お詫び
ガサゴソと物音で意識が浮上した。まだ眠たい目を擦って起き上がると、高明さんが荷物を置いているところにしゃがんで何かをしていた。
「…おや、すみません。起こしてしまいましたか」
『んー…』
起きた私に気づいてこちらに近づいてくる。
時計を見れば、まだ夜中の四時を30分程過ぎたところだった。
「まだ寝ていて大丈夫ですよ。珠雨はこの時間、まだ寝ているでしょう?」
『…なに、してるの…快斗くん…?』
「…だから、なんで分かるんだよ…」
『わかるよ』
高明さんなら尚更わかるよ。
欠伸をしながら横になっていた体を動かして、ソファに座り直す。そんな私を見て小さくため息を吐いた快斗君は、持っていた真っ白の紙袋を私の方に差し出して来た。
「…これ、お詫び」
『…?』
「大事な服だったんだろ?代わりにはならねぇけど、お詫び」
『え…いいのに、そんな。でも、ありがとう』
紙袋の中を覗くと、新品の服が三着程入っていた。ひとつ取り出して見てみるとさっき和葉ちゃんに変装した時に来ていた服のブランドと同じものだと教えてくれた。最近女の子に流行りのブランドらしい。
「俺があんたに似合うと思ったものなんだが、気に入らなかったら売るなり捨てるなり、好きにしていいからよ」
『人から貰った物をそんな事しないよ。ありがとう』
「そうかよ」
手に取った服を畳んで紙袋に戻して、時計を見る。いつ警察の皆が快斗君を捕まえる為の行動をしたかは分からないけど、彼がここにいるってことは遅くても四時頃かな。
それを踏まえて片付けの時間とかを考えるともうすぐ高明さんはこの部屋に帰って来るだろう。周辺の捜索は多分中森さんがやると思うし。
『それより、高明さん来ちゃうかもだよ』
「そうだな。じゃあ…あ、最後にひとつ聞いていいか?」
『なぁに?』
「なんで変装が分かるんだ?急とはいえ、この軍師みてーな刑事のは自信があったんだが…」
『まあ…』
だって高明さん、私と二人の時「珠雨」とは呼ばないもの。
なんて言えるわけが無いのよね。
『内緒』
「はあ?…んだよ…いや、分かった。次会った時にでも教えてくれよ。服の事は本当に悪かった。もし汚れが落ちなかったらここに連絡くれ。クリーニング代は出すから」
『いいよ、そこまでしなくても』
「俺の気が済まねぇんだよ。じゃ、体調には気をつけろよ」
『うん』
いつものキッドカードに連絡先を書いて渡して来た。それを受け取ると窓を開けて、いつもの真っ白なスーツに戻り、外に誰もいないことを確認して「じゃあな」と飛び出して行った。
閉めるために窓に近づくと丁度高明さんが戻って来る。タイミングばっちりかな。
「おや、起きていたんですか」
『少し暑くて。終わったんですか?』
「ええ、残念ながら取り逃してしまいましたが」
ネクタイを緩めながらソファに座った高明さんにおいでと手招きされて、隣に座る。そのままお膝に頭を乗せられて、膝枕の形になった。
『お疲れですか』
「お疲れです……澪の匂いじゃない…」
『高明さんのお洋服着てますからね』
「…そうだった…」
頭を撫でてあげると高明さんは嬉しそうに目を細める。猫みたいな、犬みたいな。甘えたい時の高明さんはとにかく可愛い。撫で回したくなるってこういう事なんだなぁと思う。
「澪」
『はい』
「今度、下着で膝枕してください」
『…念の為聞きますけど、何故ですか?』
「太ももと胸に挟まれて気持ちがいいからですね」
『変態オヤジのスイッチ入れるのやめて貰えます?』
ああ、これは本当にお疲れなんだなと察する。脳がそっちに向いてしまっているんだ。人間疲れた時、性欲が高まるみたいな事を昔聞いた気がするから、多分それだろう。こっちに来るために長野でお仕事頑張って来たんだろうな。
『とりあえず寝ましょうね〜』
「やってくれないんですか?」
『考えておきます』
「やってくれない…」
『お変態な高明さんにはもう膝枕しません』
「ごめんなさい」
『そう言いながら太ももふにふにするのやめましょうね』
人差し指で太ももをふにふにとつつかれる。ぺち、と手の甲を軽く叩けば拗ねた顔になる。と思えば、上半身を起こして顔を近づけてキスをしてくれる。ちゅ、ちゅって軽いものだったのが、にゅるって舌が入ってきて深いものに変わる。
長い間高明さんに色々と教え込まれた身体で、舌で口内を撫でられただけでも腰がビクビクする。だんだん息がしづらくなって、ぺちぺちと胸元を叩くと高明さんは離れて行く。
「大丈夫?」
『……いじわる…』
「ふふ、ごめんね。そろそろ寝ようか」
座り直した高明さんは、優しく頭を撫でて自分の太もも辺りをぽんぽんと叩く。今度は高明さんが膝枕をしてくれるらしい。そのまま横になって頭を乗せると、「おやすみなさい」と瞼にキスしてくれた。
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