よろしくお願い致します
高明さんが部屋から出てきたのは三時間程経ってから。ご飯を作って食べるか聞くために声を掛けたらようやく出てきた。
目はさっきより赤く腫れていて、手は爪を強く食い込ませていたのか痕が残っている。泣いて体から水分が出ていってしまっただろうからと、コップ一杯に水を注いで渡すと、半分程飲んでくれた。
「…澪」
『はい』
「話したいことがある…んですけど…まだ、心の整理がついていなくて…」
『はい。高明さんのお話したい時で大丈夫ですよ。いつまでも待ちます』
「……うん…ありがとう」
『心の整理が出来るまでお部屋にいてもいいですけど、ご飯と睡眠は取ってくださいね』
「食べます」
ゆっくり頷いた高明さんは先に洗面時で顔を洗うと言って、廊下の方に向かっていった。その間にご飯のお皿を運んで机に並べる。
そういえば、この家で二人一緒にご飯食べるのは高明さんが警察官になってから初めてかも。そもそもこの家でご飯食べる事自体、久しぶりではあるんだけど。
顔を洗って少しスッキリした高明さんが戻ってきて、一緒にご飯を食べる。いつもみたいに「美味しい」って褒めてくれるからこれからもまた沢山作りたくなる。
もし家族にならない選択をされても、これからもたまにでいいから、こうやってご飯食べてくれるかな。
「ご馳走様でした」って手を合わせて、お皿の片付けを一緒にして、お風呂に入るか聞けば「一緒に」と返ってくる。
お風呂用の義足を付けて、一緒にお風呂に向かってお互いに髪を洗いっこして。全部洗い終えていつものように私を後ろからぎゅーってするようにして高明さんが湯船に入って来る。胸板にもたれかかって、お腹に回された手を握ったりして遊んでいれば、高明さんが反対の手で私の手で遊び始める。
「手で遊ぶの好き?」
『んー…高明さんの手が好き』
「手が?」
『大きくて細くて骨ばってて、お仕事沢山頑張ってて、よく私の頭を撫でてくれる手』
「勉強と仕事と、料理と家事。沢山頑張っている澪の手、僕も好きだよ」
『じゃあ、おてて両想いですねぇ』
「そうだね」
ぎゅって握ると握り返してくれた。
「澪の手も足も、全部好きだよ」
どこか寂しそうな、そんな声。景兄の事を知ったからだろうな。首筋に顔を埋めて、少しだけ手に力が入っている。空いている手で頭を撫でると、もっとというように擦り寄ってくるから、高明さんの髪が首元に触れてくすぐったい。
『高明さん』
「ん?」
『私は高明さんが嫌って言うまで、どこにも行きませんよ』
「…うん」
小さく頷いた高明さんは、顔を上げたと思っもたら首筋に小さくキスをした。
『そろそろ出ましょう、逆上せちゃいますよ』
もう一度頭を撫でて言うと、頷いて高明さんは立ち上がった。体を拭いてパジャマに着替えて、ドライヤーで髪を乾かしてくれる。ついでにと歯も磨いてあとは寝るだけ。全部を終わらせると、手を引かれてリビングのソファに座らせられて、隣に高明さんが座った。
「颯太さん…お父さんから話をされていると思いますが、籍だけは入れていいとの事です」
『はい、聞きました』
「澪は、まだ僕と…結婚したいと思っていますか?」
その問に、小さく頷く。
「…僕は、前に敢助君が行方不明になった時。とても澪に助けられました。敢助君がいなくなって、由衣さんも…一人になってしまった時、何も聞かずに何も言わずに…身の回りの事をしてくれて、無茶な事をしても黙っていてくれた。心配は沢山かけてしまいましたが、その時に澪とは家族になりたいと、心から思いました」
昔からずっと話に聞いていた大和さん。彼が事件の捜査中に行方不明になった、代わりに事件を担当するから暫く会えないと聞いた時は「何がなんでも見つけ出すんだろうな」と思った。それと同時に「この人絶対身の回りの事疎かにする」とも感じた。
