戦場巡り

父と長野旅行に来たのはいいものの、結局あの人仕事が入ってしまってひとりで観光をしている途中。折角旅行という名目で長野に来ているわけだから、観光地でも巡ろうとスマホで検索すると、長野は上杉謙信と武田信玄が戦ったという川中島の古戦場跡公園が有名って書いてあって、折角なら戦場巡りをしようと次の行き先を決めたは言いものの、道が分からず。


『高明さんだ…』


どうしようかとキョロキョロしてたら、離れた場所に高明さんらしい人を見つけた。一瞬声をかけようと思ったけど、周りにスーツ姿の男女が数人いるから仕事中だろう。邪魔しちゃダメだからと声をかけるのは止めて、もう一度マップアプリとにらめっこする。


「どうかしました?」

『あ…えっと、ちょっと道が…』

「あら?あなた、赤女の時の…」


スマホと現在地を交互に見て首を傾げていると、後ろから薄いピンク色のコートを着た女性に話しかけられた。赤女の時にいた、女刑事さんだった。
道が分からないと正直に伝えると、どこに行きたいのかを聞かれ、場所を伝えると「あっちよ」と指をさして教えてくれた。お礼を言おうとした時、刑事さんの知人なのか、杖をついた男性と小さい子供が近づいてきた。


「どうした上原」

「道に迷ってるみたいで」

「あれ、珠雨お姉さん?ひとり?」

『コナン君。蘭ちゃんに小五郎さんも。旅行?』


男性と一緒に近づいてきた小さい子供はコナン君で、後ろには蘭ちゃんと小五郎さんもいて、私に気づいた二人もこちらに近づいてきた。


「ああ、まぁそんなところだな。安室君はどうしたんだ?車椅子で一人旅行…じゃないよな」

『今日は兄ではなく知人と。ただ、急な仕事で取引先の会社が近いからって今そこに行ってる』

「なんだ、知り合いか?」

「ああ、まぁ…」

『初めまして、安室珠雨と申します』

「観光で事情があるとはいえ、ひとりで出歩くのは見過ごせませんね」

『高明さん!』


小五郎さんの後ろから顔を出した高明さん。
どうしてそんなひょこって感じで可愛く出てくるのこの人は。

というか、結局話しかけられるならさっき声かければ良かった。


「なんだ、お前とも知り合いか?」

「えぇ」

『捜査中ですか?もしかしてここ邪魔です…?』

「いいえ、大丈夫ですよ」


高明さん達は聞きこみ調査の帰りに、ここに寄り道をしたら小五郎さん達に出会ったらしい。


「それで、あなたはここで何を?」

『戦場巡りをしようかなと』

「ひとりで?」

『あの人がいないので…』

「じゃあ、珠雨ちゃんも一緒に来る?ちょうど私達も戦場巡りしてて、今から由衣刑事達に案内してもらおうとしてたから。いいよね、お父さん」

「ああ、彼女がいいなら構わないが」

「そうですね。ひとりにするのは心配ですから」

『…』

「何か?」

『いえ、何も』


昔から少し過保護気味な高明さん。
どうしてもひとりにしたくないと、私だけで動く事を基本嫌がる。今日もそうだ。鬱陶しいかと聞かれたら特にそうでも無いから、別に構わないのだけど。少し過保護がすぎるとは思う。ひとりでも大丈夫なのに。

高明さんに車椅子を押されて、皆で戦場巡りをする事に。一緒にいた杖の男性は大和敢助警部で、女性は上原由衣刑事。3人とも幼馴染なんだとか。


『じゃあ、高明さんのお話によく出てくる「敢助くん」と「由衣さん」が、このお二人ですか?』

「なんだ高明。お前、こんな可愛い嬢さんに俺達の悪口でも言ってんのか?」

『悪口はないけど、この前は「敢助くんが」…』

「珠雨、少々お喋りがすぎますよ」

『あ、ごめんなさい』

「そういえば、二人はどうやって知り合ったの?前に見た時から思ってたけど、だいぶ仲良しよね?」

「彼女の知人が私の先輩で」


高明さんは父の大学の後輩。と言っても大分代は違うのだけど。昔父が捜査で東都大学の講師としていた時の生徒で、それ以降何かと父と連絡を取り合っているらしい。だから私の事情を知ってくれていて、父のことを「知人」として話してくれている。

由衣さんを先頭に、戦場巡りをしていく。山本勘助が討死したと言われる勘助宮に、山本勘助のお墓。その山本勘助の首と胴がピッタリ一致したっていう胴合橋にも連れていってもらった。


「なんか、戦場巡りっていうより、山本勘助の名所巡りになってるね」

「あっ、いや、これは…!」

「仕方ありませんよ。大和敢助などという、そっくりな名前の幼馴染がいれば、興味が湧くのも必然。珠雨もそうでしたしね」

『いいでしょう、別に…』


高明さんに影響されて中国史を読んで、それが理由で中国語を勉強して読み書きができるようになった事が嬉しいのか笑いたいのかでたまに話題に出る。いいじゃない別に。好きな人の好きなものを知りたいのはおかしい事じゃないし。


「しかし、いくらそっくりだとはいえ、山本勘助のように作戦失敗を悔いて無謀な討死だけは、やめて頂きたいですが」

「あ?」

「まぁ、君は失敗を悔いるような繊細なタイプじゃありませんけどね」

「なんだと!?」

『ねぇ、由衣さん』

「なぁに?」

『二人は仲悪いの?』

「え?えぇ。小学生からのライバルって感じで、何かと張り合ってて。諸伏警部から聞いてない?」

『大和さんの話はよく聞くけど…親友で仲良しだと思ってた』

「へぇ〜…あ、そろそろ時間ね。最後に千曲川を見て戦場巡りは終わりにしましょうか」


由衣さんのその言葉で、すぐに千曲川へと向かう。

千曲川は長野県と新潟県を流れる川で、長野県では「千曲川」、新潟県では「信濃川」と県で名称が変わる川。


「綺麗な川!こんなところで昔合戦があったなんて思えませんね」

「そういえば、その合戦の事を謳った詩があったような…」

「骨をつみ しほ流ししもののふの おもかげうかぶ 赤川の水」


高明さんが、由衣さんの言う詩を謳ったすぐに、ドボン!と何かが川に落ちたような音がした。それにビックリしたのか、橋の上にいたカラスが上空へと飛び立った。

何が落ちたのか気になって川を覗く。


「どんな意味なんですか?」

「この千曲川の支流かどうかは分かり兼ねますが、川中島の合戦は死者八千人余りと言われる壮絶な戦いで。これは浅井烈が神社の前を流れる川が討死した兵の血で、三日三晩赤く染った言い伝えを鎮魂の情を込めて詠んだ詩。その合戦以来、その川を赤川、神社を赤川神社と呼ぶようになったそうです」

『!』


高明さんが言い終わるとほぼ同時に、覗いてた川から赤い血のようなものが滲んで、水が赤くなり、そこに人の頭が浮いてきた。近くにいた大和さんの袖を引っ張り、川を見るように促す。


「どうした、嬢ちゃん」

『川に、人の頭が…』

「何!?」


大和さんはそれを確認し、由衣さんに鑑識を呼ぶように指示。高明さんと二人ですぐに橋の下まで降りていった。一緒に小五郎さん達も降りていって、大和さんは自分の杖で首を自分の届くところまで寄せて引き上げた。私は車椅子だから降りることは出来ず、河川敷の上から見ているだけだったけど、さっきまでいた橋の下に黒い何かがあるのが見えたから高明さんに確認してもらう。

どうやら首は、大和さん達と同じ長野県警の警部さんらしい。

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