これから
「『は?』」
高明さんが警視庁に行っている間に父に呼ばれて、いつもの様にこれからの事を伝えられるんだろうと向かった。今日は珍しく零さんと一緒に入室するように言われて、二人でなんだろうかと頭にはてなを浮かべて入室する。そこで言われたことが衝撃すぎて、二人で声が重なってしまった。
『いや、えっと…え?』
「では、澪さんは協力者から外れるということでしょうか」
「いいや、降谷君と一緒に「安室珠雨」として過ごしてもらう事に変わりは無い」
「でしたら、何故…」
「もう三年も過ぎてしまっているからね。籍だけでも入れていいんじゃないかと思って」
そう。この馬鹿は呼び出して早々に「諸伏君と結婚しないの?」と言い出してきた。
目玉飛び出るかと思った。
『…何を条件にその許可が下りたの』
「条件…というわけでもない…いや、条件ではあるのか。……澪にね、資格を幾つか取ってもらいたいんだ」
『資格?』
「今後何が起こるか分からない。降谷君が動けなくなる可能性だってある。その時、澪にも動いてもらう事があるかもしれない」
『それ……は、別にいいけど…資格いる…?』
公安の人間も別に少ないわけじゃない。捜査一課や二課に比べたら少ない方ではあるけども、私が動かなきゃ行けないほど人手が足りないというのは基本無い。
「澪さん、東京サミットのような事が起こった場合を想定したら分かりやすいんじゃないかな」
「そうだね、それが分かりやすいかもしれない」
『…なるほど……』
「さっき、諸伏君が警視庁にいるって聞いてね。少しだけ話をして来たんだよ。まだ長引くようならその話をしようとしていたみたいでね、籍だけでも入れる事に賛成だったよ」
「…澪さんはどうしたい?」
優しい兄のような、「安室透」が他人に向けるようなそんな優しい声で聞いてくる零さんに、困ってしまう。
『そりゃ…結婚はしたい、けど…』
「うん、僕もそう思うよ」
『…でも、今までしなかったのは…万が一の時に高明さんが巻き込まれるから、だったし…でも、』
いざ、「家族」になると思うと、少しだけ怖い気持ちがある。
もしもの話ではあるけど。
もし、高明さんがお母さんみたいに急にいなくなったら。
もし、お父さんみたいに忙しくなって、私や将来いるかもしれない子供に興味がなくなったら。
そう思うと、少しだけ怖い。
それに、高明さんは大切な家族を失っている。
新しい家族が私でいいのだろうかという気持ちも、正直ある。
俯いて続きを言えないでいると、零さんがしゃがんで目を合わせてきた。
「これは二人の問題だから、僕は口を挟めない。だから後できちんと話し合うといいよ。でも、高明さんは澪の事を絶対に守ってくれるよ」
『…うん』
「じゃあ、澪はそろそろ帰りなさい。諸伏君の用事も終わっている頃だろうから、一緒に帰って話し合って来るといい。取って欲しい資格は降谷君通して伝えるから」
『分かった。…その資格って、本名で受けるの?』
「うん。必要な時は「安室珠雨」で偽装するって感じかな」
「個人的に欲しい資格あったら一緒に取っていいよ」と言う父親に出来るか、と心の中でツッコミを入れる。要望のものがいくつあるか知らないけど、資格取るのって大変だって聞くから絶対無理でしょ。
私への話は終わりだからと部屋を出て、秋橙さんが待っていた。仕事があるから家までは送迎出来ないけど、下まで送るって言ってくれた。
「珍しく降谷さんと同室してましたね」
『うん、私の話だったから』
「澪さんの?」
『後で秋橙さんにも説明されると思う』
そんな話をしながらエレベーターに乗り込み、エントランスまで向かう。
高明さんとお話したいけど、今日警視庁への用事は景兄の事だから今日中は無理だろうな。
エレベーターの扉が開き、エントランスで秋橙さんと別れる。外に出ると丁度帰るところの高明さんと見送りしている高木刑事を見つけた。二人でお辞儀して高木刑事が中に入ってくると私を見つけて小走りで駆け寄って来る。
「珠雨ちゃん!今日はどうしたんだい?」
『お散歩。今から帰るよ』
「そっか。気をつけて帰るんだよ」
『うん』
じゃあねって手を振ってくれた高木刑事に手を振り返して、前を歩いている高明さんについて行くようにして車椅子を進める。声掛けていいのか分からなくて、距離を詰めずに、そのままで。
「珠雨」
少し進んだ所で高明さんは振り返って声をかけられた。
「一緒に帰りましょうか」
笑って車椅子の後ろに移動して押してくれる。いつもの様に笑ってるけど、目の下が少し赤くなっていた。
航さんのロッカーにあったと言う荷物は、零さんが高明さんに返すためにって航さんに送った景兄の物なんだろうな。高明さんの事だから、きっと公安にいた事も理解したのかな。
二人で実家の方に帰り、高明さんは警視庁で貰った封筒を片付けてくると言って客室に向かっていった。暫く一人にしてあげた方がいいだろうな。
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