だから病院とリハビリの先生、それから父と零さんに、大和さんが見つかるまで長野にいさせて欲しいとわがままを言った。今までそんな事言わなかったからか、長くても一年という期間を設けられはしたものの父と零さんは了承してくれて、病院からも月に一回定期検査すれば問題ないと言われた為すぐに長野に向かって高明さんにもその旨を連絡した。高明さんの住んでいる家より別荘の方が近いから、寝泊まりはこっちでしてください。片手で食べられる軽食も用意するので、忙しくてもご飯は食べてくださいって。その生活は大和さんが見つかって、高明さんが所轄に異動するまで続いた。
でも全然苦では無かった。顔を合わせる時間もそこまで無かったし、たまに時間があっても業務連絡のような会話のみ。寂しくないかと聞かれたら寂しかったけれど、大和さんは高明さんの大事な人だと分かっていたからそんな気持ちはすぐに吹っ飛んで行った。
『私は……私は、高明さんの事がずっと大好きです。高明さんと一緒にいたい、結婚したい気持ちは変わりません。ただ、』
その後の言葉を選んでしまう。どう言えばいいのかと。口を開いては閉じてを繰り返す。
高明さんが優しく手を握ってくれて、「ゆっくりで大丈夫ですよ」と微笑んでくれる。
『……もし…もし、高明さんがお母さんみたいに急にいなくなったら。お父さんみたいに忙しくなって、私や…将来いるかもしれない子供に興味がなくなったら。そう考えると少し……違いますね、かなり怖いなと…それに、景兄やご両親と同じ家族に、私がなっていいのかと…』
「澪」
『…はい』
「そうならないように、守らせて欲しい。両親や景光と同じくらい、澪は僕にとって命をかけてでも守りたい存在で…暫くは今までのように別々に暮らす事になるけれど、何かあった場合すぐに連絡が行くように。傍にいれるように。これだけ長く続いている貴方のお手伝いは、いつ終わるかさえ分からない。だから、せめて万が一の時にお互いに連絡が行くように籍だけ入れさせてくださいと、颯太さんにずっと伝えていたんです」
そこまで言うと高明さんは、息を一つ吐いて、握る手に少し力を入れ、まっすぐ私を見つめた。
「僕と、結婚して頂けませんか」
『…私でよければ…よろしく、お願い致します』
手を握り返してそう答える。少し恥ずかしくて目を逸らせば、ぎゅって抱きしめられた。
「……ふぅ…」
『…心臓すごい…早い…』
「緊張しましたからね…」
体が密着した事で、高明さんの心臓の速度が伝わってくる。今まで何度も何度もぎゅって抱きしめられたり、抱きついたりしたけどここまで早いのは初めてだった。
『…あの、返事しておいてなんですけど…』
「ん?」
密着した体を少し離して、高明さんの顔を見上げる。少しだけ顔が赤くて、でもいつも通りの優しい顔。
『私でいいんですか…?足、無いし…私のワガママで高明さん縛ってたみたいな感じだったし…』
「澪こそ、僕で良いんですか?おじさんですよ?」
『年齢とか関係なく、高明さんがいいです』
「うん。僕も、足が無いとか関係なく澪がいい」
頬を撫でられてキスをされる。ちゅ、ちゅ、って軽いキスを数回した後に、舌が入ってきて私の舌が絡め取られる。口の端から唾液が垂れて来た頃に、舌が離れ、唇も離される。
『…ッはぁ……』
「キスの時、息が下手なのは治りませんね」
『長いんですよ…!』
いつも長いから段々息の仕方分からなくなって、苦しくなる。肩叩くまで止めてくれないんだもん。
ムスッとして顔を背ければ、高明さんは頭を撫でながら笑う。
「もう時間も遅いですから、颯太さんへの報告は明日にて今日はもう寝ましょうか」
頷くと高明さんにお姫様抱っこされて、客室のベッドに連れて行かれる。自分のベッドよりこっちの方が大きいから、高明さんが泊まるときはここで一緒に寝るようにしてる。
ベッドに下ろされて、頭を撫でられてからハッとした。
『えっちしないですよ』
「ダメですか」
『ダメです』
ぺちっと手の甲を軽く叩くと、クスクスと笑いながら私を横に寝かせて、部屋の電気を消してから隣に入って来た。頭の下に腕を置いて腕枕にして、反対の手でぎゅってしてくれる。
これが一番よく寝れるから好き。
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