃならない。だから足の爪がX状になっているんだ。知らないのか」

「黒田捜査一課長」

「しかし、首を切り落とされた上に胴体を丸焼きとは、武田も相当怨まれたもんだ…」

『その体、本当にその武田って人のなの?丸焼きなら、DNA鑑定出来ないんじゃないの?』

「いや、かろうじて焼け残った靴のつま先から親指が出てきたから、DNAの照合は何とかできるよ」

「そうか。では、すぐにやってくれ」


隻眼の大男、黒田さんは鑑識さんにそう言うと、殺害された竹田さんの部下の人たちの方を向いた。
今日、竹田さんを含む4人で手配中の強盗犯がいる潜伏先に令状を持って乗り込む予定だったらしいが、竹田さんだけが来なくて、仕方なく3人で行ったが、気付かれたのか強盗犯はおらず、周囲を探しても強盗犯らしき人物は見つからなかったので、その後三人で手分けして彼を探していたそう。


「それより気になるのは、額に残された啄木鳥の足跡…これが一体何を指し示しているのかが分からないと…」

「ただ単にバツ印を入れたくて、啄木鳥の足を使っただけじゃねぇか?撃墜マークにも見えるし」

「相変わらず君の推理は乱暴ですね」

「竹田と啄木鳥の関係に何か心当たりのある者はいないか」

「『啄木鳥会』」

「え?」

『…じゃないの?』


私と由衣さんが同時にそれを口にした。

由衣さんは少し前まで「虎田家」というところに嫁いでいたらしく、そこの旦那さんが啄木鳥会っていうグループが存在する事を教えてくれたんだそう。ただ、由衣さんが長野県警の元刑事だと伝えると口を噤んでしまったそうで、知っているのは名前だけらしい。


「そうか。お嬢さんは?」

『私も名前だけ…その啄木鳥会にいる人達に共通点があるっていうのも確か聞いたことあるけど』

「共通点?」

『どんな共通点なのかは、ちょっと…でも、「長野県警」の「啄木鳥」って聞くとそのグループなのかなって』


父に仕事の電話が入った時そんな事を言っていた気がする。啄木鳥がどうとか、共通点がとか、そんな話が聞こえた。


「そうか…こんな橋の下で遺体を燃やしたんなら、誰か火や煙を目撃してるかもしれん」


黒田さんは、竹田さんの部下の三枝さん、秋山さん、鹿野さんに周囲の聞き込みを。大和さん、高明さん、由衣さんには竹田さんが関わった事件で竹田さんに恨みを持っていそうな人物を洗い出すように指示をし、小五郎さん達と私には遺体の第一発見者として由衣さん達について行くよう頼まれた。


「それから、お嬢さん。ちょっと」

『?』

「名前を教えてくれるかな?」


黒田さんは私にそう耳打ちをした。


『安室 珠雨』

「そうか、わかった」


黒田さんに名前を耳打ちすると、頷いて調査へと向かった。
高明さん達もすぐに本部で、竹田さんが関わった事件に目を通す為に私達と一緒に長野県県警本部へと向かう。

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